緊急措置
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
「それで……? 問題の『召喚紋』は破壊出来たんだな?」
「はい、それで……そのニムちゃんは?」
――あの後、僕達はなんとか、巨大なラビ・ルピテスを退治する事に成功したんだけど、ニムちゃんが気を失っちゃったから、慌てて助けを呼んだりして、結局大ごとになってしまった。
「今は治療室でグッスリと寝ている。心配しなくても、今夜一晩寝てれば、明日の朝にはピンピンしてるさ」
――良かった……。
「それにしても……お前、運が悪いな……初の討伐実習でインジェンス・ルピテスに遭遇するとか……」
「はは……」
ティチ先生の同情の視線に、乾いた笑いしか出なかった……。
「まあ良い、取り敢えず試験は合格だ。……今日はゆっくりと、休め?」
こうして、皆の協力を無駄にする事無く僕は一月の苦行に終止符を告げることが出来た。
――そして、森から出ると……。
「タケル様!」
「うわっ! ……フィー?」
目に涙をいっぱい貯めて、フィーが僕に飛びついて来た。
「わ、わたくし……信じてました……けど、やっぱり……心配で、心配で……!」
どうやら、担架で運ばれていくニムちゃんと少し話して、事情は大体把握しているらしい。後ろでエスケとオルディがニヤニヤしているからどうにも居心地が悪い。
「フィー……ごめんね? また、心配かけちゃった?」
フィーは涙を拭いながら、コクコクと首を振る。
「……姫様、少しは落ち着きましたか?」
オルディの言葉に、まだ少し涙を残しながら「大丈夫ですわ」と答え、僕達は寮の僕の部屋で詳しい事情を説明する事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕の部屋に着き、ノムスさんが淹れてくれたお茶を飲みながら僕は今日起こった事を一つ一つ、説明していく。
「――また……ややこしい事になりましたわね」
――これが、報告を聞いたフィーの第一声だった。
「……ややこしいって?」
「姫様も大変ですな……」
何か、エスケが失礼なことを言ってる気がする。
「良いか、タケル……ボキュの『武器化』を言ってみろ?」
「……? 『斧』……でしょ?」
僕の答えに大きく頷くと、エスケは続ける――。
「そうだ……。そこでもう一つ聞くぞ? ボキュが、『定紋』を唱えずに……『通紋』で『武器化』したら……何が出ると思う?」
「え、『斧』……じゃないの? ……ん?」
自分で言ってて、何か引っかかる。
「そう、その通り……で、だ! お前が『通紋』で出すのは?」
「えっと……『矢』……です」
ここまでくれば……流石に分かったよ……。
「正解! で……? お前が『定紋』で出したのは?」
「………………『弓懸』と『鞆』?」
エスケ、オルディ、フィーが大きく息を吐く――。
「少なくとも、『武器化』で二対一種の武器は聞いたことはある、その『弓懸』と『鞆』がそう何だろうと言う事は分かる……が! 『通紋』と『定紋』で出す武器が違うと言う話は聞いたことが無い……」
そして、三人が揃って頭を抱え始める……。
「え? 何で? そんなに、駄目なの?」
オロオロと三人の顔を見渡す僕に、ノムスさんが優しく、諭す様に説明してくれた――。
「良いですか、タケル様? 今のところ、タケル様の存在はアルティ以外の国には知らされておりません……」
「あれ? そうなの?」
四人そろって頷く……。どうやら、都市伝説レベルでは噂されているらしい……。
「恐らく……『紋章学校』に在学中の留学生等から徐々に情報は洩れるでしょうが……」
じゃあ、問題無いんじゃ? と、僕が考えている事を見抜いたらしいフィーが、補足してくれた。
「タケル様……『所属不明の『定紋』持ち』、『武術化』、『二種の『武器化』』――どれか、一つならまだしも……流石にこれだけ例外揃いだと、他国もタケル様の獲得に動き出すと思われます……そうなると、最悪誘拐なども……」
「嘘……」
「――有り得るぞ? どの国にも価値を見出した途端、土地や人を昔から自国のモノだったと主張するとち狂った奴らがいるからな……」
少し、危機感を抱き始めた僕に、エスケが追い打ちを掛ける。流石にそれは冗談かな、と思って表情を見ると……うん、どうやら本当みたいだ……。
「えっと、どうしたら良いのかな?」
「取り敢えず、お父様に手紙を送っておきますわ? 恐らく、少し早めですが、アルティの貴族として正式に登録される事になるかと……」
フィーは「もちろん、タケル様の同意があればですが……」と付け加えて僕の方を見る。
勿論、僕に反対する理由は無い――と言うか、他の国なんて知らないから、怖い。
「えっと、僕の署名とか入れた方が……良いよね?」
「そうですわね……その方が良いと思いますわ? オルディ、筆記具と印章を持って来て下さい」
「はい、少々お待ちを……」
そう言うと、オルディは女子寮のフィーとオルディの部屋に戻っていった。
――そう言えば……。
「ノムスさん、僕の印章って……やっぱり無い……よね?」
すると、ノムスさんは人差し指を左右に振り――。
「当然、用意してございます……」
流石、ノムスさん……。
「それにしても、貴族か……」
何か、義務とか色々あるんだっけ……? どうしよう、まだ先の事だと思って、何にも考えてなかった。
「まあ、皆で手伝ってやるから心配するな!」
「そうですわね……手取り……足取り……うふふ……」
僕がオロオロする様子を苦笑いを浮かべて眺めながら、エスケとフィーが宥めてくれた。
――どっちにしても、勉強する事がまた増えてしまった……頑張らないと、なあ?
「あ、そう言えば、学校には報告した方が良いのかな?」
ニムちゃんの件でドタバタしてたから、相談してないや。ティチ先生は何か察していたみたいだけど、特に追及してこなかったからなあ……。
僕がそんな感じの説明をすると、フィーとエスケは、暫く考え込み――やがて、口を揃えて。
「「止めておこう」」
と、結論付けた。まず、相談するなら校長からの方が良いだろうと言う事だった。
どうやら、教師の中にも色々と派閥やら何やらがあるそうで、まずは信頼出来るかどうか、だそうだ。
「姫様、お待たせ致しました」
やがて、オルディが戻って来ると、フィーがサラサラっと、ジェネロ様達に手紙を書き、僕とエスケが署名する。
「それでは、この手紙はわたくしが出しておきますね?」
「うん、よろしく!」
と言った感じで解散と言う流れになった――んだけど……。
「ん……?」
――外はもう真っ暗……でも、何かチリチリして寝付けない。
「――さま――タケル様!」
いきなり、ノムスさんが寝室に飛び込んできた。
「え、どうしたの?」
「……いえ、妙な――強い『紋章力』を感じたので……ご無事で良かったです」
強い『紋章力』……? もしかして、チリチリするのって、それか? ノムスさんに確認してみると、どうやら当たりらしい。
「まだ、少しチリチリする……」
「……攻撃の意志は無い様でしたが、少し私の方で調べてみましょう……」
もしかして、早速誘拐とか?
「――お願いします……」
「今日のところは、私が番を致しますので、安心してお眠りになって下さい……」
そう言うと、ノムスさんは『通紋』を起動させ、いつでも対応出来るように、寝室の扉前に立った。
「重ね重ね、ありがとうございます」
流石に、怖くて遠慮なんて出来ない訳で……。
――こうして、この日から数日間、僕は微妙に寝辛い夜を凄くことになった……。




