第五話 魔王動く
とにかく当面の目標は出来た。
この本から得られるだけの知識を得、その後俺がこの世界で生きるかを考えよう。
魔王の使命? 冗談じゃない。
他種族の襲撃を返り討ちにして駆逐せよ?
まず俺は人間しかしらん。つまりほとんどの種族が未知の敵だ。
それをどう対処しろと? どう征服せよと?
俺の作戦は「いのちをだいじに」だ。ガンガン行くつもりはない。
幸いここは一面が森だ。すぐに他種族の刺客が来る可能性は低い。
あの狼、というか群犬は半分近く俺が誘き寄せた所があるからな。迂闊には外に出ないようにしよう。
とりあえず最初にすべきことは。
くうぅ。
……うん、腹ごしらえからだな。
とはいえ、今あるのは何の肉か分からない肉だけだ。ふむ。
持ち物のページを開く。
「この肉は何の肉だ?」
すると半分が白紙になり説明欄が出現した。
上手くいったことに拳を握りしめた所。
『鳥の肉です』
俺を襲ったのは本の説明不足。
つい握り拳を肘掛けに叩きつけ、大変なダメージを負った。この玉座すごく堅い。
「何て鳥だ?」
『コカートの肉です』
「コカートとは何だ?」
『食用として家畜されている鳥です』
何で肉一つを知るためにこんなに苦労しなければならないんだ。
後で効率の良い質問方法も考えないといけないな。
さっそくコカートの肉で作ったから揚げを頬張りながら俺は次を考える。
何せ聞きたいことなどたくさんあるのだ。
技能、他の魔王、ダンジョン、世界、種族など等。
それらを一つ一つ丁寧に聞いていては説明下手の本だ、餓死する方が早い。それに常識的な何かを聞き逃す可能性もありうる。
なら良い方法は。
「……至急知っておくべきこと、知らねば命に係わることはあるか?」
いっそ相手に任せてしまえばいいのだ。どうせ知らんことばかりだ。
本はまた考えるかのような間を置いてから、ページが点滅した。そう全てのページが。
「全て読めと……。まあ、間違ってはいないだろうが」
確かに本からすれば載っている内容は全て知っておくべきことだろう。この中には確かに知らないと命に関わることがあるだろう。
だが、これを全部読むのにどれほど時間が必要だ。そもそもクエストのページなど一覧があり、それを触れて詳細を読むなど一ページが一ページではないんだ。
それに内容に質問すれば更に時間が掛かる。一日二日で終わるとは思えない。
そう都合よくもいかないか。じっくり時間をかけて理解しよう。
「外に出ずに食料を手に入れる方法はあるか?」
『クエスト達成報酬、ダンジョンを増築しそこで農園などを作る』
なるほど、そう言えば肉を手に入れたのはクエストを達成したからだったな。何のクエストかは知らないが。
ダンジョンの増築は、多分本を読んでいる内に分かるだろう。農園を作りたいのは山々だが種を持っていなければどうにもならん。
クエストのページを開き一覧から報酬が食料の
『配下に加えよう』
ダンジョン外にいる種族を自分の配下に加えよう。
報酬: 食料 種 武器 無作為
うん、無理。他種族と交渉できないし、外に出たくないし。
他に何か良いのは。
『他種族の集落を襲撃』
他種族の集落を襲撃しよう。殲滅でも良し、支配でも良し。魔王のらしさを見せつけろ!
報酬: 経験値(小) 食料 野菜 肉 武器、防具 無作為
全然駄目だな。やる気が起きない。そもそも俺は何のクエストをクリアしていたんだ。
『門を開こう(クリア済み)』
準備は終わったかな? いざ扉を開け世界へ。
報酬: 無作為技能箱
『他種族討伐(クリア済み)』
自分に逆らう愚かな敵を討とう。
報酬: 食料 肉
ああ、こんなクエストだったのか。門は知らずに開けたし、討伐に至っては偶然だ。というか準備とかあったのか。
『ダンジョンを増築しよう』
ダンジョンポイントを使用してダンジョンを増築しよう。
報酬: ダンジョンポイント(小) 食料 種
外に出ないで済ますにはこれか。しかし食料が種ではどうしようもない。
他にもクエストを探してみるが出来ないものか、報酬が食料ではないものだけ。
困った。どうやら外に出ずに食料を得る方法がない。
………………仕方がない。外に出るか。