第七話 訪問者
「ぎゃあああああ!」
寝室に俺の悲鳴が響き渡る。
目覚めてすぐに顔を洗いに来たと俺は鏡に映った恐ろしいものを見てしまった。
のっぺらぼうの俺だ。
目もない、鼻もない、口もない。まるで肌色の卵でも頭に乗っているかのようだった。
目と思われるところを塞げば視界は閉じる、しかし鏡には何も映っておらず、目に触ろうとしてもガラスでもあるかのように少し前で指が止まる。
同様に鼻も見つからなかったが、口は見つかった。はっきり言ってのっぺらぼうの俺を見たときよりも衝撃的だった。
口を開いたら、肌色の卵から口が生えてきた。健康的な歯に舌もあった。閉じるとまるでそこには何もなかったかのように跡も残さない。
自分が人じゃないんだと今まで一番理解してしまった。
そんなビックリ事件があったおかげで眼が冴えてしまった俺は、玉座に座り果実を頬張りながら本を読んでいる。
青い実は非常時用に取って置き、今食べているのは冷やした緑の実。冷やすと口に広がる味が深くなり味わいも長持ちする。ついでに本に聞いた結果、これは毒を消す効果のある果実らしい。必ず一つは予備として保管することにした。
読み進めていくうちに色んな事が分かった。
まずクエスト。非常に討伐や占領などが多い。はっきり言って血生臭い。時折ダンジョンや配下のことが載っているがほとんど殺すか支配するかだ。意欲的にやることは多分ないだろう。
技能についても色々と分かった。入手方法はクエストの報酬、魔素を消費、職業を得てなどらしい。魔素と言うのは生き物を殺した際に得られる魔力の素のような物らしい。経験値? と思ったがそれとは違うらしい。まだ詳細に調べられていないが強力な生き物ほど多くの魔素を秘めているらしく、殺せば多く手に入るとか。経験値に近い何かとだけ理解できれば十分だろう。
職業と言うのはある一定の条件をクリアすると得られるものらしい。その職業のレベルと上げると自然と自分に合った技能が頭に浮かび使えるようになるらしい。そしてこれが一般的なんだとか。前の二つはこの本がないと利用できないから仕方がない。
俺の唯一の技能の『重力』を詳細に表示したところ。
能動技能
名称 重力
能力 重力を操る
分類 環境
最大規模 十メートル
最大威力 十倍
魔力消費 毎秒事に発生
解放条件 賢者の知識 真理の一片 を取得
になる。これだけ表示させるだけでもかなり本に質問した。説明下手どうにかならないだろうか。
名称は名前を。能力のどんな作用をするか。規模や威力は言葉通りで、魔力消費と言うのは使用した際に発生するものだ。これは毎秒なので燃費は良くない。
分類と言うのはその技能が物理と魔法どちらに入るかを判断する物らしいが、重力はどちらにも属さないらしい。
解放条件と言うのはそれを覚えるのに必要なものが載っている。例えば上級を覚えるためには下級と中級を覚えていなければならないとか。今回の解放条件だが、おそらく『異界の知能』がこの二つを埋め合わせる能力を所持しているのだろう。『異界の知能』はどんな能力を所持しているのか。
他にもその種族だけが得られる固有技能というものがあるらしい。こればかりは魔素の消費や職業では得られないらしい。クエスト報酬は無作為なので少しだけ希望を残しておく。
ちなみに俺の所持魔素だが群犬一匹分と虫十数匹分しかない。こんなんで得られる技能なんて、と思いながらも確認したら一つだけ言語を取得できることが分かった。有力候補は人間の人語か、群犬などが使う魔族の言語だ。
心情では人語、理性は魔族の言語に傾き迷っているので後に回している。
他にも二重の者の固有技能を使って俺の顔を変えて設定したり、持ち物のページで一覧には絵が表示されるように変更、絵に触れた際にその物の説明、二回連続で触れると飛び出すように変更した。
いやー、知識を得るのは楽しいけど目は凝るし疲れるね。
気が付いたらかなりの時間と果実を消費していた。
まだ読み進めていない所もあるが今日はこのくらいで良いだろう。時計はなく窓もないから時間が分からないが、体感からして夕方位か? 夕飯には丁度いいかもしれない。
キッチンに行き緑の実の在庫を確認すると底を尽きかけていた。あまりの美味さに食い過ぎたらしい。青い実もあるがこれは緊急用に取って置きたい。魔力の回復方法は今の所寝るか、青い実を食べるかしかないのだ。
もし採ってくるなら今しかないだろう。夜になれば夜行性の何かが動き出すだろうし、夜目が利く保証はない。夕方なら急いで行って帰れば安全だろう。
そうと決まれば行動あるのみ、夜間の行動など死を招くだけ。明るいうちに、扉を開けていざ行かん!
…………あれ? 扉を開けたら緑の壁が? こんなところに壁なんかあったっけ?
見上げてみるとそこには昨日瀕死の状態で倒れていたはずの緑の巨人が、すっかり回復した様子で立っていた。
緑の巨人はこちらを認識するとゆったりとこちらに手を差し出して。
「ガルグズゥ、ゴルグァ」
俺はこの瞬間、魔族の言語を先に取得することに決めた。