状況整理と宣戦布告
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
よく分からない内に、よく分からない勝負に勝ってしまった僕は、疲れていたのか、身体に力が入らず、その場にへたり込んでしまった。
「あ、れ?」
立ち眩み程度だと思ったのに、全く力が入らないぞ?
「あ、ご無理をなさってはいけませんわ! あれだけの『術化』を行ったんですもの! 立てなくとも当然ですわ! オルディ! 何か甘いもの、ありませんか?」
フィリアは僕の首に手をまわしながら、オルディさんに声を掛ける。
「ゆっくり舐めろ……」
オルディさんは、ポケットから飴玉らしきものを取り出すと、それを僕の口の中に放り込む。
「あ、ありがとうございます……」
「いや、君には姫様を助けて貰ったからな。これ位、何でもない」
オルディさんは、そう言うと微笑む――うん、イケメンスマイルだな……。
――ガサガサ――
「おいおい……。こりゃ、どういう事だ? ピグエスケ様がやられたって言うのか……?」
音のした方を見ると、そこに教会でオルディさんと戦っていたゴッツイ人が現れる。
「おい! 『マウリス』持ちの姉ちゃん! お前がやったのか?」
身構える僕たちに向かって、ゴッツイ人は大きい声で叫ぶ。
「いや、『マウリス』持ち程度で、アックス家の『コンスタント』持ちに勝てるはずないだろう?」
相変わらず、何の事か分からない……。
「てぇ事は、姫様でございますか? その場合、拒婚の風習である『グラデュア』は成立しませんが?」
「いえ、アックス卿を打ち倒したのはこちらにおられる……。ええっと、こちらの……」
あ、そう言えば名乗ってなかったっけ?
「えっと、板倉武尊です。あ、外国の方には、タケル=イタクラの方が良いのかな……?」
「? えっと、お名前が『タケル』で、家名が『イタクラ』で宜しいのでしょうか……?」
フィリアの問いに「そうそう」と答える。
「――あら? お持ちの『コンスタント』では、『クヨウトモエ』と……?」
「あ、えっと……、僕の国だとそんな感じなんですよ……」
どうやら、僕の名字が『クヨウトモエ』でないのは、この国の人にとっては、違和感があるらしい……。
「では……。アックス卿を打ち倒したのはこちらにおられる『タケル=イタクラ』様です!」
「…………。流石に、坊ちゃんが可哀想に思えてきたぜ……名前も知らない奴の方がマシと思われるとか……」
ゴツイ人はこめかみを押さえてプルプル震えている。
まあ……そうだよな。もし、僕がピグエスケさんの立場だったら……。あれ? 何か、泣けてきた……。
「まあ、何にせよお前さんは、アックス家の後継者に見事勝ったんだ……。同情して泣くより、勝った事を誇れ! 坊ちゃんをこれ以上、惨めにしてくれるなよ?」
そう言うと、ゴッツイ人はピグエスケさんを肩に担ぐと、どこかに行ってしまった。
「さて、そろそろ立てるか? タケル殿?」
ホッとしてたら、オルディさんが手を差し伸べてくれてた。
「あ、そうですね、うん、大丈夫みたいです!」
立ち上がってジャンプしてみるけど、うん、問題無い。
「へえ、回復力も大した物だ」
フィリアとオルディさんが感心した様に僕の事を見ている。
「さて、姫様。この後はどうされますか?」
「そうですね……。やはり、一度式場に戻りましょう? お父様に『グラデュア』の成功とタケル様の紹介をしなければ!」
フィリアは「フンッ」と両手を胸の前で握り締め、何か興奮している。
「しかし……陛下がお許しになるかどうか……」
「大丈夫ですわ! 元々お父様はわたくしの結婚に関しては、余り乗り気ではありませんでしたし! 「フィーは一生パパの傍にいてくれぇ」って言ってましたもの!」
フィリアは「きっと喜んでくれますわ!」と言っているが、今の話からすると……。
「オルディさんの心配事って?」
「お察しの通り、陛下は結婚阻止自体は喜ばれると思いますが……その、非常に娘思いでして」
話によると、今回の結婚は外堀から埋められ、国王もおいそれと反対出来ない状況だったようだ。それを今度はどこの馬の骨とも知らない奴が台無しにしたから……。
「僕……、暗殺とかされないかな?」
「……気を付けて下さい……」
「あ、やっぱり……?」
僕はビクビクしながら、フィリア達に付いて式場まで戻る。
「フィー!」
「お父様!」
式場に戻った僕達を見るなり、白髪の紳士っぽい人がフィリアを呼ぶ。この人がフィリアのお父さんかな?
「お父様、聞いて下さいな? フィーは『グラデュア』を見事、成功させましたのよ!」
「おお、ならばアックスの坊主に、嫁にやらなくても良いのだな?」
お父さんはフィリアを高く掲げながら「ひゃっほー」とはしゃいでいる。
「良し良し……。皆の者! 今、我が娘より報告のあった通り、此度の婚姻は無効とする! 神官長もそれで良いな?」
お父さんの言葉に、一部の人を除いて拍手と共に賛同する。あの辺の渋い顔をしているのはピグエスケさんの関係者かな?
「しかし、陛下? 『グラデュア』の成功と言う事は、新たな夫となるべき者がいると言う事をお忘れでは無くて……?」
「あ、お母様!」
女性の発言に反応し、フィリアはそちらに向かって飛び付く。成程、この人がフィリアのお母さんか……。顔立ちはフィリアに似ているけど、髪が金色だ……。
「フィー……無事でよかった……」
お母さんはそう言うと、フィリアを抱きしめる。
「それで……? そちらの子が?」
「はい、私の真の旦那様! タケル=イタクラ様です!」
その言葉でお父さんはこちらを睨み付け、お母さんはニコリと微笑む。
――どうしよう、これ、早めに訂正しないと駄目な気がする……。
「え、えっと、ですね……」
「あなた! 詳しい話は城に戻ってからにしましょう?」
お母さんの言葉に、お父さんは渋々ながら従うみたいだ。
こうして、僕はなし崩し的にフィリアのお家にお邪魔する事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて……それでは、改めて……。儂がこの国――術式国家アルティの王、ジェネロ=アルティ=シンソじゃ」
「私は王の妻――王妃、ドミナ=シンソです」
「貴方の妻、フィリア=シンソです!」
「姫様の近衛、オルディニス=エクエスです」
体育館ほどの広さの部屋で、二段ほど高い席に立ってフィリア達が自己紹介してくる。僕は先程オルディさんに習ったとおりに、片膝を立てている。
あ、僕も自己紹介した方が良いか。
「えっと、タケル=イタクラです。よろしくお願い致します」
「イタクラ……? どこの国の貴族だ……? 聞いたことがないぞ?」
「いえ、僕は貴族じゃない、です」
「しかし、そなたは『コンスタント』を持っていると聞いたが? 貴族でもないのに、継承紋だけは持っておるなど、聞いたことが無い!」
まただ……。『コンスタント』って何だ?
「あの……? 『コンスタント』って何ですか?」
これ以上、誤魔化せないと思って思い切って聞いてみた。
「うん? そなた……? 『ペル』はどうじゃ? 覚えはないか?」
「いえ……知りません……」
あ、そう言えば……。
「すいません、そもそも……僕、術式国家アルティと言う国名も聞いたこと無いんですけど……?」
そこまで話すと、広間内がざわざわと騒がしくなる。
「静まれ! タケル殿……どういう事か、一から説明してくれるかの?」
そこで僕は今日起こった事を一から説明する――それこそ、鞆音ちゃんに告白して、次の瞬間、目の前にいたのがフィリアだったと言う事まで……。
「つまり……? フィーに告白したのは手違いであったと……?」
泣きそうなフィリアを見てから、ジェネロ様の顔が超怖い!
「貴方……! 抑えて!」
「いや、すまん……しかし、どういう事じゃろうなあ?」
ジェネロ様は髭をさすりながら、何か、考えてるみたい……。
「陛下……少し良いですかな?」
「む? 神官長か……。良い、話してみよ」
そう言われると、神官長と呼ばれたお爺さんは僕の事をチラリと見る。
「恐らくですが、そちらの少年は稀に発生する、偶然が生み出した召喚紋、それも歴史上類を見ないほどの規模の召喚紋によって、どこぞの世界から転移してきたのではないかと……」
「偶然、つまり……世界紋によるものか……考えられることではあるが……」
二人で納得してるけど……僕はさっきからチンプンカンプンだ……。あ、フィリアもそんな感じっぽい。
「確認の為に、そちらの少年に出身国や世界情勢などを確認してみてはいかがでしょう?」
神官長の言葉にジェネロ様は「そうだな」と言って、僕にいくつかの質問をする。
――その結果――
「そなたが嘘を申していないのであれば……」
「この少年は間違いなく、世界紋――それも世界召喚紋に巻き込まれた様ですな……」
先ほどのざわつきが嘘の様に、広間は静まり返っている。
つまり……僕は、地球じゃないどこか、異世界に召喚されたって事?
「まさか……自分が神隠しとか……」
「えっと、まあ、生きてるだけ、良かったのう?」
「貴方……! それはちょっと……」
ジェネロ様が、ドミナさんに怒られてるけど、僕の頭はまだ混乱中だ……。
「うむ……。まあ、意図してフィーを傷つけたわけでも無い以上、そなたは我が娘を本当に善意で救ってくれた恩人じゃ! 帰る方法を探すにしろ、ここに留まるにしろ、暫く住む家なども必要じゃろう? 出来る限りの援助はするゆえ、何でも言ってくれ?」
ジェネロ様は最後にもう一度「我が娘、フィリアを救ってくれた事、本当に感謝する」と頭を下げて、広間の奥――多分私室に戻っていった。
広間にいた他の何だか偉い感じの人達も「頑張れよ」何て言って肩を叩いて励ましてくれる。
「どうしよう……」
援助してくれるのはありがたいけど……何をしたらいいのか、分からない。
「ふむ、何をしたら良いか分からないって顔だね?」
途方に暮れる僕に、オルディさんが声を掛けてくれる。
「オルディさん、あ、オルディニスさんでしたか……」
「オルディで良いよ」
オルディさんは、そう言うと僕の手を引っ張ってまだ俯いているフィリアの所に連れていく。
「あ、タケル様……」
「フィリア……ごめん。言い出せなくて」
僕は最初の告白の時を含めて、ずっと黙っていた事を謝る。
「ほら、姫様……」
「はい……。タケル様……。貴方が謝ることなど、何一つございません。いきなり、見知らぬ地に落とされ、戸惑う貴方様を、わたくしは嫌な婚姻を潰すために利用してしまい『紋章術』を知らない貴方を危険に……! 何と謝ったら良いか……」
フィリアは「ごめんなさい、ごめんなさい」と頭を下げ続ける。
僕も「ごめんなさい」と謝り続け、何だか意地の張り合いになってしまっている。
「クスクス……。二人供謝る事があるのなら、あいこで手打ちとしませんか?」
収拾が付かなくなってきた所でオルディさんがそう言った。
僕とフィリアはお互いの泣き顔を見ながら、吹き出して笑ってしまった。
「そうだね、フィリア、これでおあいこって事で良いかな?」
「はい!」
「それじゃ、改めて、友達になって、くれるかな?」
僕はフィリアに手を差し出す――。
「はい、タケル様……。友達からよろしくお願い致しますわ!」
んん?
「フィリア……? 友達……から?」
「はい、タケル様に想い人がいらっしゃる事は分かりました……。わたくしへの告白が手違いであった事も分かりました……。その上で宣戦布告致しますわ! わたくしはタケル様をお慕いしております。今は友達でも、きっと、振り向いて頂いて、あの告白を今度はわたくしに向けて頂きます!」
そう言うと、フィリアはポカンとする僕に向かってもう一度「友達からよろしくお願い致しますわ!」と言って、握手を交わした。
「クッ……クク……流石姫様……」
オルディさんは僕の背を叩くと「覚悟しておけよ」と言ってニヤリと笑っていた。
――ちょっと嬉しいのが、気まずい……。
次回でやっと術の事などの説明回予定です。
固有名詞とか分かり辛くてすいません。




