襲撃と撃退
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
「うう……眠いよう……」
――あれから数日、未だに僕はチリチリする感覚に襲われ、寝苦しい夜を過ごしている……。
「タケル君、大丈夫~? ここで寝る~?」
ニムちゃんが不安そうな顔で僕の顔を覗き込んでくる。
――あの試験の翌朝、何事も無かったかのように登校して来たニムちゃんは、一緒に危機を潜り抜けた連帯感から何かと気に掛けてくれる様になった。
「うん……でも、眠い……」
一応、ノムスさんが寮の警備に手を回してくれたんだけど、何かイマイチ効いて無いっぽいんだよね。
お蔭で、フィーやエスケまで心配して僕の部屋に泊まるとか言い出すし……。
「すかんたらしいわぁ~。今日はこん間ん森の、もうちょこっと奥まで簡易遠征やし……保健室で寝かせて貰ったら~? 眠いまんまじゃと、怪我するで~?」
あ、そうか……その手があったか。真っ昼間っからは、流石に……襲って来ないよね?
「ん……じゃあ、そうする。先生には上手く言っておいて?」
「ええよ、お休み~」
ニムちゃんは手をヒラヒラさせながら、僕を送り出してくれた。さて……一応、エスケとフィーにも伝えておくかな?
――二人と、更に念の為にオルディ、ノムスさんに連絡し、僕は保健室で休ませてもらう事にした。
そして――。
「ん……? ――っ! チリチリッ!」
咄嗟に布団を蹴り飛ばす――。
「――っ」
飛び起きた僕の目の前には……仮面を被った黒装束の男がいた。
「誰……?」
「……『ソルマ・シールド』、『ソルマ・フゥネンム』!」
――また! チリチリの正体は、この人か!
仮面は『武器化』で土の縄を作り、輪にすると、頭上でヒュンヒュンと回し始めた。
「もしかして……僕を捕まえるつもり?」
仮面は何も答えず、僕に向けて縄を投げた――。
「『イグニス・アージェント』!」
僕の目の前に、赤い紋章が現れる。仮面が投げた縄はその紋章に弾かれ、仮面の手元に戻っていった。
――やっぱり……。
以前、紋章をつついたりした時に気付いたけど、『アージェント』や『シールド』で起動した状態の紋章でも物理的な接触は出来るみたいだ。
僕はその性質を利用して、何とか仮面の投げた縄を防いだんだけど……。
「――チッ……」
余計な怒りを買ったみたいで……。
「フッ!」
――再び、仮面が縄を投げてくる。
「よっ! はっ!」
僕はそれを、さっきと同じ様に、紋章を手で動かして防御する。そして、何回かそのやり取りをした後――。
「ん? 隙あり? 『イグニス・セーブル』!」
格子状に組まれた火が、仮面に襲い掛かる。狭い室内なら、これで逃げ場は無い……はず!
「一応……『イグニス・アリクアム』!」
僕は、形状指定せず、紋章を宣誓状態で止める。
「――グゥ……」
やっぱり……仮面はゆらりと立ち上がる。
「『セーブル』!」
仮面の位置を確認し、再び宣誓状態から格子状の火を放つ。
「はぁっ!」
――正直、「やったか!」と思ったんだけど……。
何と、仮面は格子の隙間に向かってジャンプすると、そのままその小さな身体を活かして隙間を潜り抜けてしまった。
そして、僕の目の前まで転がって来ると……。
「――勝った……」
そう呟いて、僕を土の縄でグルグル巻きにしてしまった……。
「えっ?」
そして、そのまま僕を担ぐと……。
「え、え?」
――保健室の窓から、外に飛び出す。
正直、殺されると思ったから、ホッとはしてるんだけど……。どこに連れて行かれるんだろう?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから、何分位だろう? そんなに時間は経って無いと思うんだけど……。
――僕は、小さな小屋の中にいた。仮面はどうやら、暫くここでやり過ごして、僕をどこかの誰かに引き渡すつもりみたいだ。
「さて……」
そう言うと、仮面は僕のズボンに手を掛け……。
「って、何するんですか! へ、変態!」
僕にそっちの趣味は有りません!
「? 何って、味見?」
「いえ、僕……普通に女の子が好きですから! すいません、勘弁して下さい!」
僕は縛られたまま、必死で仮面から遠ざかる……。
「……あ? お前、もしかして……?」
言葉に怒気を滲ませ、仮面は自分の胸をペタペタと触り……やがて、なんだか落ち込み、膝を抱えてしまった。
「えっと……あの?」
「もう良い……」
――その時だった。
「――っ!」
仮面が咄嗟に僕を縛り付けていた縄を解いて、横薙ぎに振り回した。すると、何か金属のぶつかり合う音がして、土の縄が崩れ去る。
「坊主よぉ……あんまり、情けない姿を見せんな? 曲がりなりにも、お前さん、坊ちゃんに勝ったんだろう?」
えっと……確か……。
「スェバ……さん?」
「おう、久しぶりだな?」
ゆっくりと小屋に踏み込んできたスェバさんはそのまま、仮面を睨み付ける。
「お前……どこのモンだ? アルティ……なわけねえよな? ヴィースか? レグラか? それとも……」
その瞬間、仮面が新たに出した火の縄をスェバさんに投げつける。
「はん、どこぞの小国かよ! 『アクア・アージェント』、『アクア・ヴァート』、『アクア・アリクアム』!」
流れる様な動作と早口で、スェバさんは火の縄を振り払い、次に備えて、紋章を待機させる。
「いいか、坊主……この手の暗殺者やら、誘拐犯なんてのはな?」
仮面が今度は風の縄を作り出そうと――。
「遅え! 『セーブル』、『インストゥルエレ・トゥリーブス』!」
瞬く間に三重の格子を作り上げ、それを仮面にぶつけると、スェバさんは僕に向き直り、続ける――。
「こうやって、容赦なく叩きのめせ! キリがねえ! んで、生きてりゃ、捕まえて情報を抜きだせ! ――それとな……」
最後に、スェバさんは頬をポリポリと掻きながら、重要な事を教えてくれた。
「乳はねえが……ありゃ、女だ。少し……目を養え?」
――その言葉が止めとなったのか、仮面はプルプルとその身を震わすと……。
「――ッ……ヴァーカヴァーカ! 今日のところは見逃してやる! つ、次に会ったらギッタンギッタンにしてやる! 覚えてろよ!」
そう言って、逃げていった。
「えっと、スェバさん、ありがとうございます」
「礼はいらん、それより、うちの坊ちゃんに勝った奴が、こんな簡単に拉致られてんじゃねえよ……坊ちゃんが俺を付けてなかったら、お前、今頃……ナニをとは言わんが、搾り取られてたぞ?」
ん? 何か、惜しい事をした様な……助かった様な……。まあ、それよりも。
「あの、逃がして大丈夫でしたか?」
「あの嬢ちゃんか? まあ、暫くは泳がせておくさ、あんまりこの手の任務に慣れて無いっぽいから情報が取りやすそうだ」
スェバさんは、それはもう楽しそうに語っていた。この人には逆らっちゃいけないな……。
――その後、一通り、気の緩みやら、戦闘における心構えやらの説教を受けて、僕はスェバさんから解放され教室に帰り着いた。
去り際――。
「今回の事は坊ちゃん達には黙っといてやる、反省したらちゃんと、戦闘訓練もしとけ?」
そう言って、スェバさんはどこかに行ってしまった――。




