第五十五話
うわっ! なにこれ怖!
スキンヘッドの冒険者、ダン・ダステルに変身して流れ込んで記憶と感情だ。
彼はこのコルター・カッシュの事を考えつつ、俺に怯えていた。
何故か、と探ってみれば冒険者ギルドの出会いでかなり俺に恐怖していたようだ。
おかしいな、絵に描いた冒険者がいたから顔を覚えようと念入りに見ていただけで、獲物を見つけて喜んだ顔をした覚えはないんだが。
後で誤解を解く? いや、もう関わらないだろうし放っておこう。話しかけたりしたら怖がられてしまう。
しかしこんな所でヴォルトの過去を知れるとは。意外だな。まあ、何の役に立つかは知らんが。
それにしてもコルターは戦闘狂、ヴォルトは斬殺魔、アリスも同じようなものだろう。
今更だが何で俺こんな怖い奴らと知り合っているんだろう。しかも俺を斬ることに執着しているとか勘弁してほしい。
「こっち見て何か用かハ……まお……ハゲ」
「お前今ハゲって言おうとして止めたけどやっぱり言ったな。ダンに謝れ、この人兜を被るために毎日剃ってんだぞ。後、俺はハゲじゃない。いつもの俺はハニワだから髪の毛を生やしていないだけだ。髪の毛の生えたハニワなんてキュートの欠片もない」
キュ、キュート? とアリスが顔を傾げている。やれやれ、意味が分かっていないのか。
「キュートは可愛らしい、愛くるしいという意味だ」
「いや、お前にそれはない」
こいつ何を言って、ああ今はダンの姿をしているからな。ハゲのおっさんに可愛らしさや愛くるしさがないのは仕方がないことだ。
「それで、私を見ていたが何か用でもあるのか。お前の技能で倒れた下の人に謝りに行くなら一人で行け」
「違うわ、記憶を探っていたらコルター・カッシュの名前が出ただけだ。それに下のあれは不幸な事故だ。誰かが悪いと言うわけではない。責められるべき人は一人もいない」
人はいないが魔王はいるだろう、という目でアリスが見てくるが気づかないふりをする。
「まあ、不思議じゃないな。子供に悪いことをすればコルターがやってくる、と言い聞かせるくらいに有名だ。あと帝国なら戦乱時の活躍で名が残っているんだろう」
なまはげみたいな扱いか。それだけ聞くと優しく聞こえるな。実際は戦闘大好き人間だ。
「しかし羨ましいな。戦乱の時は斬る対象に困ることはなかっただろうし、何より高レベルの人が増加する。さぞや斬り応えのある奴がたくさんいたんだろう」
ここにも似たようなのがいた。違うのは戦闘が好きか、斬るのが好きかだけだ。
「本当に怖い一族だな。いや、血縁関係はないから一族ではないか。まあ、関わりを持ちたくないのは変わらんが」
血縁も関係なく突発的に現れると考えると逆に恐ろしいな。
「そう言うが魔王、お前はコルターに感謝すべきなんだぞ」
何でだよ? むしろ俺を殺そうとする斬りたがりの爺を生み出した元凶のようなものじゃ。
「コルターの話を聞いて気づかなかったのか? コルターは相手がどこの誰でも勝負を仕掛けたぞ? 当然弟子だった師匠も同じだった。なのにお前とは斬る理由がなくなった、悪いことをしてくれと言ったんだぞ?」
……そう言えばそうだったな。だが普通に道徳や良心の導きではないのか。
「師匠はな、旅の経験から理解したんだ。盗賊や魔王、戦争中に敵を殺してもお咎めは無かった。だが近衛騎士団長、国王や冒険者などをしていた強者を殺すと非難を受け追い出された。つまり、悪い奴は斬ってもいいのだと。それ以外を斬ると面倒が起きるのだと」
何故か当たり前のことをアリスに力説された。そりゃ良い奴斬ったらダメだろ。偉い人斬ったら怒るだろう。まともな教育を受けていないのか? ……受けてなさそうだな、受けていたらもう少しましな頭をしているはずだ。
「とりあえずお前らの中に良識を叩きこむのに多大な犠牲が必要なのは分かった。そりゃこんな奴に顔を覚えられたと思ったらダンも恐怖するわな。……ああ、この辺境から別の所に引っ越すことまで考えているのか。申し訳ないな」
どうやら原因は他にもあるようだが、原因の一つになっているのは確かだ。よほど深刻に考えているようだ。しかしこちらも明日には帰る予定だ。手助けできるようなこともない。
もしどこかで出会えたらその時に詫びをしよう。覚えやすいし見つけやすい容姿だしな。
後はどの辺りに行くつもりなのかさえ……ん?
「アリス、精霊教というのを知っているか? どうやら主神教ではないようなのだが」
引っ越し先の条件として精霊教教会がある場所という指定があった。帝国では名前が変わるのかと思ったが、主神教は主神教でちゃんとあるらしい。血の精霊を信仰? 神ではないのか?
「知らんな。王国は主神教だけしかない。他は……、そう言えば国家群には主神教以外に宗教があると聞いたな。もしかしたらそれが精霊教なのかもしれんな」
ダンの記憶を探る限り主神教も精霊教も崇めているのが神か精霊かの違い以外何もない。……?
「俺の存在は冒険者ギルドから聞かされた? それも口止め付き? 他者に話すと冒険者資格が剥奪?」
何なんだこれは? そもそも主神教が魔王誕生を教えていると言う知識を持っていない。魔王に無頓着なだけ? いや、すでに首領悪鬼と接敵しているのだから新しい魔王など余計に気になるはず。
なら王国だけ特別? 主神教のみだから優遇処置? 馬鹿な、人族の危機と言っても良い魔王の情報を、優遇冷遇で決めるはずがないだろう。よほど腐っていない限りそうはならんはず。
………………。分からん。
「はあ、全てを知っている賢者のような奴がいたら楽になるのだろうが」
「私に期待――」
「絶対にしないから」




