お披露目
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
さて、始業式、編入の挨拶、そしてピグエスケ――エスケとの和解が無事終了した翌日――。
「タケル様……朝でございます」
ノムスさんに軽く揺り起こされ、僕は目を開け、起き上がる。
「ふぁ……ノムスさん、おはようございます」
「はい、おはようございます。朝食の準備が出来ております」
未だにこうしてノムスさんにお世話されるという状況に慣れないが、それでも朝が弱い僕にとっては有難い事です。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――ご馳走様でした!」
「はい、お粗末様でした」
朝食を食べ終えた事だし、そろそろ出掛ける準備しないと。
そんな事を考えていた時だった――。
「タケル様、お客様です」
「え? フィーかな? まだ、着替えてるから部屋に通してください?」
――そして、制服に着替え寝室から出ると……。
「やあ……」
「あれ? エスケ……?」
どうやら、エスケも同じ寮住まいらしく、僕を迎えに来てくれたそうだ。
「何か、悪いね?」
「気にするな……ボキュも登校仲間が一気に四人も増えて、ちょっと嬉しいしな?」
「四人……?」
エスケの説明によると、フィーとオルディとニムちゃんが寮の玄関で待ってくれているとの事。
「え……じゃあ、早く出ないと!」
「タケル様、授業の準備は出来ております」
そう言うとノムスさんは通学用のかばんを手渡してくれた。
「ありがとう! 行ってきます!」
「はい、しっかりと学んできて下さい……」
エスケと共に、少し早足で寮の廊下を進む。
「タケルの執事は有能みたいだな?」
「ノムスさんの事? うん、僕、朝弱いから助かってるよ。そう言えば、エスケは執事さんとかいないの?」
何か、この寮の人達って皆、付き人みたいな人がいるっぽいんだけど……。
「ん? お前はもう会ってるだろう?」
もう会ってる……? あっ!
「……あの時の?」
「ああ、スェバ=プジョーと言ってな? プジョー家と言う貴族の三男だ」
成程……そう言えば「坊ちゃん」とか言ってたっけ?
「今度……と言うか、今日明日にでもちゃんと紹介するさ」
「うん……よろしく」
その時、丁度寮の玄関に到着した。玄関では三人娘が、楽しそうにおしゃべりをしている。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いいえ? タケル様が朝弱いのはわたくしも、オルディも存じておりますもの」
「私も慣れていますし……」
「ウチは別に遅刻とか気にせんし~。ただ~……しょわしいのはすかんけん、のんびり行こう~?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
学校に到着すると、フィー、エスケは違うクラス、オルディも別の従者の専門クラスに向かうらしく、ニムちゃん以外とは校門で一旦お別れとなった。
――あれ? ……そう言えば。
「ニムちゃんって、お付きの人いないの?」
さっきのエスケの事もあって、ちょっと気になったので聞いてみた。
「お付き合いしちょん人? おらんよ~? なんなん? ナンパしちょんの? フィーちゃん、怒るよ~?」
ニムちゃんは手をヒラヒラさせながら、カラカラと笑う。
「違うって、お付き――従者の人だよ」
聞き間違いに気付いたのか、ニムちゃんは顔を真っ赤にして手を振る勢いを強め、怒りだす。
「んもう! それやったら、最初から言うちくれたら良かったに~! 男ん子ははっきり物言わないけんよ~?」
怒るニムちゃんを何とか宥め、話を元に戻す。
「お付きん人~? ああ、メイドさんがおるよ~? 今、お母さんが病気しちょんらしいけん、実家に戻っちょるに~。やけん、フィーちゃんと一緒にオルディちゃんがウチに付いちょんに~」
成程……そう言う事か。
――そんな話をしてるとあっという間に教室に辿り着いた。どうやら、遅刻しないで済んだみたいだ。
教室に入ると、ニムちゃんはクラスメイトの何人かに軽く挨拶をするとそのまま、机に突っ伏してしまった……大丈夫か?
そして、僕はと言うと……まだぎこちなくはあるものの、何人か話しかけてくれて『怖い人』と言うイメージを払拭する第一歩を踏めた……と思う。
――まあ、昨日のスキャンダルが気になっている人が結構いるみたいだけど……。
そして――。
僕が密かに楽しみにしていた授業が……ようやく始まった!
「さて、一学期のおさらいとなるが、『紋章術』には階級が存在します――」
そんな感じで最初は座学だったんだけど、ある程度のおさらいが終わると遂に、実技が始まった。
「では、『術化』組と『武器化』組に分かれて! くれぐれも怪我には気を付けて!」
ティチ先生はそう注意すると「始め!」と言って各自の自由鍛錬を促した。
えっと……僕はどうしたら良いんだろう?
「すいません、ティチ先生……僕はどちらに行けば?」
「ん? あっ! そうか……君は……」
どうやら、僕が両方使える事をすっかり忘れられていた様だ……。
「先生、タケル君、どげんしたん~?」
僕とティチ先生が気まずい空気になっている事に気付いたのか、ニムちゃんが様子を見に来た。
「いや、実は彼をどちらの組に入れたものか考えて無くてな……いや、すまない」
「ん~? タケル君ち、どっちの人なん?」
こういうのって、言ってもいいのかな? フィーとかに確認しておけばよかった……。
すると、ティチ先生が僕が迷っているのを察してくれたのか、口パクとジェスチャーで「言っても良い」と許可が出た。
「いや、僕、両方なんだ……」
「両方なん~? やあ、ウチんとこおいでっちゃ~」
そう言うとニムちゃんはグイグイと僕の手を引っ張って『術化』組に連れていく。
「あれ? イタクラ君? 『術化』使いだったの?」
すると、様子を伺っていた男の子がキョトンとしていた。
「んにゃ~。タケル君、両方なんち~」
「は? 両方……? は?」
何か、二度見された……。ああ、ニムちゃんが普通だったからそんなもんかと思ったけど、やっぱりそうなんだ……。
「うん、だからどっちの組に混ざろうかと迷っててさ」
「え、ちょっとマジで? 見せて貰って良い? 本当なら……」
あ、何かこの人の目って、セチェ爺と同じだ……好奇心には勝てませんって言う感じの……。
「えっと、先生……良いですか?」
「ああ、俺も見てみたい」
そして、半ば見世物状態で僕は皆の前に立たされている。
「じゃあ、まずは……『イグニス・アージェント』」
僕の前に赤の紋章が現れる――僕はそのまま、深呼吸をしてから、続きを唱える。
「……『イグニス・セーブル』!」
紋章がグニャリと形を変え、格子状に変わる――。
僕はそのまま、実技場に備え付けてある木人に意識を集中させる。
すると、格子状の火が木人に向かって行き、そのまま木人を包み込み、灰へと変える。
「『イグニス・インアージェント』っ! ――ふう……じゃあ、次いきますね?」
皆は「いよいよか!」と言う感じで食いつく様に見ている。
僕は若干――いや、かなり緊張しながら、『武器化』の詠唱を行う……。
「ふう……『イグニス・シールド』」
――カシャン。
再び僕の前に赤い紋章が現れ、僕は目を閉じ、心に武器を感じる――。
「『イグニス・サギッタ』!」
詠唱の瞬間、僕の手が赤く輝く。赤い輝きは徐々にその輝きを潜め、やがて矢の形になった。僕はそのまま、握った矢を木人に向けて投げつける。
「……どうですか?」
粉々になった木人を背に、僕は皆の顔を見る。
すると、ティチ先生が一言――。
「……ビックリだ……」
――そして、いつの間にかクラスメイトから、僕へと向けられていた恐怖の視線は、わずかな好奇心へとその形を変える事になった。




