小話七話 ヒデの不安
ランは余裕を持って課題を終えた。
シバやカイは課題をこそ終わっていないものの、きちんと成果があり終えるまでの道程をある程度示したと聞く。
リンはどうなっているのかはあまり詳しくは知らなかった。課題の内容がどれ程厳しいのか分からなかったが、毎日の訓練をしているリン達が成果を出せないとは思えない。
ヴィについては課題なんてない。いつも勝手にしているのかと思えば魔王の信頼を勝ち取っていた。
それに比べて自分は、とヒデは試作品と言う名の明らかな失敗作を前に俯く。
課題を受け取った当初は自信に満ち溢れていた。
何せ今まで作れと言われた物は何でも作ってこれた。確かに柵については間違えがあったが、それはあくまで運用方法について。作成については何も言われなかった。
だから魔王からの三つの課題をすぐに終わると思っていた。
しかし、すぐにそんな思いがうぬぼれだったと気づく。
作れなかったのだ。
クロスボウ、バリスタ、連弩。どれもまるで作れていない。
魔王からもらった複数の絵。どのように動き、どのように使うのか。分かりやすく書かれているが、ヒデら小悪鬼にはどうしても作れない。
今まで作ってきたような単純な物とは違う、リヤカーの様に複数の部品が必要なようだが比べ物にならないほど違う。
「……ど、どうすれば」
魔王様の絵を前に、一人の中悪鬼が絶望の声を上げる。
その意味がヒデには分かる、設計をするために集まった中悪鬼の中で一番ヒデが理解している。
今日は魔王が成果を聞きにやってくる。
来てしまうのだ。
ヒデに残された道は二つ。
成果がないと正直に答え無能を晒すか。
山のようにある試作品と言う名の失敗作を成果と偽り無様を晒すか。
どちらにせよ、評価は急降下するだろう。
もしかしたら必要とされなくなるかもしれない。
物を作れない小悪鬼にどんな価値があるだろう。群犬のように統率され素早くもなく、豚人のように農耕の知識があり力があるわけでもなく、蜥蜴人程勇猛で戦闘技術もなければ、|《蜘蛛人》糸を生み出し編むことも出来ない。
最近そんな考えがヒデの頭に浮かぶ。しかし日を追うごとにその考えは強くなり。
「………………!」
「族長!」
ついには顔を真っ青にし倒れてしまうほどだった。
すぐに皆に起こされるが、顔色は依然そのまま。むしろ時間が経過するごとに悪化している。
「族長、お休みください。私たちが魔王様に報告しますので」
「だ、駄目だ。それは長である私がすること、お前たちが気にするんじゃない」
「ですが……」
気遣う部下達に責任は負わせられないと突っぱねるヒデ。どちらも退かず、長丁場になるかと思いきや。
「コチラニナリマス」
「案内ありがとう。……聞いたぞヒデ、順番で課題の成果報告を決めているそうじゃないか。それで今日はヒデの担当らしいな。気になってしまったので来てしまった」
魔王がやってきた。それも成果報告をすることを知って。
もはや退路は断たれた。
部下達が魔王の突然の登場に驚いている隙に、ヒデは一歩前に進み頭を下げた。
「本来であればこちらから報告に伺う所を、わざわざご足労いただきありがとうございます」
これで魔王と会話をするのはヒデの役となった。少し遅れて部下達も気づいたようだがもう遅い。横から口を出すわけにもいかず黙って見ているしかない。
「まず課題についてですが、申し訳ありません。クロスボウ、バリスタ、連弩、未だどれも完成しておらず、また完成のめども立っておりません」
「だろうな。むしろあの期間で出来た、出来る目処が立ったと言われたら驚く」
その言葉にふっとヒデに頭に希望が湧く。難しい課題で完成まで期待されていないのなら大丈夫なのではないか。小悪鬼にはそれほど期待していない可能性を除けば。
だがすぐにヒデは気づく。それでも何か成果があると思ったから魔王は来たのだと。生かも出せないと考えていたのならくる理由がない。
しかし今、自分たちに魔王に成果として出せる物は何一つない。
その事実に倒れそうになるヒデだが、何とか気力で持ち直す。
「ま、また成果についてなのですが――」
わずかな迷い。無能を晒すか、無様を晒すか。だがすぐに魔王に嘘は吐くわけにはいかない、無能を晒すことを選ぶ。
「未だ、報告できるような、成果は、ございません」
「そうか。おや、これは? スリングショット?」
一世一代ともいえるヒデの覚悟の報告を魔王はあっさりと流し、試作品の山の中から見るからに失敗作と思える物を取り出す。
Yの字に枝分かれたした棒。Yの字の枝先に蜘蛛人の糸を巻きつけ、枝分かれの根元に板を張り付けた、クロスボウ型の初期失敗作。
魔王はそれで遊ぶように木材の切れ端などを弾に糸を引っ張り飛ばすが、飛距離はまるで無くすぐに落ちていく。
「はっは、まるで飛ばん。これでは玩具、パチンコだな」
なのに何故か魔王はその光景を楽しそうに見ていた。それから更に何かないかと試作品の山を崩して探っていく。
その光景を見てヒデら中悪鬼は戦々恐々としていた。自分たちの目で見れば失敗作の集まり。何が魔王の逆鱗に触れるか分からない状況だ。
しばらくして、魔王の手がピタリと止まる。
「ヒデ、もしやこれはクロスボウの失敗作か?」
「は、はい」
同じような試作品に魔王が気づいたようで、ヒデの背筋が凍りつく。
失敗作の多さを叱られるのか、それともこれほど失敗作を造りだしそれでも成果がないのかと失望されるのか。
緊張するヒデに掛けられた言葉は想像とはかけ離れていた。
「木材に気を遣っているか?」
助言だった。
「その様子だと考えたことも無いようだな。木と言っても様々な種類があり当然特徴も異なる。堅い、軟らかい、脆い、軽い。それぞれの木の特徴を調査し、目的に適した木材を使うのだ。それと蜘蛛人の糸は耐久性なども高く使い勝手が良いが、弾力性が無い。だから新しく探すのも手だぞ?」
助言を貰えると思っておらず驚いたヒデの様子を魔王は誤解し、更に素材の重要性を説いた。
正気に戻り、魔王の言葉の意味を理解したヒデはある一件を思い出した。
長持ちするリヤカーとすぐに壊れるリヤカー。
その長持ちするリヤカーの数が豚人の方が多いと、群犬から苦情が来たことがあった。
今までは作成者の腕が悪かったと思っていたが、もしかしたら木材がリヤカーに適していなかったからなのではないか?
つまり気づけたはずの問題だった。頭に浮かぶは愚鈍や怠慢など卑下する言葉ばかり。
更なる努力をヒデは誓おうと。
「ん? ヒデ、お前疲れてないか? ちゃんと寝ているか? もしかして木材とかのことを気にしているんじゃないだろうな。こういうのは疲れているときや、頑張っているときは気づかないものだ。風呂とか気を抜いているときにポッと出てくることもある。寝る前にハッと気づくかもしれない。だからやるときはやる、休む時は休むんだぞ?」
したが、魔王の言葉を前に誓われることはなかった。
己を振り返りヒデは根を付け過ぎていたのだと気づいた。そして今、同じことを繰り返そうとしていた。
それにあっさりと気づき指摘した魔王。更にそれに労いが含まれていると分かり、涙が出そうになるのを必死に堪える。
「長居しても邪魔だろうから戻るか。……明日はリンの所か。不安だな」
邪魔なはずがない、ヒデは止めようとしたが今口を開けても出てくるのは上ずった声、そんなみっともない声で止めるわけにも行かず、そのまま魔王は出て行ってしまった。
それから少し間を置いて、落ちついてから振り返り部下達に顔を向ける。
先程まで成果がないと困惑していた表情など誰もしておらず、やる気に満ちた生気溢れる表情だった。
そんな部下達にヒデは満足げに頷いた。
「魔王様の言葉、皆分かったな。木材の調査、また糸の調査も必要だ。また、設計図も見直し、どこにどんな物が必要かも見直す必要がある。だが、今最も必要なのはそれらではない。分かるか? それは
休息だ!
全員一度寝ろ! これは命令だ、命令に反した場合作業には参加させない。一度寝て起きてから作業に移れ、分かったな!」
その日、ヒデは新たな誓いを立てた。
休むべき時は休む!
え? 休みすぎ? すみません。




