簡易遠征終了
続きです、よろしくお願いいたします。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
――米つきバッタ? いいえ、タケルです……。
鞆音ちゃん、お元気ですか? 僕は今、微妙にろれつが回っていない……、舌っ足らずなおっさ……いえ、おじさまに、ひたすら頭を下げています。――貴方は今、どうしているのでしょうか……?
「――おひ……、ぼうじゅ……」
「え? あっ、はい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ひいはら、――っがぁ! 痛ぅ……、良いから、とっとと誰か……、そうだな、ティチでも呼んで来い……、あいつ等は、俺が見ててやっからよ……」
おぉ……、スェバさん……、自分で舌噛んで意識をハッキリさせたのか……、僕にはとても出来そうにないや……。
スェバさんは、目線だけで、地面に蹲っているマロアさん達の様子を伺って、未だ意識を失っている事を確認すると、「サッサと行け」と催促してくる。
僕が少し迷っていると、スッと僕の肩をポンと叩いて、シーヴァ君が口を開く。。
「イタクラ君……、その人……スェバさんの言う通りだよ……、マロアさん達が回復する前に、誰か助けを呼んだ方が良い……」
「シーヴァ君……、うん……、そう……だね」
「あ、やあ、ウチも残っち見ちょるわぁ~、……バラちゃんも心配やし~」
こうして、僕とシーヴァ君とで森の入口まで戻る事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――『リンニューマ・トゥルボー』! よし、イタクラ君、もう少しだっ!」
道中のルピテスを、(主にシーヴァ君が)倒しながら、僕達は森の入口を目指している。――と言うか、シーヴァ君、ヒウさんが使ってた『渦を巻く』、『形状』指定を使いこなしてる……、もしかして、やっぱり僕の勉強不足……?
そんな僕の思考が駄々漏れだったのか、それともシーヴァ君が鋭いのか、シーヴァ君はクスリと笑って――。
「流石に、これは僕も知ら無かったよ……、多分、その内習うのかもね? ――うん、やっぱり、『風紋』との相性が一番よさげだな……」
「へぇ……」
よし、どうやら僕の勉強不足って訳じゃないみたい。――でも、こうして熱心に、学んだ事をすぐ確認するシーヴァ君を見ていると、僕もちょっと、色々頑張らなきゃだよね……。今回も、最後はギリギリって言うか、運に助けられた感じだし……。
「――っと、見えた……、丁度ティチ先生が居るよっ!」
――森の入口では、ティチ先生が不機嫌そうに、腕を組んでいた。
「――遅いっ! イタクラ、リンニューマっ! お前ら何を…………って、コンソラミーニと、バラはどうした……?」
「ヒッ! す、すいません、すいませんっ! じ、実は――」
ティチ先生の剣幕に、僕は再び米つきバッタへと変身する……。
――それでも、何とか、しどろもどろになりながら、シーヴァ君と一緒に、今回の簡易遠征中に起こった事、『カーニェス・ルピテス』が出ていた事、『マロア=インチンスゥマ』を始めとした『スクト国』の面々に攫われそうになった事を説明し終える。
「――ふむ……、妨害ありとは言え……………………。――分かった、この件は学校で預かろう、取り敢えずは、そのインチンスゥマ達が居る場所まで案内してくれ……」
「「はいっ!」」
こうして、僕達は、今度はティチ先生同伴で、森の中――ニムちゃん達を置いて来た辺りまで戻る……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――あ~、タケル君、シーヴァ君、お帰り~、遅かったや~ん? 何しちょったん?」
「――モッキュモッキュ……」
「おう……、坊主、この嬢ちゃん達……、大物ダゾ……」
――僕と、シーヴァ君、ティチ先生の三人が、ニムちゃん達の元に戻ると、そこはよく分からないパーティ会場と化していた……。
まず、ひたすらに口をモグモグと動かすバラちゃんと、その口が空くと何かを放り込むニムちゃん……、そして、何故か濃い目の口紅と、アイシャドーで彩られた化け――スェバさん……。
「えっと……、何してるんスか……? スェバ先輩……。――後、コンソラミーニも……」
「ん~? ルピテスも来んくなったけん、ちぃ~と、暇つぶししちょったんよ~?」
「ティチか……、見りゃ分かんだろ? 「何してる」……じゃなくて、「何されてる」だ……、お前の生徒……、心臓に毛でも生えてんのか?」
「――え?」
ニムちゃんと、スェバさんの視線を追って、良く見てみれば、周りには沢山の干物……ルピテスの死骸が転がっていた……。
「うわ……、ラビだけだけど……、こんなに……」
「――よく無事だったね……、ニムちゃん……」
ティチ先生が唖然とした表情を浮かべ、シーヴァ君と僕は、多分、ドン引きした表情になってるんだろう……。
ニムちゃんは、まるで悪戯が成功した子供みたいに、ニッコニッコと笑みを浮かべながら、「んっふっふ♪」と左右に揺れている。そして――。
「――あ、そうやんな~、タケル君達も帰っちきたし、もうええよね~? ――『マウリス・インアージェント』~!」
ニムちゃんがそう言うと、僕達の周囲からパチンッと、何か――チラリと目に入った限りでは、多分、何かの『オーア』が、シャボン玉みたいに弾けてる。
「今のは……?」
「う~ん? タケル君のを真似っこしちな~? 『テレモートス・オーア』で進入禁止の『柵』を作っちみた~♪ 何かな~、煙吹いちょったで~?」
――おぉ……、あの大量の干物は……、ソレに触れて水分が飛んだ『ラビ』の成れの果てって事か……、ニムちゃん……、さり気なくえげつない……。
「そ、そうか……、良くやった……な?」
こうして、ニムちゃんが、ティチ先生やスェバさん達を戦慄させる程の、成長を遂げるハプニングはあったけど、取り敢えず、マロアさん達『スクト国』の一行は、学校の結界紋付き反省室に入れられる事になり、後日事情聴取する事になったそうだ。
因みに、バラちゃんに関しては――。
「すかんたらしいわ~、バラちゃんに酷いこつしたら、女子達皆、せんせーの敵になるけんな~?」
――と言う、ニムちゃんを代表とした(さり気なくフィーと、オルディも居た)、『ファンクラブ』の手によって、反省室行きを却下された。バラちゃんに関しては、女子達が監視――と言う名の愛護――をすると言う事で収まったらしい……。
そして、僕はと言えば……。
「――事情は聞いた……」
スェバさんと共に、エスケ、フィー、オルディに詰め寄られていた。
「色々あって、大変だったろう……」
「……エスケ……」
エスケは、僕の肩に手を置いて、「うんうん」と頷いて、今回の事件に関して同情してくれているみたいだ……。
見れば、フィーや、オルディも「うんうん」と頷いてくれている。――ああ……、つくづく、周りの人に恵まれていると実感出来るよ……。
「タケル様……、わたくし達の対応が遅れたばかりに……、申し訳ございません……」
「……フィー……、大丈夫だよ? フィーのせいじゃないし、僕はこうして無事だし……」
「タケル様……、ありがとうございます……」
そして、フィーが涙ぐんで、僕の胸に飛び込んで来て……、ギュッと抱き付いて来た――。
「――まぁ……、ソレはソレとして……だ、タケル……」
――その時、エスケが「コホンッ」と咳払いをして、そう言ってきた。
「ん? 何?」
――あれ? 何か、フィーの締め付けが……、強い……、強いよ? 後、何でちょっと、笑ってるの? 「クフ」って、お姫様がやって良い笑い方じゃないと思うよ?
「ちょ、ちょっと、フィー? フィーさん? フィーちゃん?」
そんな僕に構わず、エスケは話を続ける――。
「――『賭け』は……、ボキュ達の勝ち……で、良いよな?」
「――え? は? え、ちょっと……?」
「も、申し訳ありません、タケル様っ! わたくし、わたくし、どうしても、スェバさんがお持ちでいらっしゃると言う、タケル様の就寝中『お写紋』が欲しいんですのっ!」
「え? 『お写紋』って何さっ! ちょっと、フィー? お、オルディっ、助けて!」
「すいません、タケル殿……、姫様の「お願い」には、私は逆らう事は出来ません、大人しくお肉と『お写紋』を差し出すのが、吉ですよ?」
――こうして、僕は無慈悲な徴収によって、食と……よく分から無いモノを奪われる事になってしまった……。――『お写紋』って何さっ!
因みに、スェバさんは、ずっと肩を震わせて、笑いを堪えていましたよ……。
――鞆音ちゃん……、人は、『賭け事』で身を崩す……、これは『世界』を飛び越えても共通の教訓みたいでした……。
ああ……、やっと思い出して来た。
これからは、なるべく毎日か、二、三日間隔で投稿出来そうです。
楽しんで頂ければ、幸いです。




