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閑話1:全てを受け入れて

続きです、よろしくお願いいたします。

「鞆音ちゃん、どうかしたの?」


 ――**君が、私の顔を……多分、覗き込んでる。


「あ、ううん……、何でも無いよ?」


 文化祭の買い出しを終えた私達は、学校に戻る道をテクテクと歩いている……。


 クラスの皆からは、「楽しんできなよ?」「決めちゃいな」何て、からかわれて送り出されたんだけど……、私は正直なところ……、戸惑っている。


「――鞆音ちゃん……? 本……あ、ちょっと待ってて、母さんから電話だ」


「おば……さん……?」


 そう言えば、アレからおばさんの様子を見ていない……気がする。――あれ? アレから? アレって……ナニ?


「鞆音ちゃん?」


「――えっ? あ、何?」


「母さんが、良ければ、鞆音ちゃんも一緒に夕食どう? ってさ……、どうする?」


 ――**君は、私の返答を待っているのか、電話を持ったままジッとしている。


 私は、ゴクリと息を呑んで、静かに頷いた。


「――じゃあ、後で……**君の家に行くね?」


 ――おばさんは? どうしてるんだろう……? 気になる……。


「うん……、待ってるよ?」


 そうして、私は、その場で**君と別れ、取り敢えず自宅まで急いだ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 自宅に戻った私は、制服から普段着に着替えて、姿見に映る自分を見つめてみる。


「――私……、**君の事が好き……なん……だよね?」


 アノ時、私は……、確かに**君とデート――文化祭の買い出しの約束をした……、で、こ、こ、こ……告白も……したし、**君からも「好きです」と、言って貰えた……よね?


「あれ……? でも……、アノ時……? あれ?」


 何だか……、おかしい……、嬉しかった筈なのに……、アノ時の事……いや、違う……、アノ時のナニカを思い出そうとすると……、何だろう……、お腹が空き過ぎて悲しいような……そうだ、求めても、求めても満たされない様な……不思議な感覚が襲ってくる……。


「**君……?」


 この感覚は、彼? を求めているのかな? ――彼は……、**君は、言ってしまえばクラスの人気者とか……、そんな感じだ。


 困っている人は、「可哀想に」と直ぐに同情するお人好し……、アレ……? そう……だったっけ……? 彼は……、困っている人が居たら、「あわわ」って、何とかしようとして……、逆に怖がらせて、困らせてなかったっけ……?


「あれ? 私……、あれ……?」


 ――どうしてだろう? **君に告白……して、お付き合いを……始めた筈で……、幸せな……筈……なのに……。


「あれ? 私…………、寂しい……、悲しい……、あれぇ……?」


 何で……絶望してるの?


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ご馳走様でした、おばさんっ!」


 勝手知ったる『板倉家』の台所で、私はおばさんと洗い物しながら談笑している。


 おばさんは、ニコニコと笑いながら、私に「いつでもウェルカムよ?」と言ってくれてたんだけど――。


「うちの子も、もう少し愛想があった…………あ……ら? 愛想は……あった……わよね? うん……?」


「………………」


 ――首を傾げながら、一瞬……、虚ろな目をしたと思ったら、次の瞬間には、元のおばさんになっていた……。


 この虚ろな目は……、実は、アレから何度か……、学校の同級生や、自宅の姿見で見ている……、それでも……、徐々に少なくはなって来ているんだけど……、私は、自分も含めて、他の人から、その回数が減っていく事に、何でか、物凄い理不尽と、憤りと、悲しさを感じている……。


「さ、入って?」


「はいはい、お邪魔しま~す」


 夕食後、私は何時もの……? うん、何時もの様に**君の部屋に上がり込んで、ゴロゴロとしていた。


 うん、この部屋は変わらない……、変わってない……、微妙な兵馬俑の置物も、ぶちゃいくな、トーテムポールのぬいぐるみも、私の記憶のままだ。――せめて少しはまともなモノをと、私が置いていったシベリアン……ハスキーの……置……物も………………。


「――ちゃん、鞆音ちゃん?」


「あ、ごめんっ! 何?」


「もう……、最近、ぼおっとする事が多いよ?」


「――あはは……」


 ――今、何かを……、とっても大切な何かを……思い出そうとしてたんだけど……。


 私は、その切欠を邪魔した**君に、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、苛立ちを感じてしまった……。――おか……しいな? 好き……だよ……ね?


「でさ……、鞆音ちゃん……、僕も……、そろそろ勇気を出そうかと思う」


「――ん?」


 ――私が「何に対して?」と、問い掛ける前に……、私の視界はグルッと回っていた。いや、正確には、回されていた。


「え? え?」


「僕達……、付き合ってるん……だよね? ――そろそろ……、少しは進展があっても……良いんじゃないかな?」


「………………」


 **君の声は真剣そのもの……、多分、言いたい事、やりたい事は、私の想像している通りなんだろう……。


 私も……、ずっと、それを望んでいた筈……なんだけど……。どうなんだろう?


 **君は、逃げられない程強く、私を押さえつけている訳じゃない……、多分、嫌なら……、まだ待つ……と言う意思表示なんだろう……。


 私は、どうなんだろう? ――分から無い……。


「――抵抗……しないんだね? じゃあ、良いん……だよね?」


 **君の顔が、少し近付いて来る……。


 ――ああ……、このまま、私は**君の事を……、全て受け入れてしまうのかな……?


「…………」


 **君は緊張しているのか、興奮しているのか、少しだけ強く息を吐いて……、その息が私の首筋にかかる。


「――っ!」


「あ、ご、ゴメン……」


 くすぐったくて……、思わず、私がビクッてなると、ベッドと、ベッドに隣接した**君の勉強机がガタガタと揺れて――。


「――あっ……」


 ――不意に、私の目に……、さっきのシベリアンハスキーの置物が飛び込んで来る。


 アレは……、そうだ……、狼っぽい雰囲気とか、鋭い癖に、何だか良く見れば愛くるしい目付きとかが……彼に重なって、コッソリ私が置いていったんだっけ……?


「――鞆音……ちゃん……?」


 ――彼? 彼は……**君? あれ?


 またクラッとして、私はふと、自分の荷物――通学かばんを見る。


 勉強机の上に置いてあったソレは、やっぱり、さっきの衝撃でその中身が飛び出してしまっている……。


 ――そして、かばんの……底の方に入れてあった一冊の……『約束ノート』と書かれたノートが、目に入って来た……。


「じゃ、じゃあ、改めて……、鞆音ちゃん……」


 **君が、再び、私の顔に顔? を近付て来る。――あ、やっぱり……、このまま……、私、**君に、全部、捧げる事になるのかな? 受け入れて……、このまま、お爺ちゃんと、お婆ちゃんになるまでずっと……? うん……、ずっと、小さい頃からの夢だった……。


 ――でも、私の目は……、ずっと、ノートに釘付けになってて……。


「うわっ、ちょっと風が強いね? し、閉めるね?」


 そして、その瞬間、窓から入って来た風でノートがめくれて……、そこに書かれていた文字が……、「デートの約束した」って文字が目に入って来て……、それを見て……、やっと私は……、全てを受け入れる覚悟が出来た……。


「…………鞆音ちゃん? どう……したの?」


 ――どうやら、私は泣いていたみたいだ……。


「………………」


 私は、心配そうな声を出す**君の肩に手を置き、そのまま**君の顔? をジッと見つめる。**君は、それをどう受け取ったのか、「優しくする」と言って、再び近付いて来る。


 そして、私は――。


「――ガッ?」


 ――私は、右手でグッと**の顔を掴み、そのまま力を入れて、**を後頭部から、壁に押し付ける。


「と、鞆音ちゃん? ちょ、ちょっと、これは、初めてとしては、激しいんじゃ?」


 ――そうだ……、私の好きな人は、こんな風に気が弱いし、優しい……。


「え? ちょっと? 怖いよ? ぼ、僕を受け入れてくれるん……だよね?」


 ――そうだよ……? 私は……、全てを……受け入れたんだ……、この……、不可思議不愉快な……真実を……。


「違う……、違うよ……」


「え? 鞆音ちゃん?」


 私の好きな人は……、こんな風に気が弱いし、優しいけど……、誰にも……、そう、私以外の誰にも、それを気付いて貰えて無くて……、クラスの人気者どころか……、無駄に強面なせいで、知らない人からは「怖い人」って言われてて……、ちょっと、バカ犬っぽくて。


 そして、そして、何より――。


「――アンタは誰だっ!」


 ――私の好きな人は……、こんな……、顔も姿も分かんない様な……、白い影(・・・)なんかじゃ……絶対ないっ!

ちょっと閑話です。

定期的に閑話を入れていこうかなと……。

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