対立
需要は無さげですが、続きです、よろしくお願いいたします。
「ちょ、ちょっと待って、マロアさんっ! どうせなら、一緒に行きましょうよっ?」
――先程、僕の耳元にスェバさんが、どうやったのか声を伝えて来た。
その内容は………………「マロア=インチンスゥマを逃がすな」だった……。非常に疲れていたのは分かるんだけど……、耳元で「はぁ」とか連発されると、ちょっと……、ちょっとだけ……、気持ち悪い。
そんな訳で、こうしてマロアさんに声を掛けているんだけど……、正直、僕の心臓が持つかどうかが分から無いよ……ドキドキが止まらない……、腹芸って奴……、後でフィー辺りに習おうかなぁ……。
「――え? あ、あら? た、確か……」
――どうやら、僕が呼び止めるとは思っていなかったのか、それとも、まだ僕に暗殺の件がばれていないと思ったのか、マロアさんはあからさまにほっとした様子だった。
「あッと……、はい、タケルです。もう一度言いますけど……、さっきみたいに、予想外のルピテスが、また出ないとも限りませんし、出来れば、僕達と一緒に行きませんか?」
これは……、もうひと押しかな?
「アレ、マジデェ、ヤヴァカタヨ……、ウァタァシィ、イショイク、サーンセーイ」
「そう……ですね……、自分もそう思います……」
すると、マロアさんの班員であるベルーガさんと、ダーラさんからも同意するとの意見が持ち上がっている。――どうやら、ダーラさんは何か思う所がありそうで、何だかヒウさんの事をチラチラと見ている。
すると、それまで黙っていたヒウさんが、フッと口を開けて――。
「――良いんじゃないか?」
――そう答えた………………えっ? それだけ?
「…………分かりました……、タケル様、よろしくお願い致します」
どうやら、僕にとってはそれだけ? でも、マロアさんにとっては、決断するに足る一言だった様で、無事、マロアさん達は僕からの提案を受け入れてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ん~……、別にぃ……、構わんでけど、一言言うち欲しかったな~?」
突然走り出し、マロアさん達と同行しようと提案する……と言うか、決めて来た事を告げると、ニムちゃんは頬を膨らませ、いじけた様にバラちゃんの口に飴玉を放り込み始めた。
「うん……、そうだねぇ……、俺も、走り出す前に一言欲しかったかな?」
「ん? わひゃひは、ひいははほひっひょ――んぐ、一緒なら別に良いよっ!」
うん……、取り敢えず、バラちゃん以外はちょっと……怒ってる……かな? スェバさん……、どうしたら良いと思います?
――と、何となく、木の上を見ると……。
「――(土・下・座! 土・下・座!)」
口をパクパクと動かして、手を叩く動作をしながら「土下座」コールをしているスェバさんが、そこに居た……。もしかして……、土下座って万国って言うか、全次元? 共通なのかなぁ……?
――よしっ!
「ゴメン……皆、ちょっと、あんな事があったから、つい、気が動転しちゃって……」
取り敢えず、こんな感じでどうですか?
「………………チッ……」
あれ? 今、ここまで聞こえてきましたよ? ――何ですか? 僕の土下座が見たかっただけだったりしますか?
――と、僕がスェバさんとやり取りしていると、ニムちゃんとシーヴァ君が、クスクスと笑い合っていた。
「うん、ええよええよ~……、ウチ達もちぃ~と意地悪やったね~?」
「――そうだね、俺も、あの班を放っておくのはちょっと、心配だったんだ……」
――どうやら、皆、反対するつもりは無かったみたいだ……、うん……、やっぱり、僕は班員に……いや、友達に恵まれたみたいだ……。
まさか……、異世界に来て……、漸く友達に恵まれるなんて……、縁って言うのは不思議だよね……鞆音ちゃん……。
ふと、物思いにふけって空を見上げると……………………。
「ふぁぁぁ……」
――ごろ寝するスェバさんがいた……。
スェバさんは、僕が見ている事に気が付くと、「シッシッ」と、まるで犬を追い払うかの様に、マロアさん達と行け、と急かしてくる。
「うん……、じゃあ、皆、帰ろうか?」
そして、僕達は森の出口を目指して歩き出した……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ひいさま、ひいさまっ! 足痛くない? 大丈夫?」
「え、えぇ……、大丈夫です……」
――どうしよう、この状況……。
さっきから、バラちゃんのお尻に尻尾の幻覚が見えるようだよ……。
「――あ、そうだ、帰ったら頑張って任務ぐっぐぐ……」
「君……、あまり喋ると危ないよ?」
尋常でないほどの汗を流しながら、ダーラさんはバラちゃんの口を、手の平で塞いでいる。
――僕としては、この……地雷原を歩く様な道中は……、勘弁して欲しいんだけど……。
「………………」
「――はぁ……」
木の上のスェバさんが、親指をグッと立ててる……。――もう、あの人開き直って、楽しんでるよね……?
こんな感じで、はしゃぐバラちゃんと、その様子にハラハラドキドキする、僕とマロアさん達『スクト』の貴族さん達……。――何で、敵? と、僕が同じ気持ちを抱いてるんだろう? 何だか、このまま仲良くなれそうな気がしてきた……。
――と、思ってたんだけど……。
「も、もぉ耐えられませんっ! あ、あたくし、もぉ限界ですっ!」
この生殺しの様な状況に、遂にマロアさんが耐えられなくなったらしく、その場に蹲って頭を抱え始めてしまった。
「え? え? ひいさま、どうしたの?」
「あ、あなたっ! 本当は、アルティにねがえったんでしょう? そうなんでしょう? ――で、なければ、こんな……、こんなぁぁぁっ!」
「――姫っ!」
「ひ、姫様?」
突然、泣き崩れてしまったマロアさんにの傍に、ヒウさんと、ダーラさんが駆け寄って、ベルーガさんが、ボーっとそれを見ている。
そして、僕もベルーガさん同様に、泣き崩れてしまったマロアさんに呆気に取られていると……。
「なあなあ~……、タケル君……、あんし達、どげんした~ん?」
「――何か、訳アリだったりする?」
ニムちゃんと、シーヴァ君が、僕にコッソリと事情を聴きに来た。――さて、どうしようかなぁと、考えていると、ゆらりとマロアさんが立ち上がって、こちら……、僕と、バラちゃんを強く睨み付けていた……。
「うふ……、うふふ……、そうです……、最初からあたくし自身が出向けば良かったのですよ……」
多分……、混乱しているんだろうけど……、マロアさんは、ぺろりと舌なめずりして、僕を睨み付けたまま、その手の平をこちらに向けている。
「ヒウ……、ダーラっ! ここで仕掛けますっ! 彼等の意識を刈り取って……、『スクト』に連れ帰りますっ!」
「――『ヴィントス・アージェント』!」
阿吽の呼吸と言うのは……、こう言う事を言うのかな…………?
マロアさんが、最後まで言い切る前にヒウさんが、自信の前に緑色の紋章を出現させ、僕達を睨み付けているっ!
「――なっ! マロアさん、ヒウさんっ! これは一体、どう言う――」
「――『ヴィントス・トゥルボー』!」
シーヴァ君が驚きの声を上げる暇も無く、ヒウさんの手から、緑色の風が……渦を巻いて襲い掛かって来た……。
「えっ? そんなの聞いて……無い……よっ! 『イグニス・アージェント』!」
「――イタクラ君っ?」
咄嗟に、僕はシーヴァ君の前に立って、赤の紋章を盾代わりにしてヒウさんが放った風を防ぐ……。――まさか、そんな『形状』指定が出来るなんて……っ! もう少し勉強頑張るんだった……。
「――見事……」
僕が今の攻撃を防いだ事が意外だったのか、ヒウさんはそう言って、小さく拍手してくれている……いや、違う、嬉しくなんかないっ、ないッたらないっ!
「あ……、あわわ~……、タ、タケル君、シーヴァ君、しょわなあ~? 怪我は無~い~?」
「ニムちゃん……、大丈夫……だけど……」
「――俺も……大丈夫、だけど……、バラちゃんが……」
――見れば、バラちゃんは僕達と、マロアさん達の間でオロオロとしている。ああ……、この子、本当に……、刺客とか向いてないよなぁ……。
「ふ……ふふふ……」
「………………」
「何か……ゴメンね?」
そして、僕達は、森の出口まであと少し……と言う所で、マロアさん達と戦う羽目になってしまった……。




