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討伐実習

続きです、よろしくお願い致します。

※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。

「――っ。終わったー!」


 あれから一月、何とか補習と総まとめの筆記試験が終了した……実は、再々試験なんだけど……。


「まだ終わってない! 明日の朝、実技試験だという事を忘れるなよ? と言うか、本当に……明日で全部終わらせてくれよ? 明日は友人達と、友人達の友人達と飲み会なんだよ……お前は婚約者がいるから良いかもしれんがな――」


 その後、この世界の教職がどんだけ独身女性から敬遠されているかを懇々と語られた……。ああ、合コンですね……? すいません。


 ――翌日。


「さて、これから実技試験なわけだがサポーターはコンソラミーニだけで良いのか?」


 今朝聞いたのだが、この実技試験、クラスから二名までサポーターを付けて良いそうなんだけど……。


「えっと、それ知ったのが今朝方だったもので……」


「あんなぁ~? タケル君、まだ良う知っちょん人がウチしかおらんけん、他ん人に声かけれんかったんち~」


 ああ、ニムちゃん……折角、誤魔化そうと思ってたのに……。


「お前……もう少し、馴染め? 悪い事は言わんから、な?」


 違うんですっ! 最初より皆と普通に話せるようにはなったんです……ただ、突然誘うほどでは無いだけなんです!


 ――何てことを言えるはずも無く「はい……」と呟いてしまう。


「……ふう、まあ良い、じゃあ説明するぞ? アックスとシンソはここで試験終了まで待つように!」


「「はい」」


 どうやら、エスケもフィーも僕の試験が終わるまで、待っていてくれる様だ……。


 僕とニムちゃんは、ティチ先生に連れられて、学校の校舎裏に広がる森の入口までついていく。


「さて、今回の実技試験は学校所有のこの裏森でのルピテス討伐になる――」


 ルピテス――それは、簡単に言ってしまえば、ゲームなんかで出てくるモンスターの様な物、みたいだ。


 ルピテスは森や動物の影で作られた『世界紋(オービステラルマ)』の一つ、『召喚紋(コジェ)』によって、何らかの寄生体が召喚され、それが大気中もしくは、動植物に寄生・融合する事によって発生するらしい。


 ルピテスはただ討伐するだけではなく、原因となった『召喚紋(コジェ)』を消さなければ、定期的に増え続けるため、『召喚紋(コジェ)』は発見次第、記録後、破壊し、報告しなければならない。


 記録する必要があるのは、その紋章からどの様なルピテスが発生するかを危険度によってランク分けする必要があるかららしい。


 さて、本題に戻ろう――。


 今回の実習では、純粋に討伐が課題との事。


 試験前の事前調査では、兎型のルピテスが十体ほど確認されたらしいく、今回の試験は、兎型を十体討伐で試験合格となる。


 また、『召喚紋(コジェ)』を発見、記章(紋章を記録する事)・破壊出来た場合は、十体に満たなくても合格にしてくれる。


「――と言う感じだ、理解したか?」


 ティチ先生が僕達に確認してくる。


「はい!」


「せんせー? 兎ち、持っち帰ったらいけんの~?」


 ニムちゃんの質問に、ティチ先生は大きくため息を吐いて――。


「駄目だ……危険だろうが! イタクラ……本当にコイツで良いのか?」


 僕は苦笑いを浮かべながら、曖昧に頷くしか出来なかった……ニムちゃん……。


 さて、そんな気の抜けるやり取りは有ったものの、討伐自体は非常に順調に進んでいる。


「『アクア(水紋)サギッタ()』!」


「ピギッ!」


 僕は学校で借りた弓を使って、青の矢を射る。矢はそのまま、兎型のルピテス――ラビ・ルピテスを貫き、木の幹に突き刺さる。


「お疲れ様~、今何匹なん~?」


「ん? 今、五匹、そっちは?」


 ラビ・ルピテスは息絶えると、そのまま萎んでいく……この干からびた物を持っていけばいいらしい。


「三匹~。こん兎、可愛くないわ~……すかんたらしい~」


 どうやら、ニムちゃんは兎と聞いて、可愛い物を想像していたらしい……お目当てと違った様で、大層ご立腹だ。


「はは……まあ、とにかく後二匹か……何か、戦闘より兎探す方が難しいよね?」


「ほんに、その通りやわ~」


 その時、僕の目の端に何か、光るものが映った気がした。


「タケル君? どげんしたん?」


「いや、今、何かそこが光った様な……?」


 僕はニムちゃんに静かにする様に伝えて、そうっと様子を伺う。


 ――すると……。


「――っ。アレって……『召喚紋(コジェ)』?」


 僕の視界には薄っすらと光を明滅させる紋章が有った……。


 その紋章は光の明滅を繰り返しながら、ゆっくりと、回っていた。


「ニムちゃん……『召喚紋(コジェ)』だ……」


 僕は小さな声でニムちゃんを呼ぶ。


「え? ほんに? タケル君、運が良いんやな~?」


 そう言うとニムちゃんは僕に近付き、紋章を確認し「間違いないわ~」と言ってくれた。


「ほいたら、今、ウチが記章するけん、ちょこっと待っちょって~?」


 そう言うと、ニムちゃんはメモ帳に紋章を記していく……。


「あれ? 何か一か所違わない?」


 ニムちゃんのスケッチを見ると、眼前の紋章と比べると、一か所書き忘れがあるみたいだ。


「そら、そうやん? 正確に写したら、こんメモ帳から兎がでちくるけんな? どっかをワザと欠けさせちょんのよ~?」


「へえ、そうなんだ……確かに、そうだね」


「んふふ~。ウチだっち、しっかりと考えちょんのよ~?」


 すると、眼前の紋章の輝きが強くなってきた。もしかして、ルピテスが出てくるのか?


「ニムちゃん……あれ!」


 僕は胸を張るニムちゃんに紋章を見る様に促す。すると、ニムちゃんが少し焦った様に――。


「タケル君、アレ……『巨大紋(インジェンス)』で囲まれてしまっちょる! 早く何とかせんと~……」


 ニムちゃんの忠告は少し遅かったみたいで……僕達の目の前で、巨大なラビ・ルピテスが出て来た。


「もしかして、『召喚紋(コジェ)』を『巨大紋(インジェンス)』で囲ったら……召喚されるルピテスが大きくなるって事?」


「やけん、そうやち、言うちょるやん~」


 ――遅いよっ! ニムちゃん!


「ねえ、あれ、僕達に気付いてるよね?」


「そうみたいやんな~。よだきいわ~……」


 そう言いつつも、ニムちゃんは火紋の準備を終えている。僕も負けじと、水紋を展開する――。


「ほいたら、もう一頑張りしようか~?」


「そうだね……」


 僕らが紋章を展開するのと同時、インジェンス・ラビ・ルピテスが襲い掛かって来た――。


ぬりい(遅い)よぉ~? 『イグニス(火紋)オーア(球状化)』~!」


 ニムちゃんが放った火球がラビに命中し、その目を潰す……えげつないなあ……。


「次はこっちだ! 『アクア(水紋)サギッタ()』!」


 水矢はラビを貫きこそしなかったが、もう片方の目を潰す事に成功した。


「タケル君もげさきい(えげつない)な~」


 ニムちゃんがカラカラと笑った、その時だった――。


「ピギッ!」


 視界を失ったラビが出鱈目に振るった拳が、ニムちゃんの横っ腹にぶつかり、ニムちゃんが吹き飛ばされてしまった――。


「ニムちゃんっ!」


 咄嗟に何本か、水矢を放ってラビを足止めし、ニムちゃんの元に駆けつける。


「ん……タケル、君?」


 良かった……どうやら、ニムちゃんは咄嗟に土紋を展開していたみたいで、あばらにヒビが入った程度らしい。


「ほいでも、ちぃっと立ちょらんごたる……後はお願いするけんな?」


 そう言うと、ニムちゃんは木を背にして自分の治療に集中し始める。


 僕はラビをもう一度見る。どうやら、先程の水矢で視界と嗅覚を失ったらしく、耳をピクピクッと動かして周囲の様子を探っている。


 そして、元凶の紋章は今のところ、ゆっくりと明滅しているだけだが、いつ次のラビを呼び出すか分からない――。


「時間は……掛けていられないんだね?」


 ニムちゃんは、横っ腹の痛みが取れないのか、大量の汗を流しながらコクリと頷く。


「――分かった……やってみる」


 あの巨体を……一撃で、仕留める!


「出来ると……思うんだけど……『コンスタント(定紋)シールド(武器化宣誓)』!」


 静かに……詠唱を唱え、僕の『定紋(コンスタント)』――『九曜巴』を呼び起こす。


 ニムちゃんは口をぽかんと開けて驚いている。


「やっぱり……」


 試してなかったけど……『通紋(ペル)』で出来るなら、もしかしてと思ってたけど、正解か……。


 さあ、思い出せ! セチェ爺に言われたことを!


「……心に、武器を感じる……」


 目を閉じて、集中する……。


「ピギッ?」


「あ、タケル、君……!」


 どうやら、ラビが気付いたみたいだ、フラフラとこっちに近付いて来ている……。


 気にするな! 集中するんだ……!


「――っ! 来たっ! これか……?」


「ピッギィィィ!」


「駄、目、避けん、と……」


 僕の前に浮かぶ『九曜巴』の紋章がクルクルと勢いよく回りだす――。


「――来いっ! 『コンスタント(定紋)アクア(水紋)クヨウトモエ(九曜巴)』!」


「――ッピギ?」


「――黒い……雷?」


 ニムちゃんが呟いた様に、僕の両手を黒い雷みたいなモノが包み込んでいる。


 僕も、ニムちゃんも、ラビも……その雷の美しさに目を奪われて、動きを止めていた。


 ――やがて、その雷は紐を結ぶように、僕の手に収まっていった。


「これ……確か……」


 弓懸(カケ)(トモ)……だっけ?


 ――これが、武器……?


「ピギッ!」


「タ……ケル君……!」


 あ、しまった、えっと……どうしよう?


「――っ! なんだ?」


 何か、磁石で引っ張られるみたいに、弓懸と鞆に力が入る。


「もしかして……こう、か?」


 僕はその力に沿う様に、弓を引く動作を取る……分かる、何となくだけど……そして……新しい詠唱が心に浮かんでくる――。


「ふう……『ディニッシム(装填)アクア(水紋)サギッタ()』!」


 僕が番える動作を取ると、左手の鞆から薄っすらと黒い雷が、弓の様な形を取る。そして、弓懸からは青い色の水矢が現れている。


「ピッギィィィ!」


 ――大きく息を吐き、向かって来るラビを見据える。すると、番えた水矢を中心に再び『九曜巴』の紋章が現れる――。


「行け……!」


 僕が矢を放つ動作を取ると、『九曜巴』の紋章が激しく回転し始め、やがて中心以外の八つの『三つ巴』から、大量の水矢が機関銃の様に放たれた――。


「ピギギギギピッギィィッィ!」


 水矢はラビを……その後ろにある紋章ごと、瞬く間にミンチに変えてしまった。

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