初めての……
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
「――きです。恋人になって下さい!」
僕は頭を下げて、手を前に差し出す。所謂「お願いします」状態だ。
――あれ? どういう事だろう? あの流れならすぐに、握り返してくれると思っていたのに……。
もしかして、これが父さんに聞いていた噂の「ちょっと待ってコール」なの?
僕はゴクリと喉を鳴らす。鞆音ちゃんも緊張しているのか同じ様にゴクリと喉を鳴らす。
やがて、差し出された僕の右手を柔らかい手でそっと握り返す感触が……!
「えっと、よろしくお願い致します」
その言葉に僕は思わず顔を上げた――。
「えっと、あれ? 誰?」
僕の目の前には鞆音ちゃんではない、別の女の子がいた。
年齢は、多分僕より下か、同じ位……? 髪は赤に近い茶色で、白いドレスを着ている……と言うか、僕の勘違いじゃなければ、これってウェディングドレス……?
「さあ、どうかわたくしを奪って下さい!」
え、あれ? どういう事なの? 鞆音ちゃんは一体どこに行ったの?
そんな僕の疑問を他所に、目の前の女の子は僕の手を引き、恐らく結婚式会場である、教会の様な場所から出ようとする。
「ふんっ! 懐かしい風習を利用する輩がいようとはな……」
風習……? 何それ!
オロオロする僕を除け者にして、状況はドンドン進んでいく。
「姫様っ! こんな秘策を用意していたのですね! 私もお手伝いいたします!」
多分、式の参列者、なのかな? 黒いドレスを着た女性が大きな剣を持って、その背中で僕らを庇う様に立ち、豪快に笑っている。
「どこの誰だか知らんが、中々に面白い! だが、そう簡単に事が運ぶと思うなよ! 『ヴィントス・アージェント』……『ヴィントス・ヴァート』! 『ヴィントス・パーピュア』!」
その瞬間、僕の目に信じられないモノが映る――。
僕らの前に立ち塞がったゴッツイ男性が何かを叫ぶと、その手から緑の風が巻き起こる。それが、『×』の形を取ってこっちに向かって来ている。
「――っ!」
「押し通る! 『ソルマ・アージェント』……『ソルマ・セーブル』!」
これは駄目だ! 死ぬ!
僕が諦めかけたその時、僕らを庇う女性が相手の男性と同じ様に何かを叫ぶと、地面が盛り上がって、女性を含めた僕たちを格子状に包み込む。
「ちっ! 良い反応じゃねぇか……」
「まだっ! 『マウリス・テレモートス・アージェント』……『テレモートス・オーア』!」
女性が続けて叫ぶと、何か「ブブブブ……」と音がする。
「くそっ! 『マウリス』持ちか!」
男性が焦る様に叫ぶと、何かが男性に当たり、弾ける。
男性はそのまま、目をグルンと回すとその場に崩れ落ちてしまった。
「今ですっ! 姫様っ! そこの線です」
「はい、ありがとうございます。オルディ!」
相変わらず状況に着いていけてない僕を引っ張って、姫様と呼ばれていた女の子は線の向こう側にジャンプする。
「やった! 越えましたわ! これで、政略結婚とはおさらばですわ!」
「あの……、はしゃいでいる所に申し訳ないんだけど……。そろそろ、状況の説明をして貰えない……かな?」
「あ、あら……。わたくしとした事が、失礼致しました」
両手を頬に添えて恥じらう女の子は、ポツポツと状況を説明してくれた。
まず、僕が結婚式と思った事は正解である。
但し、女の子――フィリアというらしい――は望んでいない、政略結婚である。
相手の男性は、権力と金で威張り散らす、いけ好かない人物である。
フィリアは正直、先程まで人生を諦めていた。
そこに、僕が突如現れ、交際を申し込んできた。
フィリアは僕を見て、割かし好みの顔である事と、相手の男性よりましかもと思い、咄嗟に古い風習を利用する事を思いついた。
その風習とは、結婚式に乗り込む度胸のある男性の申し出を新婦が受け入れ、二人で無事に式場の敷地――線で囲ってある――から脱出できれば、その結婚は無効となり、度胸ある男性と新婦であった女性の婚姻が認められると言うものらしい。
「えっと、つまり……僕は?」
「はい、わたくしの夫となりました!」
え、何それ? 僕、さっきまで鞆音ちゃんと恋人になる流れだったじゃん! 混乱する僕を見ながら、フィリアはキラキラと僕の事を見つめてくる。
「但し――女性が貴族以上である場合、相手も相応の力を求められる、と言う事をお忘れではないかな?」
そんな僕らに声を掛ける、タキシード姿のふくよかな男性――。
「グッ……! 姫様、申し訳、ありません……」
男性はその手に掴んでいたボロボロの女性――オルディさんをこちらに投げて寄越す。
ああ、ごめんなさい、僕が花嫁さんを奪う形になっちゃったからか、物凄く怒っているみたいだ……。
「姫様? ボキュはこれでも長子――『コンスタント』継承者ですよ? 姫様にはこの国の跡継ぎとして力ある、最低でも『マウリス』を持つ者との婚姻が必要である事は理解しているでしょう?」
そう言われたフィリアは、俯き、必死で言い返そうと考えている様だった。
って言うか、さっきから『コンスタント』だの『マウリス』だの訳が分からないよ……。
「で、でも、この方から感じる|『力』は……!」
「確かに『力』は感じます……しかし、重要なのは『力』よりも、『紋章』を継承しているかどうかです! ボキュはそこの男の様な貴族は見た事が御座いません……。『力』があっても、強力な『紋章』を持たなければ、我が国の未来は真っ暗です」
そこまで聞くと、フィリアは涙を浮かべ、フラフラと男性に向けて歩き出す……。
未だに状況が飲み込めないけど……。僕はどうする? どうしたいんだろう……?
「フンッ……『ペル』しか扱えない平民如きが……! 命を見逃してやるだけ有難く思え!」
フィリアは男性の目の前まで進むと、僕に向かって振り返る。
「すいません、私の我儘に付き合わせて、命を危険に晒してしまいました……。どうか、この事は忘れて、健やかに……」
「ぐぅ……、姫様……」
オルディさんも、何かを諦めたように歯を食いしばっている。
どうする……。どうしよう……。
足が震える。僕は、見た目が怖いらしいけど、正直、喧嘩とか、怖くて仕様がない……。
でも、泣いてる女の子をそのままにして良いのか? そんな情けない事をして、鞆音ちゃんと向き合えるのか?
「出来ない……よ」
気が付けば、僕はフィリアの腕を掴んでいた……。
「え……?」
そのまま、力を込めて僕はフィリアを引っ張る。
まだ、足は震えてる……。さっきの変な現象を目の前の男性も起こせるなら、きっと僕はボコボコにされちゃうんだろうな。
「ぼ、僕は……」
多分、ボコボコにされる方が、このままフィリアを見捨てるより、よっぽど良い! 自分の為にボコボコにされる僕を見なきゃいけないフィリアには申し訳ないけど……。
「僕は……後悔したくない!」
「この小僧……! 折角見逃してやろうと思っていたが……平民如きが! 『コンスタント・シールド』……『コンスタント・イグニス・アックス』!」
男性が叫ぶと、先程までとは違ってその手に火の刃を持つ斧が現れる――。
「アックス家の紋章継承者、ピグエスケ=アックス様に無礼を働いた罪――死をもって購え!」
上段から一気に斧が振り下ろされる――。
「ひぃ!」
咄嗟に横に避ける。ピグエスケと言った男性は、ニタリと笑うとゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「嬲り殺しだ……」
次々と襲い来る刃を必死になって避け続ける。
「もう、もう良いのです! どうか、お逃げになって! アックス卿! 私が悪かったのです! どうか、その方を見逃して上げて!」
それでも斧は止まらない――。確実にネットリと、僕を仕留めにかかっている。
「くぅ、この馬鹿者……。せめて『ペル』で応戦くらいせんか!」
オルディさんが、ふらつきながら僕にアドバイスをしてくれる、けど……!
「さっきから……『ペル』って何さ!」
「はっ! これは良い! まさか平民の上に『ペル』すら知らないとは、どこの田舎者だ!」
僕の無知を知ったせいか、斧は余計に僕をスレスレで掠めだす。
フィリアは僕の言葉を聞いて呆然としている。
「な……。ああ、もう! さっきから、私や、そこの斧使いが詠唱しているだろう!」
えっと、さっきから……? と言うと、なんちゃら・アージェントとか言ってる奴か?
僕は頭上を掠める斧をやり過ごして、大きく距離を取る。
「フン……。何だ? 平民如きが『ペル』で私とやり合おうとでも?」
正直、落ち着いて状況整理したいけど……。
「神様仏様……鞆音ちゃん! 僕に力を貸してください! えっと、何だっけ? 『コンスタント・アージェント』!」
僕の叫びを聞きながら、ピグエスケさんが腹を抱えて噴き出す。
「はっ! 馬鹿かコイツ! 平民如きが貴族にのみ代々受け継がれる『紋章』を持っている、わ、け、が……」
もう駄目だ――。そう思った僕の眼の前には、一つの紋様が浮かび上がっていた。
確か、墓参りで見た事ある……。うちの家紋の――。
「九曜……巴、だっけ?」
僕の眼の前に浮かぶ、家紋――中央の三つ巴に周囲八つの三つ巴で構成された九曜巴は、ゆっくり、クルクルと回っている。
「えっと、どうすれば……?」
「っ! 馬鹿! 良く聞け、その紋章の名を告げてその後に、『オーア』だ!」
「え? え?」
えっと、紋章の名前だから、『九曜巴』……だよね? で、その後に続けて『オーア』だっけ?
「さ、させるかぁ!」
「うわっ! えっと、『クヨウトモエ・オーア』!」
僕が叫ぶと、家紋が回る速度を上げる。
すると、中央と周囲の三つ巴から、丸い、黄金色の球が勢いよく発射される――。
「な、速――! ぎゃぁあぁぁあああぁあぁ!」
球はピグエスケさんに当たり、そのまま彼に(恐らく)電気ショックを与えている。
やがて、黒焦げになったピグエスケさんはピクピクッと手足を震わせ地面に崩れ落ちた。
「えっと、勝った……?」
「い、今の紋章は……一体?」
状況がよく分からないけど、どうやら僕は勝ってしまったみたいだ。ありがとう、神様仏様鞆音様!
オルディさんは、僕の家紋が気になっていたみたいだけど、正直何でって言いたいのは僕の方なので、愛想笑いで返しておく。
「ほ、本当に、勝ったんですの……? わたくし、あの豚のお嫁さんにならなくて、良いんですの?」
フィリアは目をパシパシと瞬かせ、自分の頬を抓っている。
オルディさんを見ると、うんうんと頷いている。どうやら、フィリアはお嫁に行かなくていいみたいだ……。
「うん、好きな人と結婚しなよ……」
僕がそう言うと、フィリアはポロポロと涙を零し――。
「では……、よろしくお願い致します! ダーリン!」
僕に抱き着いてそう言った――。
不定期と宣言したけど、そんなに間をあける必要もないなぁと。
書け次第、投稿します。




