神童
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
――編入から二週間……。
僕は徐々にではあるけれども、クラスメイトとの交友を深めつつあった。
そんな中、約二週間先に迫った僕のテストに向けて勉強会を開いてくれているんだけど……。
「タケル……お前、ボキュの講義を聞いてなかっただろ?」
僕は盛大に怒られていた――。
今日はエスケとニムちゃんが作ってくれた『紋章学』と『紋章史』と言う教科の模擬テストを受けたんだけど……結果が散々だった。
お陰様で、二人がかりで僕に説教と補習を与えてくれているという状況だ……。
「良いか? 現在確認されている『世界紋』は三種! 一種目はほぼ解析、再現が可能な『結界紋』! 二種目は既存の――特に『通紋』を大規模に発動させ、完全解析済みの『巨大紋』! 最後の三種目が、タケル……お前とも因縁のある『召喚紋』だ! 良いか? 覚えたな?」
若干、涙目になりながら、僕は首を何度も縦に振る。
「ほいたら、次はウチやんな~? 『替紋』を貰っち使える様になるんは、『炎紋』、『氷紋』、『嵐紋』、『震紋』の四つやけんな~? しっかり、覚えちょくれ~?」
うう、ちゃんと……ちゃんと覚えるよ。
「因みにだが……『替紋』より上位の許可紋である『定紋』ならば、当然、『替紋』の紋章も使えるからな?」
「うん~。タケル君も『定紋』持ちなんやけん、使えるはずっち、フィーちゃんも言いよったよ~?」
そう、僕を甘やかしてくれるフィー、オルディは現在お茶の用意中だ……絶対、この時間を狙ってこの二教科に手を付けたんだ。
「うう……頭が痛い……」
詰め込み勉強、嫌い……。
「あら~? そうなん? 大丈夫~? ウチが頭を撫でてあげちょこうか~?」
「コンソラミーニ……気にする必要は無い、ただの勉強アレルギーだ! そんな事より、さっさと次、『紋章学』やるぞ?」
――まだまだ、地獄は終わらないみたいだ……。
そして、何となくだが『紋章術』と言うものが分かって来た。
まず……『紋章』とはそもそも、自然現象を圧縮したものであるという事。『紋章調査官』とか、そんな感じの役職の人が、新しい『紋章』の発見や開発を行っているらしい。
発見、もしくは開発された『紋章』は基本的には発見・開発した人のモノとなり、誰か、最初に発動させた者にその『継承権』――つまり、アクセス許可が降りて、以降は基本的に、その血筋の人にしか仕えないらしい。
それなら、『通紋』はどうなるのか? と言う事なんだけど、それには諸説あり、『通紋』は最初に発生した人間が発動させたため、その血を引く人類全体が使えると言う説と、元々の『通紋』の継承者が何らかの方法で継承を破棄したのではと言う説の二つが主流になっている様だ。
――とまあ、こんな感じで座学の時間は終了し、お茶の時間に入る。何か、この国の人達は貴族も平民もお茶の時間は欠かさないらしい……。
「フィー、オルディ、ノムスさん……僕はもう、駄目だ……!」
フィーとオルディはクスクスと笑っている。
「何と! タケル様! しっかり……しっかりとなさって下さい!」
意外とノムスさんがノリノリで、反応に困る……。
「タケルの執事は多才で良いな?」
「坊ちゃん、んな事言ったら……俺……泣くぜ? 年甲斐も無く、そりゃもう盛大に!」
エスケの言葉に「ヨヨヨ……」と泣き真似をしているのは、エスケの執事――スェバ=プジョーさんだ。どうやら、ノムスさんとも知り合いらしく、最近は用事もないのにエスケと一緒に僕の部屋に入り浸っている。来客は嬉しいんだけど、その度にベッドの下に色々仕込んでいくのは勘弁して貰いたい……。
「それで? タケル様は先生役のお二人に合格点は貰えたんですの?」
……痛い所を付いてくるなあ……?
「う、うん……何とか、ね?」
フィーはジト目で僕の事を見ていたが、やがてニムちゃんの方に顔を向け、同じ質問を繰り返す。
「ん~? タケル君の出来具合ち~? そうやなあ~……試験の日に先生がお腹でも壊しちょったら行けるっち思うよ~?」
――グハッ!
「そうだな……興味を持った分野は目を見張るものがあるが……基本的にぼんやりし過ぎだ……」
「うう……ご迷惑をお掛けします」
お茶を挟んだ後は、いよいよお楽しみの時間だ。
つまり――。
「さあ、実技だ!」
「現金な奴め……」
いいじゃないか……。
「じゃあ、『武器化』はボキュが担当する、『術化』は姫様と、コンソラミーニが教えてやってくれ」
そして、僕達は運動着に着替え、男子寮と女子寮の間にある自由演習場へと足を運ぶ。
「良いか? 『武器化』は呼び出した武器に属性を持たせることで、その武器の特性を変化させることが出来る……まあ、実際やった方が早いだろう……『コンスタント・シールド』……『コンスタント・イグニス・アックス』!」
エスケの手に刃の部分が赤い……火で出来ている斧が現れる。
「例えば……この様に『火紋』だと……フンッ!」
エスケが眼前の岩に向かって斧を振るうと、岩が粉々に破壊される。
「……破砕力が増す、次に――」
つまり――。
火紋――武器の破砕力が増す。
水紋――武器の切断力や貫通力が増す。
風紋――武器が軽くなり、使用者の反応速度が増す。
土紋――武器と使用者が硬くなる。
「ここまで聞けばわかると思うが、武器によっては余り意味が無いモノもある……例えば鎧系統に『水紋』とかは特にな……」
「ふうん……今のって『通紋』の場合だよね? 『替紋』以上の場合ってどうなるの?」
「良い質問だ……大分生徒らしくなったんじゃないか?」
そう言うと、エスケは『替紋』で使用可能な四つについて説明してくれる。どうやら、『替紋』では『通紋』の効果に加えて、各属性に沿った追加効果があるらしい、つまり――。
炎紋――火紋の効果に加えて、攻撃対象を燃やす事が可能。
氷紋――水紋の効果に加えて、攻撃対象を凍らせる事が可能。
嵐紋――風紋の効果に加えて、攻撃対象を吹き飛ばす事が可能。
震紋――土紋の効果に加えて、攻撃対象を震わせる事が可能。
正直、震紋の『震わせる』が想像しにくいけど、要は触れるだけで脳震とうを起こさせる、と言う使い方が一番多いみたいだ。
「最後に、『定紋』や『女紋』だが、これらに関しては、その家、その世代によって違ってくる……つまりはその者の個性で変わって来る」
成程……。
「うーん、色々聞いてみると、僕の『矢』は『水紋』とか、『風紋』と相性が良さそうだな……」
僕が一人納得していると、エスケもそれに同意して頷いてくれた。どうやら、僕の他に『矢』系統の人達がいるらしく、その人達がやはり水や風を好んで使っているそうだ。
その後、一通り『武器化』の訓練をして、次は『術化』の練習へと移る。
「じゃあ、わたくし達が実演を交えながら、指導させて頂きますわね?」
「うん、よろしく!」
「……基本的な事はお城でお教えした通りですので、今日は少し応用してみましょうか?」
そう言うと、フィーは『水紋』の『術化』を宣誓した。
「ここからですわ……『アクア・アリクアム・オーア』」
フィーは接続詠唱――『アリクアム』で再度、青い紋章を出現させ――。
「……『インストゥルエレ・クインクェ』!」
そのまま、紋章に手を触れ、円を描く様に紋章をなぞり初耳の詠唱を行った。
すると、フィーの目の前に五つの青い球が現れた。
「今のは……?」
その僕の質問には、ニムちゃんが答えてくれた。どうやら、フィーは球をその場に留める事に意識を集中しているみたいだ。
「あんな~? 接続待機で再宣誓しちょん時に、『展開』詠唱を加えて、数を指定したらあげな感じで一気にできるに~」
あれ……じゃあ、僕が編入試験の時に何度も接続詠唱唱えたのって……?
「うん~? そげなん、ようけ力持っちょる人や無いと、出来んち思うよ~? 校長先生っち、そっちんしに注目したんやないの~?」
――うわあ……ドヤ顔で受けた編入試験……やり直したい。
「――ふぅ、この辺が限界ですわ」
僕が一人悶えていると、フィーが術化解除を行っていた。
「取り敢えず、今日はわたくし達のお手本を見るだけにして、明日以降から練習しましょうか? タケル様の『紋章力』にも限界は有りますし」
フィーの言葉に僕が頷くと、「待ってました」と言わんばかりにニムちゃんがお手本を見せてくれると張り切っている。
「んふふ~。タケル君にウチの得意技を見せちあげるけんな~!」
そう言うと、ニムちゃんは深呼吸をして、静かな声で宣誓する。
「……『ムーリエル・アージェント』……『コンソラミーニ・オーア』」
すると、ニムちゃんの前で水瓶を持った女性の紋章が、流れる様に球状に変わる。
「……『コンソラミーニ・アリクアム・オーア』……『インストゥルエレ・ケントゥマ』……」
――何だ、これ……。
ニムちゃんの目の前には、先程の球と同様の物が……何十個も浮かんでいる。
ニムちゃんはそのまま、踊る様に続ける。
「んふふ~……『コンソラミーニ・アリクアム・セーブル』……『インストゥルエレ・デチェム』~!」
そして、指先をスゥっと動かし、球や格子を操り、くっつけ、何かを形作っていく――。
「――完成~。ウチの得意技、『コンソラミーニ・カートゥルス』やけん~」
ドヤ顔のニムちゃんがそう言って、抱きかかえそれは……白く光る子猫だった。
「フィー……説明お願い」
「ニムちゃんはこう見えて『神童』……と言われてまして、発現した『オーア』や『セーブル』などを組み合わせて『絵』を描くんですの」
フィーが自分の事の様に胸を張って答える。
「へえ……凄いんだ?」
「凄い、と言うかアレは『紋章術』の奥義の一歩手前だからな……」
エスケが若干、頬を引きつらせて答える。この様子からすると、知らなかったみたい。
「そうなんよ~……後は手順省略出来れば、奥義になるに~」
どうやら、まだまだ覚える事は山ほどあるみたいだ……今日一日だけで、僕の頭はパンク寸前だ。
基本的な説明回はこれで終わり……の予定です。




