第六十二話 身体能力強化&魔法訓練
地球の嫌がらせかと思うほど暑い中、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私はMF&AR大賞一次通過や、感想を見て初投稿より一周年など嬉しいことが続いております。
ですが、良いことも続かずということなのか私の相棒が最近ストライキを起こすようになりました。
何がいけなかったのでしょうか。相棒を残しバルサンを焚いて映画を見に行ったことでしょうか。それとも室温三十四度の中酷使したことでしょうか。
どうか機嫌を直して執筆中にストライキを起こすのを辞めてください。私のやる気ゲージがへし折られます。
どうか、お願いですパソコン様。ストライキをやめ――プツッ
乗馬の訓練が開始された。
と言っても走らせるなどそんなことはしない。ただ乗っているだけ。乗る以外はまだ難しい。
ただ自由に歩かれると困るので、周囲に蜘蛛人の糸を張り巡らせて行動範囲は制限させている。
その制限された狭い中に俺と馬以外に二名だけ不動で立ち尽くす者がいる。
リンとエナだ。
二人は現在身体能力強化の修行中。身体能力強化の方法は自分の身体をイメージし、全身を魔力で満たせば良いらしい。
聞くだけなら非常に簡単に聞こえるが、実際は非常に難しい。何せイメージでは指一つ欠ければ失敗し、立つ姿、座る姿、歩く姿、今の自分の姿をイメージしつつ魔力で満たさなければならない。
リンとエナはまさにそれの真っ最中。とはいえ、座りも歩きもせずただ立つだけ。それだけでもかなりの集中力を使うようで顔に余裕は一度も現れていない。
これが出来ても次は歩き、走り、剣を振る。習得まではまだまだ長い道のり。
だがこの訓練を考えたのはヴォルト。やらせているのはアリス。ただ立つだけで終わるわけがない。
アリスは俺に時おり『重力』を使い身体能力強化が発動しているか確認と、負荷が掛かった際に僅かな身体の変化をイメージに反映できるようにして欲しいと。
魔王の俺も真っ青の鬼教官っぷり。
実際にやって分かったのだが、前者で失敗していると『重力』を使った直後に倒れ、後者で失敗するとやや遅れて倒れる。一度リンが『重力』に耐えたと思わせたことがあったが自力で耐えていただけだった。身体能力強化を使って耐えないと訓練の意味がないので五倍に増して強制的に倒れさせた。
そんな訳でそろそろ身体能力強化の訓練も終わりに差し掛かっている。始まってほんの四、五分だが先程から『重力』で確認する限りリンもエナも身体能力強化が発動していない。恐らく魔力が切れてきたのだろう。
魔法使いでなく、魔力の扱いとて初めてのはず。純粋に魔力が少ないのだ。続けていけば魔力の扱いに慣れ持続時間が増えるらしい。最初の内は三分ほどと聞いていたが中々頑張った方だろう。
アリスはレベルアップなどと口走っていたが残念ながらそんな戦闘を行う予定はない。魔法使い戦は偶然、いや馬鹿が引き起こした人災のようなものだ。期待してはいけない。
「「ご協力ありがとうございました」」
訓練終了。リンもエナも魔力が尽きて辛いだろうにまるで心地よい疲労感、とばかりにう満足げな顔をしている。
はて? 俺は魔力が尽きると酷い倦怠感の後に気を失うのだが、身体の造りが違う所為か。
「魔力が尽きるまで倒れず立ち続ければ合格だ。それまで励め」
「ありがとうございます」
馬に乗って話すと何だか非常に偉くなったように感じられる。ただ話している最中も馬が歩き続けるのがなあ。締りが悪い。
さて乗馬の訓練だ。ただそのためにはセルミナが必要だ。そのセルミナは目の前の家でランの魔法の講師をしている。
そうここは蜘蛛人の集落。そのため先程の訓練中もチラリと蜘蛛人が顔を出し、しきりにこちらを気にしていた。
ここで手でも振れれば良いのだろうが、今は手綱から手を離す勇気がない。なのでそちらを見返すので精一杯。それで蜘蛛人は顔を引っ込めてくれるが、すぐに別の所から顔を出すのでモグラ叩きのようになっていた。
そんな中、ついに馬が飽きたのか座り込んでしまった。もう一歩も動くつもりはない、とばかりに不動と座りを見せた。
それでは仕方がないと降りると馬はすぐに立ち上がり、自らを囲う蜘蛛人の糸に齧りだした。どうやら出たいようだが、丈夫な糸だ。馬の歯では千切れない。
そんな馬の横から堂々と糸の隙間に体を通して脱出。これ見よがしに馬の前でポーズを決める。
ガチャ
どこかでドアが開く音と共に直立不動になる。ポーズなんて決めてない。絶対に。
「おや、魔王様。もしや乗馬をすでに習得したのですか」
出てきたのはランのようだ。どうやら馬から降りて正面から向き合っているので勘違いしたのだろう。残念ながら違うのだ。
「いや、リン達の訓練が終わったのでな。少し降りていただけだ。それより魔法の訓練はどうした? もう終わったのか?」
まだほんの数分しか経っていない。おかげで休憩と言う言い訳も出来なかった。その数分で魔法の訓練が終わる物なのか? 座学から入ると聞いていたのだが。
「はい、簡単な話を終えて今から魔法を実際に見る所です。家の中では危ないので」
ああ、なるほど。だがもう少し座学をしてからでも良いんじゃないのか。良く分からんが、セルミナはアリスと同じ実践主義か。
「これは魔王陛下。蜥蜴人との訓練は終わったようですね」
セルミナも家から出てきた。その手には杖。どうやら本当に魔法を見せる。……しかしローブを深くかぶりすぎじゃ……、ああ馬に髪を食われた所為か。
「今さっきな。もし良かったら混ざってもいいか。魔法には興味がある」
「それでしたら先程の話を聞かれてはどうでしょう。短い話ですし。どうでしょうセルミナ」
「分かりました。それでは一度戻りますか」
ほんの数分で終わるような話だ。外で十分と考え、その場に聞くことにする。
何やらランが招きたそうにしていたが、なんだか蜘蛛の巣に飛び込むような気がしたから断らせてもらった。
「『魔法使い』というのは先天性の職業で後天性の職業である『剣士』『槍士』などはには数で劣ります。また最初に出来る魔法が指先から少しだけ出る程度なので非常に苦労する職業です」
先天、後天? つまり魔法使いになれるかは生まれたときに決まり、剣士などは条件を満たすことで得られるのか。そうなると魔王は先天性になるのか。
「他に先天性の職業で言えば魔物を使役できる『調教師』などですね。豚人の畑に蚯蚓がいましたからご存じでしょう。基本的に先天性の職業を得るのは運と言われていますが親が先天性の職業を持っていると子も得やすいとは聞きます」
聞けばセルミナの両親は魔法使いを持っており、姉も魔法使いとなるとその話の信憑性は高いと言える。
ランはあまり親の記憶はないらしいが、母親は職業を持っていなかったらしくランは運が良かったらしい。父親は生まれた直後に食ったらしい。
……今何か恐ろしい蜘蛛人の生態を知ってしまった気がする。
「ですので魔法使いを育てるには二つの方法があります。一つは魔法の威力が上がる魔力媒体と言う物を使うことです。これは『錬金術師』が作れるのですが非常に高い物で持ち合わせもありません。ですのでもう一つ、仲間に弱らせてもらいとどめを自分で行う方法です。こちらは安全で仲間も経験地が得られますが成長が遅いですね。私は後者をお勧めしますが」
魔法の威力を上げる魔力媒体か。『重力』に使えるのか気になり聞いてみたが、返って来た内容は残念なものだった。
「魔力媒体はまずそれぞれの属性で使い分けなければいけません。火、水、風、土。基本の四属性。凄い昔は光とか闇とかあったらしいですが絶えたらしいです。絶滅です。なので魔力媒体もこの四属性になります」
……『重力』はどの属性に入るのか。そもそも『重力』は分類上、魔法ではなく環境なのでどちらにせよ使えないのではないか。
とりあえず試してから考えよう。と思ったが、セルミナもイフリーナも魔力媒体なんてなくても強い魔法を使えるので持っていないらしい。魔力媒体は火力上昇を狙って二流の魔法使いが買うのだそうだ。一流の私達には必要ないと偉そうな顔をしていた。
なので魔力媒体を持っておけば俺に無傷で負けることはなかったのでは、と心を折っておく。セルミナは落ち込んだ様子を見せたがすぐに開き直った。
傷を付けていたら殺されていた、なので無い方が良かった。
一流を名乗るくせになんと惨めな発言か、と思ったが隣のランの様子を見てすぐにそれが正解なのだと悟った。
魔王に敵意あり、と判断したら闇討ちでもしそうなくらいランが恐ろしい表情をしていた。あれはレベル差なんて無視できる気迫があった。
「で、では職業や魔力媒体の話はここまでにして、魔法の実演に移りましょうか。魔法使いが必ず最初に覚える魔法。通称『ボール』と言いまして、私は『ウォーターボール』ランさんは『ファイアボール』ですね。属性によって威力が違いますが、私の場合は『ウォーターボール』あれくらですね」
飛んで行った水球は木に当たり、木々を揺らし当たった部分の皮を弾き飛ばした。
「火属性だともう少し強いですよ。とりあえずランさんはボールを覚えるまで指先から出る火で頑張ってください。それが出来たらボールに扱い方、ちょっとした技術も教えますので」
「分かりました。魔王様、しばらくシバら群犬達の狩りに参加してもよろしいですか?」
「別に構わんが大丈夫か? 最近ようやく掛け算を覚え終え、割り算が教えたばかり。蜘蛛人をまとめ、服や網を作って。大変じゃないのか」
そう言われては断れない。しかし新しいことを覚え始めたばかりで族長としての仕事もしている。更に外に出かけて大丈夫だろうか。ランが倒れるのも問題だが、それ以上に蜘蛛人の方にも支障が出来るのではないか思ってしまう。
網については遅れても良いがふんどしは早いうちに配り終えたい。服があるとはいえ、あんなものをぷらんぷらんされては目に毒だ。
「それですが、一部をイチに任せてもよろしいでしょうか? 魔王様から受けた命を他に者に任せてしまうことになりますが」
「良い。場合によってはランに様々なことを任せる。その際に部下を使うのを咎められるはずがない」
人任せを否定でいるわけがない。最終的には全てを人任せにして引き籠るつもりの俺が!
それに帝国との交渉が最高の形で終えればランの仕事が増えるはずだ。今から人に任せることを覚えておいてくれれば助かる。
「ありがとうございます! それでは失礼いたします」
言うや否やランは颯爽とダンジョンの外へと走って行った。
多分外で魔物を探すつもりなのだろうが、残念ながらこの周囲の魔物はほとんどいないぞ? 群犬のような足で遠出しないと見つけられないんじゃないか。
残された俺とセルミナは乗馬の訓練に戻る。それでようやく馬を自分の意思通りに歩かせることが出来た。
いや、待て。本当に出来ているのか。こいつセルミナが現れてから俺の言うことを聞くようになった気がするぞ。
その時にふと、気になっていたことを思い出したので聞いてみた。
「魔力を使い過ぎると酷い虚脱感というか倦怠感で身体が動かなくなり、意識を失うのだが。魔法使いも同じなのか?」
「そういう話は聞きませんね。魔力の底が尽きれば疲労感はありますが心身にそこまでの影響は……。そういえば幽霊系は魔力が身体でもありますから、魔力を使い過ぎると消えるというのは聞いたことがあります。魔王様もそれに近い何かなのではないですか?」
そんなこともあるのか、意外な情報に少し驚いた。
幽霊は魔力が身体になっている。では肉体のある俺は魔力を何に使っているのか。……血とか?
手を見つめれば血の通ってなさそうな手だった。斬って確かめようと思ったが怖いので止めた。
結局真相は分からなかった。
一周年ということなので新たに『異世界妖怪伝』を始めました。
当初は短編にするつもりだったのですが無理だと悟り、連載という形になりました。




