第七十話 友
いやあ、非常に意義のある会談になった。
控室に入った時、執事のクラースが締めるギリギリで彼に変わり、記憶から色々と知識を回収できたのはうまかった。
俺のことを何やら壮大に勘違いしていたが訂正しなくて良いだろう。皇帝が来ていたのを知れたのも良かった。
まあ皇帝の現れ方に驚き、うっかりクラースの記憶のまま皇帝陛下、と呼んでしまったがどうも皮肉と取ってくれたらしい。
会談も皇帝のおかげか、こちらの要望を全て受け入れる形で終わった。感謝しないとな。
そして現在、俺と皇帝は同じ控室にいる。お付きの者は何故か別室待機になっている。おかげで姿を変え、情報を得ることが出来なくなった。
控室に移された理由は、皇帝や魔王が市井を見たいと言って、じゃあ行きましょうとはいかなかったからだ。
警備を厳にし、住人達にも混乱が起きないように知らせる必要がある。そして何より辺境伯も見せるなら選別するだろう。汚い物は見えないように。
後者について、良く分からない。身分差の関係か?
「何故別室に行かせたのか、気になっている様子」
と思っていたら皇帝が話しかけてきた。どうやら理由を知っている様子。
「いや、適当なことを言った。はっきり言って魔王殿の表情は読めんからなあ。半分以上勘なのだが」
「気になっていた所だ」
それは良かった、と皇帝は勘が当たったことに安堵し、おもむろにこちらに手を差し伸べる。
「私が命じたのだ。魔王殿と友好を結びたく思い」
友好? それは望むところだが。
「オワの大森林と帝国はすでに友好な関係と思っていたが、勘違いだったか」
「いや、帝国とオワの大森林はすでに非常に有効な関係だと私も思っておる。私は皇帝としてではなく、ギルフォードとしてオワの大森林魔王ではなく、ノブナガ殿と友好を結びたいのだ」
すっきりと、まるでただの老人の様に笑い言う様はどこかの皇帝とは思えず、本当にギルフォードと言う人にしか見えなかった。
それにこれはこちらにとっても最高の機会。
「分かった。それではノブナガでもノブとでも好きに呼んでくれ」
手を取り砕けて口調で話しかけた。
それに皇帝は僅かに驚いた様子を見せたが、すぐに人の良い笑みを浮かべて。
「私はギルで結構だノブ。魔族の友は初めてだ」
俺も人族の友は初めてだ。
……そう初めてだ。剣を振り回し斬ること大好きな爺とは知り合いだが友じゃない。例えるなら、俺がネズミで向こうがネコ。そんな関係だ。
その後、外出許可が出るまでギルと心行くまで話した。
帝国について、オワの大森林について、魔王について、それは様々なことを話した気がする。
俺としてはギルについて、というよりも皇帝について詳しく聞いた。何せ皇帝に比べれば遥かに小さいが魔族を総べる身として何か学べることはないか聞きたかった。
礼として貴族が少ないことを気にしていたので官僚制について少しだけ話して置いた。
そのおかげなのか。
「はっは、ノブは素晴らしいな。人族にその考えを生み頭があれば良いのだが」
「何を言うギル。知識があるだけで、経験豊富なギルには敵わんよ」
すごく仲良くなった。今日会ったはずなのに十年来の友の様になった。
「本当に素晴らしい。……お前のような息子がいれば」
コンコン
ギルが言葉をこぼすがノックの音にかき消された。
「失礼いたします、準備が整いました。おや、何やら楽しそうなご様子」
入ってきたクラースは用を伝えると場の雰囲気を感じとったのかやや驚くように言う。
俺とギルはそれを聞いてにやりと笑う。
「「友が出来たのでな」」
「ではその調子でムスタングをお楽しみください。もし何か不快なこと、問題があれば領主であり責任のある辺境伯に直接言って下さると幸いです。どれだけ厳しく言ってもらっても構いません。胃薬は用意しておりますので」
本当に辺境伯に仕える身なのか。皇帝と共に目を丸くしてしまった。
まあ、目玉何てないんだが。




