第六話 外の森
うわ~、外だよ。怖いな~。
と思っていた時期が私にもありました。
今? いやー、外って良いね。
心境がここまで劇的に変化したのも技能『重力』の扱いに慣れてきたからだろう。
『重力』を使用すると体から何かが抜けるような感覚を味わう、多分魔力的な何かだろう。しかも規模や威力により消費量が上下する。
規模は大体十メートルが最大範囲だろう。この範囲全ては勿論、一部だけ『重力』を発生させることも可能だ。
威力も十倍が最大と思われる。きっちり観察しながら計測したし。百とか千とか試しても発動しなかった。魔力が足りないのか、それとも別の理由があるのか。
ちなみに消費量だが規模も威力も大きいほど消費が激しくなる。実験中も一度だけ消費しすぎて虚脱感に襲われた。
そんな俺を救ったのがこの青い果実だ。そこら辺の木々に生え、味は林檎のようにスッキリしている。最初の毒物の可能性を考慮して、近くにいた丸太のような昆虫に投げ与えた。モリモリと食べ死ぬ様子もなかったので安全もある程度確保している。
これからの主食になりそうな青い果実だが、これには特性があり、食べれば魔力が回復した。
すでに十数個確保してダンジョンの中に放り込んである。
今はダンジョンの扉がある丘の周りを探索して果実を回収中。ある程度取ったら次の木に移動して、およそ半周が終わった辺り。
他にも珍しい物を見つければダンジョンに放り込み、後で本に聞こうと思っているのだが残念ながら見つからない。
さすがに青い果実だけで過ごすのは苦しいからいくつか欲しい。そう、あんな緑の実みたいな。…………あっ!
青の果実は木から実を生やしているが、あの緑の実は木から垂れるツタの先になっている。同種ではないようだし、さっそくどこか毒見役を……。
……………安全は確保された。
ひとしきり仕事を終えた俺はさっそく緑の実を食べてみる。ふむ、青い果実と違い身体の内側に満たされる感覚がない。魔力が回復するわけではないようだ。
味は甘く口に残る。おそらく水分量の多い実だからだろう。味も悪くなくこれも持ち帰ろう。
これの毒見をしようと丸太のようにでかい芋虫に投げたときに運悪く当たってしまい敵対してしまった、それも大群で。
『重力』三倍であっさり潰れ死んでくれたが、数が数なだけに大変だった。しかし転んでもただでは起きない。大群を相手している間に一匹の口に緑の果実を投げ込んだが異変はなく、普通に襲い掛かってきたので毒なしと判断に至った。
さて、いくつか回収して帰ろうかな。
探していると緑の実と同じ生え方をしている赤い実が目に入った。
当然回収、と近づきそこにある光景に驚いた。
戦闘跡だ。木々がいくつもなぎ倒され辺りには真っ赤な血が広がっている。あの赤い実もこの血で塗られただけの緑の実だった。
しかもこの戦闘跡に倒れている六つの死体。五つは人だ。装備もいくつか壊れているがかなりの良品に見える。そして残り一つだが、こっちは緑の巨人だった。三メートルはあるだろう、筋骨隆々というのだろう。立派な体だが、全身に刻まれた切り傷を見ると生きているとは思えない。
こうして見て最も驚いたのが、俺自身人の死体を見ても何にも感じていないことだ。記憶通りなら生理的に嫌悪を覚えていいはずだが、俺は装備を剥ぎ取れてラッキー、としか思っていなかった。
人の死体を集めてすぐに装備を剥ぎ取っていく。壊れていても何かに使えるかもしれないので、全部剥ぎ取る。他にも何かあれば良いと考えながら取っていくが、不思議なことに大きめの布袋しか持っていない。
くまなく探すが装備以外には見つからない。おかしいな、普通に考えれば道具や貨幣とか持っていそうなのだが。
ガサッ
不審な音。俺はすぐにその場から飛び跳ねる。臆病? 結構、生きることに矜持はいらぬ。
音の犯人はすぐに判明した。緑の巨人がおぼつかない足で立ち上がっていた。
なんという生命力。しかし血を流し過ぎて生き延びるのは難しいだろう。証拠に緑の巨人は立ち上がってすぐにまた倒れてしまった。
死んだのか、それとも立ち上がる力がないだけなのかは分からないが関係ない。
俺はもう巨人が起き上がらないように倒れた巨人の上に人間の死体を投げ込んでおく。これで起き上がれないだろうし、血の匂いに誘われた獣に食われるだけだ。
もうやり残したことはないことを確認して俺はその場から立ち去る。
いやー、大収穫だ。果実が二種類に、五人分の装備品。(壊れた分を含む)
果実は冷蔵庫に、装備品は本に収納させる。
風呂を軽く済ませて、さすがに疲れたのでベッドに飛び込んだ。
ふかふかの心地と襲い来る睡魔に抗わず、深いまどろみの中に落ちて行った。