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第七十六話 末姫

 国のために出来る限りのことをしてきたつもりですが、この仕打ちはあんまりではないですか。


 ダダラ鉱国は武器の輸出により国家群の中でも上位の発言力を持つ国だ。逆に言えば武器の輸出に頼っている国だ。それだけでは駄目なのに。

 鉱山、職人、戦士と三本の柱で成り立っているように思えるが、鉱脈が枯れれば職人は鍛冶が出来なくなり戦士は武器が壊れれば直せなくなる。実質は一本しかない。

 それを改善しようと武器の輸出額を増額し、農耕など新しい事情開拓への研究費とした。

 更に錬金術師を雇い冶金、採掘技術の研究も行わせた。

 研究の結果、残念ながらダダラ鉱国の有する土地はほとんどが痩せた土地ばかりで濃厚に向かないことが分かった。だが錬金術師は成果を出し、冶金技術の向上に成功し、採掘も魔法使いを雇うことにより硬い岩盤などに当たった際の早急な除去、また落盤が起きた際に迅速な救出、孤立した側に魔法使いがいれば水の確保が可能となり生存率の上昇などを提案、実験的に行い十分に実用可能という成果を出した。

 これにより鉱山が枯れ、国が衰退するという来たるべき最悪な状況への時間稼ぎは成功した。後は稼いだ時間の内に新たな事情を開拓すれば良い。

 そんな矢先に突然の婚約。しかも婿を入れるのではなく嫁げと言う。相手はカルネア公国。確かに食料生産能力が低いダダラ鉱国と、武器などを自前で用意できないカルネア公国が同盟のために婚約を結ぶのは分かる。

しかしそれでは今までの研究が中途半端で終わってしまう。

 もし私と同じようにダダラ鉱国の未来を憂う者がいれば安心して引き継げるが、父である王は現状に満足し何かを成そうとはしない凡人、私に協力的な鍛冶長と鉱山長は新しいことを考え付く頭を持っていない。戦士長は論外だ。

 何とか考え直すよう父に願おうとしたが会うことすら拒否され、鍛冶長が鍛冶を二度としないと宣言し出奔、職人のほとんどがストライキを起こし、鉱山も閉鎖。国が混乱する中私は婚姻のためにカルネア公国へと運び出された。


 カルネア公国は私の理想と言えた。農業を主軸に置く国。天候や魔族の影響を受けやすいとはいえ、鉱山の様にいつか尽きるものではない。農家は代々知識を継ぎ続ければ如何なる状況でも対処ができる。

 同じ発言力を持つダダラ鉱国とでは未来への安定性が段違いだった。はっきり言って羨ましい。

 そんな気持ちで来たが、私を迎えたのは憐みの視線だった。しかも王の重臣になるほど強くなってくる。

 理由をさりげなく聞いてもただ申し訳なさそうに頭を下げられただけ。一体何故。

 その疑問は夜、王の寝室に入った時に理解できた。


「よ、嫁だな。近う寄れ」


 醜悪、これ以上にカルネア大公を示す言葉があるのだろうか。

 ここに来るまでに集めた情報では初物好きと幼女趣味と言う情報があった。弟は優秀ながら危険な思考で、兄は無能で政治に興味を持たぬとあった。

 しかし顔面が肉で埋もれて平面となり、体毛が濃い肉ダルマと言う情報は一切なかった。カルネア大公の容姿の情報が無い理由は分かったが。これは表に出せない。

 しかし私はここに嫁としてやってきた。例えダダラ鉱国を恨もうともどうしようもないのだ。


「ふ、服は脱がしてやる」


 果たして私の身体は耐えられるか。この肉塊に圧し潰されるんじゃないだろうか。そっちの方が幸せかもしれない。

 カルネア大公が私の服に手を掛け、丁寧に剥ぎ取っているとき。


 コツ、コツ。


 窓が叩かれた。チラリと見れば手のひらサイズの小さな鳥がいた。街などでよく見かける、人の食べかすを食べているような無害な魔物。

 臆病で何かを叩くような魔物ではなかったはずだが、好奇心が強い個体なのか。

 その魔物は次第に窓を叩く速度を上げ。


 コツ、コツコツ、コツコツコツ、コココココ!


 もはや窓を割らん勢いとなり。


「うるさいわあ!」

 

 耐え兼ねたカルネア大公が窓を開け放つ。

 勢いよく開かれた窓を飛んで避けると、素早く空いた窓から部屋へと侵入した。

 この部屋に入りたかったのかと見ていると。


「夜分遅くにあのような姿からこのような姿にて失礼」


 小鳥の魔物は人型大のハニワへと姿を変えた。


「な、何だお前!」


「オワの大森林魔王ノブナガ、君はうるさい。黙れ、『重力』三倍」


 ハニワがこちらに指を向けた瞬間、全身に異常な負荷がかかった。私の前にいたカルネア大公は見事に床に叩きつけられ気絶している。

 『重圧(プレス)』だろうか。しかしハニワは『重力』と言っていた。


「あ、あのそろそろ止めて頂けないでしょうか」


 うるさくしている奴は気絶したのだから、止めてもいいはず。私はうるさくしていない。

 ああ、と返事をするとハニワは止めてくれたのか負荷が消え去る。一体何をされていたのだろうか。

 自身の身体にどこか異常がないか確認し、問題ないと判断するとハニワがこちらを見て首を傾げていたことに気づいた。


「君は誰だ?」


「私はダダラ鉱国の末姫、いえ今はカルネア大公の妻と言うべきなんでしょうか」


 出来ることならどっちも嫌だ。名を捨てて逃げてやりたい。


「そうか、私はオワの大森林魔王ノブナガだがうるさくしないでくれ?」


 あ、そう言えばこのハニワは魔王だったんだ。

 私は黙って頷いておく。


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