第六十五話 魔王アンダルへ
MF&AR大賞二次通過しました。
わしが育てた、と皆さん言えます。
わしが書いた、と相棒は言う権利があります。
だから頑張って。新型の三号がいるけどまだ慣れないから君が良いんだよ。
慣れたら変え――プツッ
アンダルは帝国にある最南端の街の一つであり、交通の要衝でもありオワの大森林に隣接することから冒険者が数多く居る。
その冒険者の主な仕事は何か。交通要衝であるため護衛が多い、また左右に対首領悪鬼、国家群を想定した街があるため応援などもある。
だが、最も多いのはオワの大森林に関する依頼。それがオワの大森林にある素材の採取、魔物や魔族の討伐などがある。
共通するのは命の危険。自分の縄張りに入ればそれが採取だろうが、別種族の討伐だろうが襲い掛かるのが魔物や魔族。オワの大森林は人族にとって安全とは言い難い場所。
そのオワの大森林の魔王がアンダルにやってきたらどうなるか。
当然、大騒ぎとなった。
まずは門で騒ぎとなった。新兵らしい若い門番がこちらを見つけて混乱して大騒ぎをしたのだ。だが話は通っていたようでベテランと思われる中年の門番が出てきて、新兵を殴ると丁寧に対応してくれた。
若干警戒と怯えが入っていたがそれは仕方がない。
そして担当者だか責任者だかが来るまで待たされている間に魔王の存在がアンダルに広まり、一目見ようと住人や冒険者が集まっていた。
かなり遠くに。
はっきり言ってちゃんと見えているのかだろうか気になる距離だ。いくら怖くてもそこまで離れる必要があるのか。
結局、最後まで近づいて来たのは勇気ある一人の少年のみ。栗のようなイガの付いた植物を投げ渡された。何なんだろうこれは?
その少年が走ってどこかへ行った後、担当者兼責任者がやってきた。
アンダルのギルドマスターだった。
直後、脳裏に浮かんだのは前にアンダルに来たときの過ち。
「頭の怪我は大丈夫か?」
だからか、つい聞いてしまった。何らかの後遺症などがあったら本当に申し訳ないと思って。
一瞬ギルドマスターはぽかんと口を開け間抜けな顔を晒すと、すぐに何のことか察したのか張り付いた笑みを浮かべた。
「もう跡もなく治りました。それでは案内をさせてもらいます」
果たしてどこに案内してくれるのか? ムスタングへ向かうためにアンダルに寄っただけなので馬車でも借りられるのだろうか。それともどこかで待機させられるのか。
「魔王様、あの者は誰なのです?」
ギルドマスターの後を付いていく途中、ランが気になったのか聞いてきた。
その疑問の答えに悩んだ。俺が知っているのはアンダルの冒険者ギルドのギルドマスターで、俺がちょっとした事故で怪我をさせてしまったことだけ。名前なんて知らなければ、今回何で案内を務めているのかも知らない。
だが、そんな悩みはすぐに解消された。
「ああ、申し訳ない。少々衝撃的なことがありまして、名乗り忘れておりました。冒険者ギルド、アンダル支部でギルドマスターをしております。カーヴェと申します。以後、お見知りおきを」
聞き耳を立てていたのかカーヴェはすぐに名乗ってくれた。良い耳を持っているようだ。交換して欲しい。俺は耳ないけど。
それではついでとこちらも自己紹介をさせてもらう。
「オワの大森林魔王ノブナガと申します。こちらは蜘蛛人をまとめてもらっている女郎蜘蛛のラン。蜥蜴人をまとめている蜥蜴隊長のリンです。末永い関係を築いて行ければ思っています」
ランとリンは揃って頭を下げた。若干不服そうな顔をしているが、そこは目を瞑ってもらおう。
「それでこの後ですが、冒険者ギルドで歓迎の印として食事会を開こうと思っております。当然、ムスタング行きの馬車も手配――」
「感謝する、だが急いでいるのでな。食事会はまた後日ということで、馬車の手配だけしてもらって良いか?」
どのような料理が出るのか非常に気になるが、国家群の動向の方が気になりあまり余裕がない。
するとカーヴェは何か考える素振りを見せた。
「では馬車の手配をしますのでその間冒険者ギルドで待って貰ってもよろしいでしょうか」
馬車の手配は歓迎中に行う予定だったのか。まあ、いつ来るのか分からない状況だったはず。仕方ない。
了承して冒険者ギルドへと向かう。大きく割れた人ごみの中を悠々と。
皆、警戒しすぎぎゃないかねえ。
「はーい。私が受付をしております」
「違う、私はギルドマスターがどこにいるのかと」
冒険者ギルドに入り最初に目に入ったのは、受付のおばさんとそれに翻弄されるそれなりに身なりの良い男だった。
しかしすぐに視線は周囲に移った。冒険者と思われる人が多く居たのだ。前に来たときはかなり少なかったのに。前に来た時が少なかったのか今が多いのかは分からないが、ダステルのような本物の冒険者と思える者はいなかった。
筋肉も体格も迫力も何もかも足りない。似ているのはいるが、近いわけではない。
彼らは何故集まっているのか。もしかして歓迎のためのスタッフなのだろうか。もう少し身だしなみに気を付けるべきだな。
「代官殿、いかがなさいました」
カーヴェがやや焦った様子で代官の下に向かう。その声で代官、そして周りの冒険者もこちらに気づいたようで視線を向けてくる。
明らかに敵意ある視線が混じっていた。それを敏感に察知したリンやや遅れてランが俺の前に立つが、俺は安心するように肩を叩きすぐに後ろに戻す。
ダステルのような本物冒険者なら警戒する必要があるが、チンピラかチンピラに毛が生えた程度では警戒するに値しない。単体ならリンはおろかランの方が強いだろう。
それに敵意があるのも仕方がない。帝国と敵対している魔王もいるのだ。依頼で魔族と戦った者もいるだろう。それでは敵意を表すなという方が無理だ。
「おお、カーヴェ殿。実は」
代官とギルドマスターが長い話し合いに入ってしまった。つまりこちらは放置だ。いたたまれない。
なので誰かと適当に話をしたいのだが、誰もが敵意、殺意、そして怯え。離せそうな人物は……一人しかいない。
「ラン、リンはそこで待機だ。話を伺いたいのだがよろしいか」
「冒険者ギルドへようこそ、ご用件は何ですか」
受付のおばさんだ。
「はい。ですから魔王の出現により若い子はアンダルを離れてしまいましてねえ。残ったのがギルドマスターと私だけなんです」
「いや、あの代官が誰なのか聞いたのだが、まあ良い。今日は冒険者が随分と多いように思えるが、いつもこれほど居るのか」
「はい。ギルドマスターは酒癖が悪くてですね。この間何て酒を呑みに行ったら頭から血を流すことになったんですよ」
激戦だ。これほど苦しい戦いは剣聖以来だ。話しかけたことを半分後悔しているが、出てくる情報が初めて聞くことばかりなので無視は出来ない。
しかし会話が成立しないということがこれほど苦しいとは思わなかった。問いかけとは何ら関係のない答えが返ってくる。もう問いかけなくてもいいんじゃないかと思うが、油断すると過去の問いに答えたりするので聞くのも言うのも手を抜けない。
後ギルドマスターの酒癖が悪いと言う話は広めておいてくれ。誰の責任でもなく、酒が悪かった。そうするべきだ。
「そういえば私が怖かったりしないのか。魔王なのだが」
「そうですねえ。今日は随分と人がいますねえ。でも冷やかしですよ。誰も依頼を受けていませんから」
やはり関係のない答え。しかし、随分と気になることを言うな。冷やかし?
これだけ人がいるのに誰も依頼を受けないとは。何か理由があるはず。そう、魔王を一目見てみたかったとか。
まあそれはないだろうが、少し気になったが。
「ノブナガ様、再度待たせてしまい申し訳ありません。ただいま問い合わせた所どこも馬車を使用しておりまして空きがございませんでした」
いつの間にか代官との話を終えていたカーヴェがいた。代官もすでに消え、何故か冒険者未満の奴らもいない。
自らミスを隠さずに話頭を下げるカーヴェ。これを不手際と責めるのはあまりに厳しいだろう。ここは寛大な心で許してみせよ――。
直後、タカタッタカタッと馬が人を乗せて走って行った。
「いるではないですか」
ランが不必要なことを言ってくれた。おかげで一気に場が気まずい雰囲気に変わる。
「申し訳ありません。馬はいるのですが、馬車が無いのです」
「魔王様なら馬に乗れます」
止めてください。馬に乗れるだけであって操れるわけじゃないんです。走るなんて言語道断。
しかしランがまるで自らの誇りとばかりに胸を張って言うため訂正できない。だから別方向から攻めた。
「お前たちが無理だろう。馬車は必要だ。空くまで待てばいい。今日中に見つかれば良いが」
その言葉に何故かランは感動し、カーヴェも全力で探すと明言してくれた。
それから一時間後くらいだろうか、ついに馬車が空いたが問題が発生した。
「魔王様、ランが乗れませぬ」
体格の大きい女郎蜘蛛では馬車に乗れなかった。まあ人用だから無理は言えない。
さすがにこれにはカーヴェも困った様子だが、俺には大した問題とは思えなかった。
「ランは屋根に乗れ。もし何らかの異変があった場合即座に知らせろ」
女郎蜘蛛が馬車の速度で振り落とされるとは思えない。それに全方向を警戒できるから良いだろう。ランは苦労を掛けることになるが。
ランは喜んで受けてくれたので、馬車は少々不格好な形でアンダルを出る。
まあ、魔王が乗っていると分かりやすいだろう。




