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第四十六話

 初めて遠出で疲れていた、ダンジョン(我が家)で安心した、安物宿屋と寝室のベッドでは質が桁はずれだった。様々な要因をおかげで俺はぐっすりと眠れ、快適な朝を迎えられた。

 確かに外の世界のベッドの大半があんな板みたいな堅さだったら、私室のソファに固執するアリスの気持ちがわかる。譲るつもりはないが。

 朝食を摂りつつアリスがいないか探すが私室、キッチン、風呂にもいなかった。すでに訓練に出てしまったのだろう。蜥蜴人(リザードマン)の課題について意見を聞きたかったのだが。


 今日の予定は、すでに課題について配下全員が知っていると考え、カイとシバに進捗具合を聞く。その後訓練をしているアリスに蜥蜴人(リザードマン)の課題について意見を聞きに行き課題を決める。その後、小悪鬼(ゴブリン)蜘蛛人(アルケニー)にそれぞれ開発する者の説明をする。

 うん、完璧だ。午前中に終わらせられる。

と思い玉座の間から一層へと扉を開けるとそこには。

二匹の大粘液生物(ビッグスライム)がいた。


「魔王様、名前貰いに、来ました」


「名前、貰える?」


 すっかり忘れていた。名付け何て最大の難関じゃないか。

 一匹は族長であるヴィ。おそらくもう一匹が今から名づけなければならない大粘液生物(ビッグスライム)なのだろう。

 ちなみに、粘液生物(スライム)は誰もが同じというわけではない。いや、姿形は粘液だから関係ないかもしれないが。

 例えば色。水の様に透き通るような奴もいれば、泥水の様に濁っている奴、苔でも生えているかのように濁る奴様々だ。

 他にも粘度も違う。ドーム状に張りのある奴、水たまりの様にほぼ溶けている奴、自由に変えられるらしいが何もないときの粘度は好みの差らしい。

 なお、ヴィは色が青みかかっているが身体を通して向こうが見える程度には透明度があり、粘度は張りよりも粘り気を重視しているらしい。

 今回連れてこられた奴は血のような赤。更に高い弾力性のありそうな張りのある粘度。色は日頃の食事に影響されることが多いらしく、ここまで赤いのは血を好むからとして思えない。その高い弾力性で小動物を殺して溶かしまくっているんじゃないか。かなり凶暴なんじゃないかと思ってしまう。


 個性的なのが良いと願ったがまさかこんなのが来るとは。


「分かった。だがその前に、これからどんな自分になりたい? 自分の目指す目標とかはあるか?」


 出来れば分かりやすくて、簡単で、名前を連想しやすいのが良いなー。……無理か。


「えっと、足が速くなりたい、です」


 ………足? え、どこにあるの? 何かの比喩?


「あははー」


 意味が分かっているのかヴィは笑い声を上げる。俺には分からんよ。


「ヴィ、どういう意味か説明してもらえるか?」


「んーとね、こいつ、蜘蛛人(アルケニー)の所から、花を盗んで食べているから」


「族長―」


 ………うん? えっと、今のは足が速くなりたいのは蜘蛛人(アルケニー)から花を盗んで食べるため、という意味か。足を速くは比喩でもなんでもなくそのままの意味か。


「魔王様、赤い花は味がするんだ」


 もしかしてこいつが赤いのはその花の所為? そう言えば前にランが着色について聞いていたがその花は材料か。


「あのな、他の種族の物を盗んじゃ駄目だぞ」


 血に飢えているわけではないと分かれば怖くない。子供の頬を引っ張るような感覚で張りのある粘液を引っ張る。


「うう、ごめんなさい」


 素直に謝るのは良いが、今はそんなことはどうでも良い。引っ張った部分の液体だけが伸びてまるで角、いや萎びているから耳の様に見える。まるでウサギの耳だ。


 ………決まってしまった。


「お前はこれからセキと名乗れ」


「え?」


 まさか叱られてからすぐに名を貰えるとは思っていなかったのだろう、驚きと困惑の声を上げる。

 うん、俺もまさかこんな形で名前が思いつくとは思わなかったよ。


「不満か?」


「い、いえ! セキ、ありがとうございます!」


 セキは嬉しそうに跳ねている。うむ、弾力のあるセキだから出来ることだ。

 しかし難関だと思えっていた名づけがこんな簡単に終わると、今日は幸先がいい。他のも簡単に終わるかもしれないな。


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