第五十二話
ギルドってのは汚くて荒くれ者がいて受付が美人だと勝手に思っていた。
実際は意外に綺麗に掃除されていて、チンピラのような奴らが居て、受け付けはおばあさんだった。
幻滅しそうになったが一人だけ理想とも言える冒険者がいた。
大柄でスキンヘッド。大きな斧まで持って絵に描いたような荒くれ者。彼だけは目を逸らさなかったな。きっと本物の冒険者なのだろう。
ま、あの場にいた冒険者の顔は覚えた。後は宿屋に戻り顔を覚えた冒険者が通り過ぎるのを待てばいい。出来ればスキンヘッドのおっさんが好ましい。あれなら人ごみの中でも一目でわかる。
「そうだ、私は少し用があるから――」
「分かった、先に宿屋に戻っている。……そうだ、手紙は」
辺境伯に届くのか、と聞こうと振り返るとそこには誰もいなかった。
まあ良いか、宿屋で待っていれば。
驚愕の事実が発覚した。
それは俺が宿屋に戻り情報収集に精を出しているときだ。
ふと思い出した。物価はどうなっているのか。
ついでに貨幣価値にも詳しそうな人、ちょうどいた行商人に変身して記憶を調べた所。
コカートの肉は、串焼きの中でも最も安い肉だった。
あの時屋台ではコカートの肉しか流通していないのかと思えば、普通に高級肉も出回っていたと言う。
思い出してみればアリスが食っていた串焼きと俺の食っていた串焼きは別物だった。俺の串焼きに比べればアリスが食っていたのは大きく厚く出来立てのようだった。
あの女ぁ!
「おーい、そろそろ下で夕食だそう……ん?」
俺が何も知らないだろうと思って帰って来た哀れな女剣士。
「帰ったか、アリス。とりあえず扉を閉めろ。……さてアリス、君は私に何か言うことがあるんはないか?」
扉が閉まったのを確認して元も姿に戻る。やはりこちらが落ち着く。
「ああ、手紙の事か? 多分大丈夫だ。多少の手違いにあったけど、むしろ大成功になったぞ」
何だそれは? 実に気になるが今はその話ではない。後で聞こう。
「後で聞く。アリス、今はその話ではないんだ。屋台でお前が買ってきた串焼きの話だ。あれはコカートの肉だったよな。一番安い肉だ。それに対してお前が食っていた串焼き。あれ高級肉だったよな。どういうことかなアリス」
串焼きの話をした途端アリスの目が泳ぎだし、俺が聞き終えることには顔は間横を向いていた。
「アリス」
「ぐ、偶然」
瞬間、俺はアリスの『重力』を五倍で発動。
ミシィ
パリーン
床が軋むが気にしない。何やら割れる音も聞こえたが気にしない。
突然の『重力』にアリスは耐えるように力を入れる。
その硬直を見逃さず俺はアリスの片足を踏みつける。重痛い! 足の付け根に異様な負荷がかかる。
そこで終えるつもりはない、アリスの動きを封じたと同時に片手を振り上げ『守りの戦闘態勢』に変身。それと同時に『重力』が解除される。
すぐにアリスは距離を取ろうとするが、足の上に俺の足。易々とは抜けない。
そこにアリスの頭めがけ、振り上げていた手を重力に導かれるまま振り下ろす。
「タングステンチョップ!」
重さは速さに代わり叩きつけられるは最硬の手。
「痛っ!」
頭を押さえ苦しむアリス。ノブツナの姿になり足を離すとそのままのた打ち回りだすアリス。
「食い物の恨みは恐ろしい! 覚えておけ!」
ちなみに自分の身体を使った格闘術は今回が初めてだった。
本当に食い物の恨みは恐ろしい。
折檻終え、軋んだ場所を確認しておく。『重力』の効果とはいえ宿屋を壊すつもりはないのだ。修繕もするつもりないが。
とりあえず問題がない、と判断して夕食のために下に降りる。美味い物だと嬉しい限りだ。
何故か血まみれの男がいた。そして運ばれていった。
せっかく夕食を食べに来たのにいきなり血なまぐさい物を見てしまった。
「店主、あれはどうした?」
「よ、良く分からないのですが、酒を勢いよく飲んでいたと思えば、いきなり頭を机に叩きつけ、酒も後頭部に叩きつける狂人染みたことを」
まずは彼がいた場所を把握し、次に自分たちが取っている部屋を把握。おおよその位置を予測し確信する。
犯人は私です。本当にすみませんでした。
まさかピンポイントに下に人がいるとは思わなかった。
「ノ、ノブツナさん」
「アリス夕食だ。店主二人分頼めるか?」
名乗り出るつもりない! ばれなきゃいいんだ!
何やらアリスから責めるような視線が来たが無視した。




