第四十九話
街にはすんなりと入れた。と言うより門番に挨拶するだけでそのまま通れた。ブラントの時の様に身分確認などはしていないようだ。おかげで門番とろくに話も出来ず情報はおろか街の名前さえ分からない状況だ。
「それで魔王、この手紙だが」
「それはまだしまっておけ。まさかお前が帝国のことをほとんど知らんとは思わなかった。情報を集めるから宿屋に行くぞ。というか街の中で魔王と呼ぶな。この姿を取っているときはノブツナだ」
まさか街に入るなりアリスが今まで通り呼んでくるとは思わなかった。
中々賑わっている街で助かった。人通りが多くアリスの声もすぐに喧騒に消えて行った。
しかしブラントと違いここが賑わっているのは何故だ。分からん。
「ノブツナさんだな。分かった」
一瞬幻聴が聞こえた。
あれか、安い、人通りの多い場所が見える、でも外からは見えにくいなんて都合の良い宿屋を探していた所為か。アリスがすごく殊勝なことを言った気がする。
まさか――。
「どうしたノブツナさん」
なああああああああ!
「ど、どうしたアリス。いきなりさん付けなんて。頭を打ったか? 拾い食いでもしたか、まさかお前偽物か」
しかしアリスにそっくり偽物とは。ハッ! まさか二重の影か! いつの間に入れ替わった―――。
「んなわけあるか! ただ呼び慣れない名前だからそう呼んだだけだ。それにその姿の名前だからな」
「この姿だと何かあるのか?」
「かっこいいじゃないか!」
門番と挨拶しただけで目を逸らされた顔なんだが? さっきから周りを見るだけで通行人全員が顔を背けて、歩いてくる人も微妙に道を逸れてくれるほどなんだが?
まあ考えたらこの姿を作ったのはこいつとヴォルトなんだよな。形にしたのはライルだが。
「帰ったらライルにでも礼を言うんだな」
「そうだな、礼代わりにたっぷり扱いてやろう」
………ライルよ、今の内に休暇を満喫すると良い。
少しだけ探してみたがやはり俺の要望通りの宿はなく、仕方ないのでそれなりに安くて大通りが見える宿屋にした。
受付? 全部アリス頼りだよ。出来ないのもあるが女将が若くて俺の顔を見た瞬間逃げて行った。その後に出てきた旦那と思われる男も最初は良かったんだが、俺の顔を見た瞬間出来るだけアリスと話をしてすぐに厨房に逃げて行った。そこまで怖いのか?
「いや、かっこいいと思うぞ? 渋くて強そうだ。いつもの顔よりよっぽど良い」
何を言っている。ハニワ顔の方が描きやすいしキュートだ。それにあの顔を見て驚いた奴なんていないぞ。むしろあの顔に愛くるしいと思っている奴だっているはずだ。
「それで、情報収集なんてどうやるんだ? 情報屋とかに当たるのか?」
「もっと簡単だ。アリス、誰かが来たら教えてくれ」
窓を少しだけ開け態勢を低くして椅子に座る。これだけすれば外からこの部屋を覗こうとしてもほぼ見えまい。
それでは連続で『変身』していこう。
「ああ、そんな使い方もあるのか」
「ノブツ、いや魔王でいいや。見張り飽きたんだけど」
「そう言うな、かなり色んなことが分かったんだ。もう少し待っていろ」
魔力補給のためにオワの実を齧りながら床に座るアリスに言う。
見張りをしているならベッドで休んでも良いぞ、と言ったが私室にソファに比べれば床もベッドも変わらないと返された。否定はしない。宿の女将には悪いが事実だと思う。
アリスのは悪いがもうしばらく見張りを続けてもらう。色んな情報が入ってくるが、どうにも複雑すぎるのだ。
まずここは帝国のファース辺境伯領にあるアンダルと言う街だ。
ここより西には山脈に最も近い街が、東には国家群との国境に近い街がある。
両街とも防衛の要衝なのだ。相手が首領悪鬼か国家群違いがあるだけで。
そんな要塞のような街に最も近いのがアンダル。更にオワの大森林に近いと言うこともあり冒険者の町でもあった。その為、この辺りの商人は一度アンダルに寄りその後に両街に行くらしい。
ここアンダルが賑わっているのは交通の要衝だからだ。
しかし今、この街に冒険者はほとんどいない。いても商人の護衛としているだけの冒険者だ。
何で? 俺の所為。
それなのに商人はここに寄っている。人通りは多いまま、何故なのか。
実に簡単。俺の存在を知らないからだ。
何で冒険者は知っているのにここに来る商人は知らないのか。実に気になる。だが、事情を知っている冒険者はほとんどいない。いない奴からは記憶を探れない。
さっきから冒険者っぽい奴を探しているのだが。変身してチンピラだったり兵士だったしたときのがっかり感。
場所が悪い? しかし情報は確かに集まるし。…………。
行き詰っているのだろうか。
「なあ、魔王。腹が減った。何か食いにいかないか?」
そうだな、気分転換でもすれば別の考えが浮かぶかもしれない。
「行くか、何か良い物があると良いな。他に行きたい場所はあるか?」
「んー。あ、手紙出すんだろ? ギルドに依頼出そう」
あ、そこなら冒険者いるじゃん。




