第六十八話 会談開始
皆さんお気づきかもしれませんが、この度『ダンジョンを造ろう」MFブックス&アリアンローズ 小説家になろう大賞2014」において佳作賞を受賞しました。
ご報告遅れて申し訳ありません。一度は活動報告の方で報告しようとも思ったのですが、今まで一度も利用したことがなく時期も逃したので迷うくらいなら本編上げた際で良いかと思いました。
応援してくださった皆様、真にありがとうございます。この作品が賞を取ったのはわしのおかげじゃ、と仰って構いません。むしろ言いふらしてください。
スイスイと頭に入ってくる“読みやすさ”を活かしこれからも頑張りますので、皆様よろしくお願いいたします。
「ご足労いただきありがとうございます。私はナラガン・ホス・ファース、過分ながらも辺境伯を拝する心の小さな人間です。それとすでに知っているかもしれませんが、こちらが当家に仕える執事のクラース。以後、お見知りおきを」
「お初お目にかかる。オワの大森林魔王ノブナガと申します。後ろに控えるのは女郎蜘蛛のラン、蜥蜴隊長のリン。と言ってもこの者たちが何かするわけではない。会談の雰囲気を知っておいて欲しかったから連れてきただけだ。もし邪魔なら退室させるが?」
ついに会談が始まった。
まずは手探りの一手とでもいうべきか、後ろに控える魔族を餌にするが辺境伯は食い付かず、そのまま席へ座るよう勧める。
これにより机一つを隔ててソファに座る辺境伯とその後ろに控える私、向かいには魔王ノブナガと後ろに控えるランとリンの図が完成した。
魔王は見物に来させた、と言っていたが護衛と考えて良いのだろうか。飲み物は辺境伯と魔王の分のみとする。
話の口火を切ったのは辺境伯だった。
「まずノブナガ殿、こちらをお受け取りください。どうやらこちらが手配した冒険者がそちらに迷惑をかけたようで、その詫びということで」
渡したのはこの間契約書と偽りイフリーナに書かせた奴隷契約書。いや、どちらも契約書であるのは間違いないのだから偽ってはいないか。
これには魔王は驚いているのか? 表情の変化がまるでなく読み取りづらい。雰囲気から察するに困惑しているようだが。
「奴隷契約? 帝国では奴隷は一般的なのか。目にしたことはなかったが」
「目にしたことが無いのは当然かもしれません。帝国では奴隷は重罪を犯した犯罪者のみであり、危険な作業をさせるための購入がほとんどです。塩づくりなどはその一例ですね」
昔は鉱脈などでも使われていたが、首領悪鬼の出現によりファース領が得るはずだった鉱脈が手を出せなくなりファース領には目にすることはほとんどない。
「塩づくり? あれに危険な作業があったか?」
……ああ。帝国や国家群、王国では当たり前の認識だが海を持たないオワの大森林では知りようもない。
「ご存じとは思いますが我々の住む大陸には三つの人族の勢力があります。王国、帝国、国家群。このいずれも海を有しておりますが安全に塩を作れる場所は限られております。
その理由が大陸の周囲を縄張りとし、巣を作っている海長蛇と呼ばれる三階位の魔物の所為なのです。
あの魔物の所為で沿岸部に村など塩つくりの拠点を建てようものなら襲われる始末。ですので襲えないほど離れた所に拠点を構えたり、洞窟など海長蛇では入れない場所から海水を回収する危険な作業という扱いになっているのです」
更に洞窟などでは海長蛇は入れずとも進化前の海蛇は容易に入れるので、足を掬われ海に落ち帰って来ないと言う報告は良く聞く。
とはいえ、本来であれば今回のような依頼のミス程度では奴隷にまで落ちることはないのだが、そこは裏に最高権力者である皇帝がいるのだから容易いことだった。
おおまかに奴隷について説明を終えたことで魔王も納得したのか受け取ってもらえることに。
すぐにペンを渡して奴隷所有者の欄に記入してもらう。
……書かれたのはごくごく一般的な人語。やはり魔王は人語を使えるのにあのような暗号で手紙を出したのだ。
辺境伯もそれに気が付いたのか一瞬目が細くなる。相手の情報を探り当てたときにする目だ。何度指摘しても直らなかった癖でもある。
魔王への警戒をさらに引き上げ話を進めていく。
「それでノブナガ殿、今日はどういった用件でいらしたのでしょうか。御恥ずかしながら我々はノブナガ殿の手紙が読めず、ただ手紙を出すのだから話し合い程度なら望めるだろう程度の見解でして」
「ああ、そういえば言っていなかった。こちらの要望はこれだ」
そう言って魔王が魔法の袋から取り出したのは白い布に包まれたワリの実。……いや、あの布は蜘蛛人の糸か!
「ワリの実と蜘蛛人の糸ですね。しかしこの蜘蛛人の糸で作られた布! 普通は冒険者が巣まで行き火などで端を焼いて持って帰ってくるので、糸自体が荒かったり太かったりしてここまで綺麗にはなりません。それでこちらが如何いたしました?」
「交易をしたいと思っている」
「……なるほど」
悪くない、いや非常に良い提案だろう。
最近はオワの大森林に入れずワリの実など、オワの大森林でしか取れない素材が高騰していた。更に上質な蜘蛛人の糸が定期的に仕入れられると言うなら文句はない。
更に交易相手をわざわざ攻めることはしないだろう。それなら国家群と首領悪鬼だけに戦力を絞れる。
しかし、しかし今は受けることは出来ない。今は皇帝に全ての決定権を預けている状況。勝手に受ければそれは皇帝を敵に回すことになる。
「質問なのですが、毎月どれ程の量を安定的に出せますか。それと代わりにどのような物を望んでいるのか知りたいのですが」
ならば今は時間を稼ぐ一手のみ。皇帝とてあまり時間を置けばこちらが苦しくなるのは理解しているはず。それに奴隷について説明でそれなりに時間は稼げている。
「ワリの実は安定はまだ難しい。栽培にようやく着手したばかりだからな。ただし蜘蛛人の糸なら安定的に供給できる。品質も悪くなることはないだろう。そしてこちらが望むものだが――」
足音が近づいてくる。三人分、近衛団長に次席宮廷魔道士。そして皇帝だろう。
目の前には魔王の魅惑的な攻勢に押され気味の辺境伯がいるが、足音には気づいていない様子。このまま扉が開くまで黙っておこう。
バンッ!
勢いよく扉が開かれた。あまりに唐突過ぎて辺境伯も驚いて顔を上げ、魔王の背後に控える魔族が警戒態勢に入ってしまった。
近衛団長、あまり不用意な開け方は止めて欲しい。
とはいえ、これでこちらに形勢逆転。交渉相手が辺境伯から皇帝に代わるのだ。僅かな隙でも見せればそこから有利な条件で契約を結んでしまおう。
「やれやれ、遅れてしまったかな」
威厳たっぷりに入ってくる皇帝。その後ろから近衛団長と次席宮廷魔道士が周囲を威圧しながら現れる。
これならノブナガも驚き思考が固まるだろうと、思った瞬間。
「やあ、遅かったな皇帝陛下」
こちらの思考が固まった。