殲滅前夜
続きです、よろしくお願いいたします。
「――お願いしますっ!」
「分かりました……、分かりましたからっ! 貴族候補が、そうホイホイと地面に額を擦り付けないで下さい……」
――『平身低頭』……、四文字熟語って、何だか筆を持って力強く叫ぶと、変身できそうな気がしませんか? と言う事で、僕は今、『火紋隊』の部隊長さんっぽい……と言うか、この『訪問団』での責任者だと言う騎士さんに、頭を下げてます。
――やっぱり、礼儀って大切だよね? 鞆音ちゃん……。
「――はぁ……、持ち主には一応、先程、王城からの使者に手紙を持たせましたから……、『スクト』から帰還した際に、直接交渉なさって下さい……」
「は、はいっ!」
最近……と言っても、この一日の間で、『火紋隊』の人達が僕を見る目が……随分と柔らかく……いや、生温かくなってきた気がする……。
「――タケル殿……、『気がする』では有りません……」
「あ、オルディ。――見てた……?」
流石に『平身低頭』姿は見られたくなかったかな……? ――僕だって男だし……。
「最初から見てましたが……、そもそも何故……、土下座など?」
――そう……、何故、僕が土下座していたのか。
それは、昨夜、僕が自然破壊をしてしまった後に起こった『運命の出会い』が原因だったりする。
僕やフィー、ニムちゃん、バラちゃんが乗る『馬車』を引く、三体の『馬』、『馬』、『馬』……、その内の一頭、二、三人は殺してそうな程、ガラの悪……んんっ……、不憫なルックスの『馬』に心惹かれてしまった僕は、もし可能なら、彼女を引き取りたいと思ってしまった。
勿論、これがかなりの我儘だとは分かっているし、持ち主にとっては、大切な一頭なのかもしれない……。
「――でも、何か……ねぇ?」
何か繋がっちゃった気がするし……。――大根上げたら、『ブナブナ♪』って懐いてくれたし……。
「――はぁ……、タケル殿はどうしてこう……」
オルディは、額に手を当てて、悩ましげに呟くと、「まずは姫様にも話を通しましょう」と、僕を立ち上がらせて、フィーの元へ――。
「あら? タケル様に、オルディ? 如何なさいましたの?」
「姫様……、姫様からも一言仰って下さい……」
そして、オルディは僕が『馬』を欲しがっていると言う事を、フィーに伝える。
すると、フィーは、やはりと言うか……、頬をヒクヒクさせて――。
「わ、わたくしの耳が……悪くなったのでしょうか? 今、『馬』でなくて、『馬』と聞こえた様な……」
「うん、言いたい事は分かる……けどっ!」
――きっと、フィーなら……、僕を好いてくれる程、趣……じゃない、中身を重視してくれるフィーなら分かってくれる筈だ。
ッと言う事で、僕はフィーの手を引っ張って、例の『彼女』の元へと連れていく――。
「ヒッ……、た、タケル様……? ほ、本当に大丈夫ですの?」
「大丈夫……、大丈夫だから、さぁっ!」
フィーは、ガクガクと震えながらも、僕の手に誘われるまま……、大根を『馬』に差し出す。すると、『馬』は……。
「ぶぅなぁ?」
頭に生えた羽をパタパタと動かしながら、「良いの?」と首を傾げる。
「――なっ!」
――予想外ではあったけど……、ここでオルディが陥落したっぽい……。胸を抑えて、「こ、これは……?」と呟いている。
「え、えっと?」
「――大丈夫……、フィー、ひと声かけてから、食べさせてあげて?」
「は、はい……」
フィーは、恐る恐ると手の平に大根を立てて差し出す。
「なっ♪」
そして、『馬』は、昨夜僕に見せた様に、ニヒルな感じで大根を齧ると、「ぶぅなぁぶぅ?」と、頭上の羽をパタパタとさせながら鳴き、フィーの事を、はにかむ様にチラッチラと見ている。
「は……、はぅっ!」
――この時点で、フィーも陥落した……。よしよし……、後は『アルティ』に帰った時に、持ち主さんと話すだけだ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなこんなで、出発前のひと時は過ぎていき、僕達は再び『スクト』に向けて動き始めた。
それにしても……、未だ『来賓扱い』と言う名目で、僕達とは別の馬車の車両に縛られているらしい、マロアさん達はどうしているんだろう?
エスケ達は問題無いみたいな事を言ってるけど、一応、挨拶位はした方が良いのかな? って事を、何気なく聞いてみたら……。
「え~? 向こうに着いて、『暴走』の話がホンマかどげんか分かるまでは、近付かん方がええよ~?」
「そうですわね……、タケル様の場合、下手にお話して、同情してしまったら……」
――どうやら、僕が懐柔されるのは確定らしくて、向こうで事実確認が取れるまで、『僕』は、接触禁止らしい……。これ……、ある意味信用されてるって事かな? ――駄目な方向で……。
ともかく、そんな感じで暫くは休憩を挟みつつ、僕達は進む――。
「――タケル、姫様……、そろそろ例の場所だ……」
――そして、夕暮れ時、いよいよ……、例のルピテス群と遭遇する時が来たらしい……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――少し……、予定より早くない?」
「正直、日が暮れる前にある程度近付きたかったからな……、移動を速めたのだが……」
エスケはそこまで言うと、渋い顔になる……。どうやら、中途半端な時間になってしまったから、少し気まずいらしい。
しかし、そうは言ってもこのままにする訳にもいかないよねって事で、ある程度数を減らして安全を確保した後、『宿結界紋』を張って、明日の朝、殲滅って事にした方が良いらしい。
「さて……、そこで残念な情報だ……、『ルピテス』の群れだが、数が増えている」
「――それって、この辺りに『召喚紋』があるって事かな?」
エスケの報告に、シーヴァ君が尋ねると、エスケはコクリと頷く。そして、そんなエスケの報告を引き継ぐ様に、今度はオルディが机上の『導結界紋』を指差す。
「――数の増え方からすると、非常に活動的な……もしくは、数個の『召喚紋』が予想されます。ここは、今晩のうちは総出で数を減らして、明日、『ルピテス』の増え具合を見て、対策を考えましょう……」
「幸いにして、『ルピテス』の『型』は、『兎型』だ……、『巨大紋』が無ければそれ程の脅威では無いし、『火紋隊』とも相性が良い……直ぐに取り掛かるぞ!」
エスケの合図で、僕達は『戦闘部隊』、『護衛部隊』、『宿結界紋舞台』に分かれて行動を開始する事になった。
「――タケル……、お前は今日は『宿結界紋』の作り方を完璧に覚えろっ!」
――って事で、僕はニムちゃん、バラちゃん、フィーと一緒に『宿結界紋』を描く事になった。
「エスケ君なりに、タケル君の事気遣っちょんのやけん、しっかしせんといけんよ~?」
――とは、ニムちゃんの弁である。
やっぱり、昨日の今日で戦闘に入るって言うのは、僕にとってはデメリットしかないって判断なのかな?
「? だって、タケルの、えぐいんだよ?」
――これは、バラちゃん……、つまり……、大群相手だと、僕が地面を抉る前提って事らしい……。――何か、これが正解な気がする……。
「どちらにしても、タケル様……? お口より、手を動かして下さいな? ――全体図をイメージしながら、地面に描く『宿結界紋』が描ける様になれば、この先『記章』等もやり易くなるはずですわ?」
「――あ、そっか……」
よし、これを正解としておこうかな? ――その方が、励みになるし……。僕もそろそろ、フリーハンドで真円を描ける様にならなきゃね……。
そして、僕は遠くに見える『火紋』の赤い光と、そこで戦っているであろう、エスケや、『火紋隊』の人達に、心の中で「頑張れ」と、無事を祈る。
そして、最後に――。
「オ、オルディさん……、一煮立ちって……、どの位ですかっ?」
「え? ええっと……、取り敢えず、『煮立つ』ですから……、ガッツリ煮込んでみればどうでしょうか?」
『護衛』として、『護衛対象』……、つまり『スクト』の人達向けに料理をしているシーヴァ君と、オルディを見て――。
「え? え? 何か……、お玉が融けましたけど……?」
「――それですっ! 正に『煮立って』いると言っても、過言では無いでしょうっ!」
――心の底から「頑張れ」と、マロアさん達の無事を祈り、僕は線を描き続けた……。
もしかして、展開遅いでしょうか……? メインキャラ残り二人が、未だに出ていない……。




