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第六十四話 今日で十日目

 今日は珍しくヴィとセキを除く名持の魔族と、人族であるアリス、ライル、セルミナを呼んである物を食べてもらった。

 それはかき氷だ。


「まさか自分が作った氷がこんな風になるとは思いませんでした」


 それもセルミナが魔法で作った氷を使って。

 前から試してみたかった。キッチンに冷凍庫があるため氷は作り放題なのだが、魔法で作られた氷とは何か違うのか。

 魔法の氷を使えば魔力が回復したりしないのか思ったのだが。

 魔力回復はなかった、味も変わらない。至って普通の氷だった。

 非常に残念だったが、仕方ない。出来れば儲けもの程度の感覚でやったからな。

 ただこれを作り食べている姿をアリスに見つかり、寄越せ、寄越せと催促を食らったので、では名持の魔族とライルとセルミナを呼んで来いと言ったらこうなった。

 ヴィとセキは待機中だ。何せ今日はあの日だからな。


「さあ、遠慮せず食べると良い。あまり腹の足しにはならんだろうが」


 時は夕刻。それぞれ作業や訓練を終え身体が火照っている頃。そんな食べるかき氷はさぞや美味いはず。

 俺が言う前に食べていたアリスを除き、皆が一斉にかき氷を食べ始める。

 初めて見る食べ物の所為か恐る恐るといった様子だが、一口含めばもう止まらない。


「冷たくて、美味しいですね」


「氷を砕くとこんな感じになるんッスね。イケルッスよ」


 ランとライルから好評の声が上がる。他も概ね好評のようだが、カイやリンなど一気に掻き込んだ者は頭を押さえていた。

 俺も皆の様子を見ながら一口食べるが、やはり気に入らない。

 かき氷自体は問題ない、キッチンに合ったかき氷機を使っているのだ。

 問題はシロップなのだ。

 さすがにキッチンにシロップは無かったので、ワリの実の果汁を使ったのだが元々スッキリとした味の所為か、かき氷にかけても味が薄くなっただけ。シロップとしては不合格。

 他の者は初めての食感に騙されているようだが、俺は満足できない。しかし濃い味の物は知らない。


「おい、魔王。不思議に思っていたのだがお前のかき氷と私たちのかき氷が違くないか?」


「何を言っている? かき氷だ、両方とも。同じ」


 アリスたちのかき氷は縁日などで見かける、細かく氷を砕いたようなかき氷だ。

 俺のかき氷はまるで氷をかんなで削り下ろしたかのような薄い氷が重なるかき氷。

 どちらも同じかき氷ではないか。全く何を言っているのか。


「おかしなこと言う奴だ」


 口に入れた途端溶ける氷、その美味しさ故シロップが無いのが惜しい。それがあれば完璧だったというのに。


「いや、明らかに違うだろ!」


「そう言うなら自分で作ってこい。キッチンにあるから」


 分かった、と言ってアリスへキッチンに突撃していった。果たしてあいつにかき氷機がどれか分かるのか。氷の場所も知らないはず。

 厄介払いが出来て丁度いいか。


 全員がかき氷を食べ終えたのを確認して、本題に入った。


「さて、セルミナ。気づいているとは思うが今日が期日の十日だ。しかし残念なことに日が沈んでもイフリーナの姿はない」


「ま、待ってください魔王陛下。確かにイフ姉……イフリーナは着いておりません。ですが確実にこちらに向かっている最中です。もうしばし猶予を頂けないでしょうか」


「……ふむ、考えておこう。セルミナ、少し席を外せ、いや風呂にでも入っていろ。風呂から出てくる頃には答えが分かるはずだ」


 周りに縋るように視線を動かすが、何か意見が出てくることはなく、分かりましたと答えセルミナは大浴場へと向かった。

 ………………良し!


「あの、魔王様。ヴィとセキはお呼びになっていないのでしょうか?」


「すでに呼んでいる。が、あることを頼んでいるので来れないんだ。待機しているからな」


 待機? とランが首を傾げた。そうか、どこで待機しているのか知りたいか。それはな。


「大浴場で待機中だ」


キャアアアアアアアアア!


 それが誰の悲鳴なのか。言うまでもなかった。




「それではシバ、報告を頼む」


 セルミナがヴィら粘液生物(スライム)の餌食になっている間に会議を始める。

 これからの行動と役割を決めるのでアリスやライルも参加している。というかアリスが通常のとはいえ、本当にかき氷機を見つけたのは驚いた。本人は俺の食っているかき氷を作れなくて不満そうだが。

 

「はい。魔王様の命令通り部下を何名かアンダル近辺に潜ませていた所、イフリーナと思われる匂いを本日確認しました。戻ってきたと思われます」


 イフリーナをダンジョンから出した後、無事アンダルに到着し、アンダルから出て行ったかを確認するために命じたアンダル周辺の監視。アンダルから出て行ったのを確認後、撤収するように命令するのを忘れていたのだが、このような形で役に立つとは。

 昼ごろにシバから報告されていなければ忘れたままだった。当然すでに撤収させてあるが。

 しかし匂いで分かる物なのか。群犬(コボルト)の鼻を舐めてはいけないな。


「それが確かだとすれば遅れてはいるものの、返事を持っているのでしょう? よろしかったのですか魔王様。セルミナに罰を与えてしまって?」


「約束は守る物だと思っている。十日で戻れば何もしない。十日で来れなかったら罰する。そういう約束だからな。それに身体のどこかに異常が残るわけでもない。むしろ綺麗になれるのだろう? 問題ないのではないか? アリス?」


「まあ、確かに身体的には綺麗になるだけで済むけど、精神がなあ、削られるっていうか溶かされるっていうか。外傷はないけど、心傷が」


 ……そんなに危ない物なの? 騎士の最後を見れば粘液生物(スライム)が本気でやればどれだけ凄いか知っているから、アリスの時は無事なのを見て一切問題はないと思っていたんだが。

 トラウマになったらどうしよう。もっと軽い、ゼリーの中に身体を突っ込んだ物だと勘違いしていたわ。


「まあ、今も叫べる元気があるなら大丈夫じゃないか?」

 

 今も時おり聞こえるセルミナの悲鳴。確かに深刻な事態になるとは思いにくい。元気そうだし。

 他の者も納得し様子で頷く。ライルだけは何故かそわそわしていたが。……ああ、覗きたいのか。

 凍らされても良いなら、と許可を与えたがすぐに首を振られた。覚悟がないなあ。


「では次に、私は帝国に早期の交渉を望んだ。想定できる返事はイエスかノーだ。もしどのような、などの質問が返って来た場合は延期、ノーの場合はそれで終了だ」


「魔王様の提案を断るなどありえません!」


 ランを筆頭に魔族の配下は皆頷くが、相手の都合も考えてやって欲しい。いきなり敵の親玉が読めない手紙を出してきて、次には交渉をしたいだ。断る理由としては十分すぎるだろう。

 

「まあ最も望ましいイエスだが、この場合は帝国と交渉するわけだが、その際供を数名連れて行きたいと思う。一人では格好がつかんし、大勢では威圧と思われてしまう」


 ベストなのは二、三名だろう。そう思っていたのに供の望んだのは今いる魔族全員。アリスは興味がない様子で、ライルは場違いだと理解しているのか浴場が気になっているのか反応が無い。

 しかし、さすがに名持全員は多いな。


「カイやヒデ、シバは抜けたらそれぞれの種族が回らんだろう。リンとエナはどちらかを護衛としよう。それとランは着いてきてくれ、後々お前に任せるかもしれないからな。イチは残って蜘蛛人(アルケニー)をまとめてくれ。ヴィとセキはどうするか。今回はあまり余裕もないだろうし、待機してもらうか」


 アリスには今まで通りしてもらうとついでに、セルミナとイフリーナの監視を頼む。一人だけならまだしも、二人になれば動くかもしれない。解放すれば安全かもしれないが、今手放すには少々惜しい。


 ライルには特別な仕事を渡しておく。結局腐ってしまった寄生虫(パラサイト)入りワリの実から寄生虫(パラサイト)を探し移す作業。移す先も当然寄生虫(パラサイト)入りのワリの実。まあ、数が多いと邪魔なので新しいワリの実は三つだけだが。

 おそらく寄生虫(パラサイト)がおおくて大変だろうが頑張ってくれ。俺はやりたくないんだ。


 それから何か連絡事項があるか確認し、セルミナが粘液生物(スライム)から解放された辺りで解散となった。


 うん、深刻そうじゃないな。良かった、良かった。




 それから二日後、イフリーナが返事を持ってやってきた。

 内容は準備を進めておくのでいつでも来てほしいとかなり好印象な返答。

 俺はランとリンを連れてムスタング、その手前のアンダルへと向かった。


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