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小話 十七話 転職

 アンダルは活気が少しずつ回復しつつある。しかし以前とは違う方向だ。

 冒険者の街、と呼ばれたいたのが昔の事のように思える。今では冒険者の数は減少、依頼も護衛ばかり、冒険者にとってここは通過地点になってしまった。

 代わりに商人の数が増えだした。噂ではムスタングに魔族が現れただの、皇帝が立ち寄っただの、普通であれば耳を疑うような内容だが信憑性があるらしく、耳と鼻に聡い商人が何かあると集まり始めたのだ。

 まあ、俺としては嬉しいような、面倒なような、複雑な気持ちだが。




「何で分からないのよ!」


 大事にしていた酒が盗まれた。いや、犯人は分かっているんだがどうしようもなかった。なので代わりの酒を買いに行った所、元職場から金切り声が響いた。

 冒険者ギルド。昼も終わり丁度冒険者が少ない時間帯。チラリと覗けば病的に興奮して叫んでいる女性と、呆れと諦めを顔に出しながら応対している二名の受付。

 受付については知っている。新しく雇われた、というより派遣されてきた若い男女。事務能力も高く問題を起こすような二人ではない。

 では最も問題を起こしそうな婆さんは。現在受付にはいない。ならあの婆さんが原因ではない。

 なら原因はあの女性だ。何なのかは知らないがうるさいことこの上ない。しかし今の俺には関係のないこと。

 原因も分かったので早々にその場を後にしようとした時、受付をしている若い男の方がこちらを見て、良い物を見つけたかのように微笑んだ。


「あ、ギルドマスター、お疲れ様です。失礼、元ギルドマスターでした。今日はどういったご用件でしょうか?」


 嫌な予感がする。あれは何かを企んだ人の笑みだ。長居は危険だ。


「いや、ただの見回りだ。失礼す――」


「あなたっ! ここのギルドマスターだったのよね!」


 いかん、遅かった。厄介そうな女性に捕まった。

 心なしか受付の男女共に俺に押し付け安堵しているように見える。


「過去の話だ。そもそも誰だ?」


「私は冒険者ギルド本部より要請があり派遣された同じギルド職員です。ここを訪れたオワの大森林の魔王について情報を探しているのです。しかしここの職員は非協力的! 知らぬ存ぜぬと! あなたはここの元ギルドマスターでしょう! 責任を感じてはどうですか!」


 あー、なるほど。冒険者ギルド本部の方から来ましたって奴か。しかし動くのが早い。情報伝達の時間差を考えれば手に入れたばかりの情報で即座に人を送ってくるとは。

 しかし、ならもう少し送ってくる人選を考えて欲しい。こっちの情報をまるで仕入れてねえじゃねえか。


「責任は感じませんな。そこの二人は魔王が来た後に雇われたのですから知らぬ存ぜぬは当然です。むしろ正直であると言えるでしょう。話を聞けば分かるはずなのにそんなこともせずに責めて立てていたのであれば、そちらに問題と責任があると思います」


 悪いのはお前で人の話は聞け馬鹿、と言えば女性は今にも顔が破裂せん程に真っ赤になり、癇癪を起こす。

 まあ聞くに堪えない暴言や的外れな指摘、客観的に見たとしても誰もが問題はこの女性にあると瞬時に理解してくれるだろう。

 しかしいつまでも言わせていては精神的に、いやそれより耳が痛くなる。


「おい良いか? 魔王がここアンダルを訪れた時ギルドの職員は俺ともう一人だけだ」


「ならあなたが魔王について話してください!」


「そりゃ無理だ。俺は今このアンダルの代官を務めている。つまりファース辺境伯に仕えている立場だ。冒険者ギルドに雇われているわけじゃない。話す理由はない上、立場上情報を漏らすことは出来ない」


 情報を漏らしたらどうなるか、ファース辺境伯も恐ろしいがあの執事も超怖い。敵対だけはしたくない。

 しかしこのまま放置すれば顔の真っ赤な女性がまた爆発するので、納得する答えも出しておく。


「だから今のギルドマスターに聞けばいい。今のギルドマスターは魔王が訪れた時のもう一人だ」


 なら早くそう言いなさい! 女性は金切り声を上げ、受付が案内しようと出てきた。俺への注意はもうない。なら早々に逃げるとしよう。

 何せ今のギルドマスターは。


「はーい、元気ですよ~」


「違います! そうじゃなくて!」


 俺も、冒険者も、誰も勝てなかった(まともに話せなかった)百戦錬磨の婆さんだ。

 後はあの執事がオワの大森林から帰ってきた時に話せば、適当な理由をでっち上げて追い出すだろう。

 代官の俺も出来なくはないが、あの執事より上手く出来る自信がない。

 まあこれ以上の面倒事など早々起きないだろう。帰って一杯やるとするか。


「ダンジョンを造ろう」一巻が4/24に発売されました。

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― 新着の感想 ―
ま、まさか最強の婆さんがギルドマスターとは…
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