王命と見世物
続きです、よろしくお願いいたします。
「ンヴェェェッ!」
「――『マウリス・イチェ・シールド』!」
――長さ二メートルちょっと位、白地に金色の蔓が巻き付いた様な、綺麗な模様をした弓を、ギギギ……と引き絞って、矢を番え無いまま狙いを定める。
「――『イチェ・サギッタ』っ!」
親指付け根から、肘の先まで……、真っ直ぐ引っ張られる様な感触が弾けて、僕の手から弦が離れ、同時に現れた水色の矢が、羊っぽいナニカの群れを目指して飛んで行く――。
「「「「「ンヴェェェッ!」」」」」
羊擬き達は、飛んできた矢を避けると、外した……と思しき僕を見て、馬鹿にする様に鳴き始める。
「狙い……通り?」
「――えぇ……、十分ですわ? タケル様……」
僕が呟くと、すぐ後ろに座っていたフィーが、フッと策士っぽい笑みを浮かべて、そして、そのまま、車輪の無い馬車? の荷台に設置された窓から、背後を走る別の馬車や、馬っぽいナニカに乗っている人達に向けて声を掛ける。
「今ですわっ! ――皆様、一斉にっ!」
すると、僕達が乗る馬車? ――うん、馬車でいいや――の後ろから「うぉぉぉぉ」って感じの怒号が聞こえて来る。
「――タケル……、まずはボキュが続くぞ……、見てろっ! 『コンスタント・シールド』……『コンスタント・テンペスタ・アックス』!」
エスケは、その手に灰色の斧を出現させると、そのまま羊の群れに突っ込む――。
「「「「「ンヴェェェッ!」」」」」
――羊達は、そんなエスケを見て、ケタケタと笑いながら、襲いかかろうとして……。
「「「「「ンヴェッ?」」」」」
やっと、自分達の足が、地面ごと凍っている事に気が付いたらしい……。――ふんだっ! さっき、僕を笑ったから、同情はしないよっ!
「――良い仕事だ……、座学もこれ位、応用できれば――なっ!」
「おおっ!」
エスケが斧を振るうと、羊達の足がすっぱり胴体とサヨナラして、次の瞬間、空に吹き飛ばされる――。あれ? 僕が凍らせる意味あった……?
「――大丈夫ですわ? タケル様……」
「そう……、敵の動きを封じると言う事は――」
フィーのフォローを引き継ぐ様に、オルディが僕とフィーの居る馬車の横を駆けていく。
「――こちらの準備時間が稼げると言う事だっ! 火紋隊……、撃てぇ!」
「「「「――『イグニス・オーア』!」」」」
「――っ!」
――あ、花火だ……。
何て、僕が思ってたら、数十発の火球が、宙に浮いた羊達を撃ち燃やしていく――。どうやら、『接続待機』が使えない人達はこうやって、手数を人の数で補うらしい……と言うか、一般的にはこっちが普通なんだとさ……。
「――た~まや~……」
サヨナラ……羊達、君達の事は忘れない………………食欲をそそる良い匂いだし……。
「姫様っ! 私は、アックス卿、イグニス隊の方々と共に、討ち漏らした『オヴェス・ルピテス』を狩ってきますっ♪」
「はい、よろしくお願いしますわね? オルディ、アックス卿……」
「――お任せ下さい、姫様……、そしてタケル……、今晩のメインディッシュはアレの肉だ!」
「あ……、やっぱり、アレ、食べられるんだ……」
――そんな気はしてた……、美味しそうな匂いだもんね?
僕がジュルジュルリと、エスケ、オルディを見送っていると、そんな二人の背後に、トテテっと付いていく小さな影が一つ。
「お姉さんっ、お兄さんっ、私も行くよっ!」
そして、僕の背後の席――フィーの隣の席から黄色い声が上がる……。
「バラちゃ~ん、ウチの分も頼むけんな~?」
「分かったよ!」
――はい……、バラちゃんと、そんなバラちゃんを応援するニムちゃんです……。そして――。
「うっぷ……」
「大丈夫? シーヴァ君……?」
顔を真っ青にしたシーヴァ君が居たりします……。
シーヴァ君の額に当てていた布を交換すると、僕は『ソルマ・フゥネンム』で、干からびた『オヴェス・ルピテス』を縛り上げ、ドヤ顔を浮かべるバラちゃんと、そんなバラちゃんを褒め称えるフィーと、ニムちゃんを見る。
「――何でこうなったんだっけ……?」
――事の発端は三日前の事だった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おぉっ! フィー♪ よくぞ来たっ!」
久々の王城……、その謁見の間に僕、フィー、エスケが入るなり、ジェネロ様がフィーに飛び掛かって来て――。
「あら嫌ですわ? お父様、はしたないですわよ?」
――ハグを躱された。
「――あなた……、皆の前ですから、しっかりとなさって下さいな?」
「ジェネロ様……、しっかりして下さい……」
「ぬぐぐ……、ドミナはともかくとして……、アックスの坊主にまで叱られるとは……」
ジェネロ様は、エスケを見ると、いじけた様に呟くと、渋々と言った感じで玉座に座る。――どうやら、ジェネロ様はエスケが苦手らしい……。
「恥ずかしいですわ……」
「そう? 僕は、ああ言うジェネロ様、結構好きだけど?」
「――父としてなら良いのだろうがな……」
フィーが顔を真っ赤にしてたので、僕は「気にする事無いんじゃない?」と慰めるが、エスケは複雑な表情を浮かべて呟いていた。――あ、この二人……、水と油っぽい。
「――して……、何の用だ?」
そして、僕達はふくれっ面のジェネロ様にそう聞かれて、ハッとする。――そうだ、僕達はジェネロ様に相談に来たんだった……。
――僕達は、マロアさん達と面会したその後、反省塔から、その足で王城に足を運んだんだ……。まあ、実際には、当事者のマロアさん達、僕達のお付きとして、ノムスさんやスェバさん、好奇心からかニムちゃん、そして、ニムちゃんに捕まった、散歩中のシーヴァ君と、餌付け中のバラちゃんと……、結構な大所帯になっちゃった……。
因みに、今回の場合、事前の申請無しって事で、謁見出来るのは、フィーと、この件に関して、立会いの宣誓? をした、僕とエスケだけ……らしくて、他の皆はそれぞれ、王城の何処かであそ――暇を潰しているらしい。
――っと、それはともかくとして……。
フィーは、ジェネロ様の顔を見て、ごっくんと息を呑むと、静かにその口を開き始めた――。
「はい、是非ともお父様――いえ、ジェネロ=アルティ=シンソ陛下のお耳に入れたい事が御座います……」
そして、フィーはマロアさんと、スクトの件を、僕の『アレ』の件を、オブラートに包みつつ、報告する。
「成程……、これは少し、儂等の動きが遅かった様だな……」
ジェネロ様は、僕に「すまぬ」と言ってくれて、その後に「うむむ……」と考え始めてしまった……。
「――フィーよ……、お前はどうしたいのだ?」
「はい……、わたくしとしては……、この様な事件はありましたが、友好国である『スクト』を、このまま見放す様な真似は……したくありません……」
フィーの「『スクト』を助けたい」と言う言葉で、ジェネロ様は再び唸り始めてしまった。――やっぱり、僕を如何にかしようとした事が引っかかってるのかな?
ジェネロ様は、チラチラとこちらを見ては、「うーん」と唸り続けている。――ちょっとの間、謁見の間にジェネロ様の唸り声だけが響いていたけど……。
「――はぁ……、あなたと言う人は……。――フィー……」
「――はい、お母様……、はぁ……『パパ、助けて!』」
――すると、「うんうん」と唸っていたジェネロ様はバッと勢いよく顔を上げると、物凄い真面目な顔で――。
「宜しい……、ならばフィーよ……、まずはお前が『アルティ』の代表として、『スクト』を訪問するのだっ!」
「訪問……ですか?」
「ウム……、そして、その同行者――兼、近衛として、タケル殿、そして訪問団の護衛として、騎士団の『火紋隊』数名、アックスの坊――アックス卿を連れて行けっ! ――無事、帰国したならば、その手柄を持ってして、多少早いが、タケル殿を、アルティ所属の正式な貴族として迎えようっ!」
「――お父様っ!」
――おぉ? 何か、色々事態が動いていくよ……? でも、急に僕を貴族にするって……、色々国内の反発とか、大丈夫なのかな……?
「――多少強引ではあるが……、以前、フィーから受けた報告のお蔭で、国内の貴族は皆、タケル殿の所属を『アルティ』だと、はっきりさせたがっておったのだ……。しかし、卒業もしておらん、何を為した訳でも無かったのでな? ――頭を悩ませておったのだが……、何か一つでも、手柄や功績を残したならば、貴族達も、まあ、渋々と言った体で賛同するであろう……」
ジェネロ様はそう言うと、チラリとエスケを見て「何よりアックス家の後押しがあるからのう……チッ」と付け加えた。
そして、三日後に出発出来る様にしろと、僕達に告げると、そのまま自室へと向かったみたいだった……。
――あんまりにも、サクサク話が進むけど……、もしかして、ある程度最初から用意してたのかな……?
何て考えながらも、僕は久々にセチェ爺に会いに行く事にした――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――セチェ爺ッ!」
「おぉっ! タケ坊っ!」
「おや? タケル様、もうお話は終わりですか?」
――王城の中庭では、変わらず元気なセチェ爺、そして、セチェ爺と一緒にお茶を飲んでいるノムスさんが居た。どうやら、久々に親子団欒してたらしい。もしかして、邪魔しちゃった……?
「丁度良かったのぅ……、タケ坊や、儂にも『定紋』の『武器化』を見せておくれっ!」
――と、思ったら、子供みたいにキラキラした目でそう言われた。
「――むぅ……、僕が言いたかったのに……」
――ノムスさんは、そんな僕を見ると、「申し訳ございません」と言いながら、苦笑している。
「よし……、じゃあ、張り切っちゃうよっ!」
「おぉ……、頼むぞ?」
――そして、僕達は中庭ではマズイって事で、人払いをした演習場に足を運んだ……。
「――って……、何か、ギャラリー多くない?」
演習場の観覧席みたいな所には、フィー、オルディ、エスケ、ジェネロ様、ドミナ様、ニムちゃん、スェバさんが居た……。
「ほほっ、スマンのう……、何やら話が広がってしもうた……」
ぺろりと舌を出して、「テヘッ?」何て言い出すセチェ爺……。――うん、確信犯……だよね?
「タケル様……、親父が申し訳ございません……」
「いや……、別に気にしてないんですけど……、恥ずかしいと言いますか……」
――良く見れば、知らない……多分、貴族の人も何人かいるし……。
「まぁまぁ、はよ見せとくれ?」
こうして、僕は何だか見世物的に『定紋武器化』を披露する事になってしまった……。




