森の中へ
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
「――スェバさん……スェバさん……」
――森の入口で他のクラスの到着を待っている間を利用して、僕は隠れているスェバさんと話をしに来ていた。
「んだよ……坊主。見つかんだろうが」
スェバさんはそう言うと、すっかりとやる気を無くした様に、酒瓶と干し肉で一人酒盛りをやっていた。
「いや、その……あの子の事で相談したくてですね……」
あの子――バラちゃんがどう考えても僕を襲った犯人なんだけど……。
「何か……もう、いたたまれなくて……」
「だろうなぁ……俺ももう帰ってのんびりしてぇよ」
どうにも、バラちゃんは襲撃の件を隠す気が無い様に思える――んだけど、本人はばれていないつもりっぽいんだよなぁ。
「でも、今さっき知り合って、話したばかりですけど。何と言うか、その……」
――襲撃の時、ズボンを下ろされそうになった事を思い出し、顔が熱くなる。
「――そこなんだよなぁ……あの嬢ちゃんの背後に誰かいるっぽいんだよ……」
「つまり、バラちゃんは誰かに騙されているって事ですか?」
「ああ、あの嬢ちゃん、平民だろ? ――たまにいんだよ、「貴族のxx」は美味いだとか、不老長寿の妙薬だとか言う噂を信じちまう奴がよぉ……」
ああ、何か三蔵法師とかもそんなんだっけ? 良く覚えてないけど。
でも……それって、つまり。
「えっと、バラちゃんは騙されて、その、僕の『xx』を食べようとしてたって事ですか?」
そう言えば、「味見」って言ってたような。
「――まあ、そう言う事だろうな」
「うわぁ……。あ、でも、どうなんでしょう? 僕が見た限り、バラちゃんってそう言う事に疎そうな気がするんですけど?」
「俺から見ても、そう感じるぞ? 多分、何か丸め込まれたんじゃねえか? 「女の子が弄れば、美味しいモノが出てくるぞ」みたいな感じでな?」
うわぁ……。それで騙されるのもどうなんだろう……? 流石に無いと思うけど。
「ところで……また襲われますかね?」
――同じ班だしね……。
「――さっきの嬢ちゃんの反応だと、三大国家以外の小国が、強力な『定紋』を求めての苦肉の策って感じだったからなぁ……追い詰められて、別の刺客を寄越して来ると思うぜ?」
もうウンザリだよ。と考えていたのが表情に出ていたのか、スェバさんは「まあ、警護してやるからさっさと戻れ」と言って、僕を追い出してしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あら~? タケル君、遅いや~ん!」
森の入口に戻ると、ニムちゃんが大層ご立腹でした。どうやら他のクラスも揃い、後は僕が戻れば説明開始、と言う事らしい。
ティチ先生からも軽く怒られ、僕は地味にへこみ、班のメンバーに頭を下げた。
「はは、気にしないでも良いよ?」
シーヴァ君、何て優しい……。
「もう、逃げられたかと思っちゃったよ!」
バラちゃん……狙う気満々ですね? ――スェバさん、僕、知らない振りするの、そろそろ限界なんですけど。
「皆、先生ん話、ちゃんと聞かんといけんよ~?」
「あ、そうだね、ゴメン、ニムちゃん」
集まった僕達生徒に対しての説明は、先程教室でティチ先生が説明してくれた事とほぼ同様だった。
つまり、札を取ってくれば良いんだよね。その辺、肝試しみたいな感じかな?
僕が班のメンバーと一緒に準備運動をしていると、フィーとオルディとエスケが陣中見舞いにやって来た。
「調子はどうだ?」
「うん、結構いいよ!」
「タケル様、今回ばかりはフィーも譲りませんわ!」
「……姫様に同じく!」
――うわ、エスケだけじゃなくて、フィーとオルディまでやる気になってる……。何でさ?
「ふ、ふふ……この二人にやる気になって貰うのは、骨が折れたぞ?」
「――っ! なるほど……やる気だね?」
多分、エスケが勝ったら、フィー達にも何かうま味があるんだろうな。
「はい、それじゃあ準備できたか?」
談笑――と言う名の前哨戦を行っていた僕達の……戦いの幕が上がる!
「よーい……スタート!」
――その瞬間、大量の紋章が浮かび上がる!
「えっ! なに?」
「タケル君~? ちゃんと防がないけんよ~?」
僕を目がけて飛んできた火球を、水球で相殺すると、ニムちゃんが人差し指を立てて「めっ!」と言って来た。
「――これ、もしかして……?」
「そう、妨害あり、だよっ!」
次々に飛んでくる術を、シーヴァ君が弾く。
「だよ? だから、君も……頑張って、っと!」
バラちゃんも慣れたもんだな……。
「――分かったよ……『イグニス・アージェント』!」
赤い紋章を出して、そのまま盾として使う。
「おお~。そげな使い方もあったんやね~?」
そして、僕達四人は周囲からの攻撃を『アージェント』状態の紋章で防ぎながら、森の中に入った――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふう、ここまで来れば一先ずは安心かな?」
シーヴァ君が息を切らしながらその場に座り込む。
「い、今のうちに……現在地の確認でもする?」
更に息を切らして、僕は地図を広げる。入口から真っ直ぐに走って来たから、方角は良いと思うんだけど。
「どの辺なんやろうね~?」
「……」
しまった……僕達、誰も距離までは分かんないや。真っ直ぐ進み続ければ、いつか辿り着くかな?
「ん、大丈夫だ……」
そう言うと、僕から地図を受け取ったバラちゃんが、太陽と地図、そして周りの木を見ながら、何かを地図に書き込んでいく。
「――大体、今この辺」
バラちゃんが示した場所は、森と札のあると言う場所を結んだ線の三分の二位の場所だった。
「森とか、お父さんと良く入ったから……大体、分かるよ?」
「「おおっ!」」
僕とシーヴァ君が声を揃えて、褒め称え、ニムちゃんが飴を放り込むと、バラちゃんが嬉しそうにはにかんだ。
「じゃあ、行こうか!」
――こうして、僕達四人は森の中を進み始めた……。




