第四十三話
……間に合った。
目の前にあった人並みの大きさだった山が、今は六等分され膝ぐらいの山になっている。
中悪鬼に渡す工具や釘。これで製作の幅が広がるだろう。
軍犬に渡すナイフや縄。狩りの時に血抜きやら運ぶときに使えば良い。本当なら縄ではなく蜘蛛人の糸が良いのだが、数が余っているわけではないので回せない。
猪豚人には農具。今までの石や木製とは違い鉄製だ。元々力はある種族のなので更に開墾が進むはず。
蜥蜴隊長には武具を。と言っても革で出来た安物で前に褒美として渡した騎士団の物に比べると劣るが、無いよりはましだろう。
女郎蜘蛛には針を。これでようやく裁縫が出来るようになる。今までの不出来な服がまともになるだろう。糸も入っていたが、蜘蛛人の糸の方が丈夫なので使わないだろう。
こうして出来上がった五つの山。それとはまた少し離れた所にあるのが薬など全体に使用するべきものが置いてある。
俺は『自動回復』があるし、ダンジョン内ならひと眠りすれば大抵の傷は癒えるから必要ない、と思われるかもしれないが寄生虫など回復では治せない状態異常のようなもの、もしくは外に行くときに携帯させればいい。
ちなみにヴォルトが買ってきた中に魔法薬はない。意外に貴重な物らしい。通常の薬と異なり即効性があるらしい。今は別の所に保管してあり、休む暇のないとき、重体の者が現れたら使うことになるだろう。
ま、使う機会は滅多にないだろう。使う事態になるのを防ぐのが今の目標だ。
……しかしまだ来ないのか。仕方ないので玉座に座り待つことに。
「だ、旦那? なにやらお呼びとのことで」
辺りをきょろきょろと警戒しながら恐る恐るといった様子でライルが入ってきた。どうやら一人だけのようだが。
「お前だけか。他の奴らは」
「アリスの姐さんは訓練の途中だったので締めに入ってましたッス。ランさんらはヒデさんに話があると言って一度集まってからとかそんな話を……」
周りに罠もなければ処分されるわけでもない、と分かったのかライルは随分と砕けた感じになった。
そうか、まあそこまで急ぎの用でもないし問題はない。急いで来られたら整理が間に合わなかっただろう。
それに丁度いい。
「ライル、話に聞いたところ最近ヒデやランの所に出入りしているらしいが、理由はなんだ?」
別にダンジョン外に出なければどこに行こうと問題ないのだが、逃亡するための下調べや戦力の調査だった場合困る。
さすがに素直に言うとは思っていないが、聞いた後でライルに変身すれば分かることだ。
「あ、もう旦那の耳に届いているんッスか。一応自分の立場は分かってるんッスよ。でも、さすがに暇で何かお手伝いできないかな~、と思っていたら手伝えそうなことがあったんでヒデさんのとこに行ってるッス」
揉み手でへこへこと頭を下げる姿に小物集を漂わせるが嘘を言っているようには思えない。一応筋も通っている。
念のためにヒデの所で何を作ったのか確認だけしようと思う。
「なるほど、ではランの所も同じ理由か?」
「ええ、一緒に裁縫をしに」
「…………ん?」
その一言で場が固まった。
ミスをしたことに気づいた様子でライルの表情が若干強張っている。
「おかしいな。蜘蛛人達には編み物しか教えていないし、針はまだ渡していないから裁縫なんて出来るはずがなんだが?」
「あ、あれー? おかしいッスね。き、記憶違いッスかね~」
「そういえばお前魔族語話せるのか?」
アリスに通訳させると言う方法もあるが、それは黙っておく。怪しいから。
目を晒し、滝のように汗を流すライル。
「ミ、ミブリテブリデー?」
「変身」
怪しきは調べよ。
すぐさまライルに変身して記憶を探る。何やら男の悲鳴が聞こえるが知るか。
………………。
「あのなあ、ライル」
「し、仕方ないじゃないッスか! 俺だって男なんッスよ! あ、あんな胸見せられたら」
ライルの行動はヒデら小悪鬼に関しては嘘偽りなく事実であり、材料を貰って近くで木彫りをしているだけだった。
ただランら蜘蛛人に関しては全く違う。ライルは確かに近くまで行っているが、手伝いも何もしていない。近くで隠れていただけだ。何故か。
蜘蛛人を覗くためだ。胸に布を巻くだけの扇情的な姿の蜘蛛人を。
半分は蜘蛛だが、半分は人なのだ。それもかなり美形な。半分に目を瞑れば欲情できるかもしれないが。
「お前本当に立場分かっているのか? 捕虜みたいなもんだぞ? 何で監視側を覗いているんだお前」
「あんな美人の集団が近くにいれば仕方ないッスって! 男なら誰だって…………旦那って男?」
見た目はハニワだもんな。判別が付くわけないか。
「二重の影に性別があるかは知らんが、男のつもりだぞ」
性別は二重の影にあるのか? いや、自然発生しそうなイメージがあるな。交配できるとは思えないし。
見た目はハニワでも心は男なんだ。別に問題ないだろう、うん。
「なら旦那も分かるッスよね!」
「残念ながら今まで出会った相手、一人たりとも欲情したことは一度もない」
というか生まれて一年経ってないし。ゼロ歳の魔王に何を求めているんだこいつは。
「とりあえず知ってしまった以上は罰を与える。このことはランを通じて蜘蛛人に話す。しばらく白い目で見られるだろうな」
そんな……、と膝から折れて倒れるライル。しばらくするとぶつぶつと、汚物を見る目、それもありか、などと言っているように聞こえたが、幻聴だろう。幻聴でなければドン引きだ。
「来たぞまお――うおっ、ライルが二人いる!」
ふてぶてしく入ってきたアリスは現状を見て驚いた様子だ。まあ、偉そうに座っているライルとその前で倒れているライルが居れば驚くか。
先ほどまで訓練をしていた所為か、汗を流しているが呼吸の乱れはない。せめて来る前に汗ぐらい流して欲しかったが、風呂を使う気なのだろう。一層に川もあるだろうに、本当に図々しい奴だ。
まあ、混乱させるつもりはないので元の姿に戻る。
「アリスか、丁度良い所に来たな。実はライルが蜘蛛人を覗きしていたことが判明してな。罰を与える所だったんだが、お前が扱いてやれ。どの程度やるかはお前に任す」
「はあ、よくもそんな下らんことを。そんな邪な考えが出ないほど扱けば良いんだな? 来いライル、ダンジョン内一周で許してやる。群犬に勝てたらという条件付きだがな」
首を掴まれアリスに引きずられていくライル。まだぶつぶつと言っているが状況を理解しているのか? いかに群犬とはいえ、犬らしく持久力も速力も人間の比ではない。
もしこのまま始まれば一縷の希望もなく、ただ許されるまで走ることになる。ふむ、手助けをしてやろう。
「そういえばなアリス、お前の尻を見て興奮していた記憶もあったぞ」
「ああ、あの時隠れてみたいたのはそれが理由か。全くあほらしい。ライル特別に金属製防具をつけて走れ。転んだら危ないものな?」
心当たりがあったのか溜め息を吐きながら、腰の魔法の袋から騎士一式の防具を引っ張り出す。あの修繕痕、俺が蜥蜴人に渡した褒美の一つだな。何故アリスが持っている、訓練で使ったのか。
まあ、褒美を誰が持っていようが別に良い。盗んだ、と一瞬頭を過ぎるがすぐに否定する。アリスがそんなことをする理由がない。あの程度鎧、アリスからすれば紙と変わらん。
それに目的通り手助けも出来た。折檻の。
結局ライルは正気に戻る前にアリスに連れて行かれてしまった。
引きずっていくアリスの背を見送って少しして。
「あ」
大事なことを思い出した。
アリスの持っている魔法の袋に用があるんだった。
現在ダンジョンには二つの魔法の袋がある。俺の持っている冒険者から奪った物とアリスが持っていた物。
容量はアリスの方が多く、袋の大きさもアリスの方が大きい。では何故俺が小さい方を使っているかと言えば、小さい方でも十分に入り、倉庫として利用するなら『ダンジョンを造ろう』に詰め込めばいい。あっちは勝手に整理してくれる。
ただしダンジョン外に持ち出せないので、外へ行くときは魔法の袋を利用する。まあ遠出は初めてだったが。
話は戻りアリスの持つ魔法の袋に用がある理由だが、俺はアリスの持つ方の袋の中身を知らない。確認もしていない。
だから今探している物がもしかしたらあるかもしれない。だから聞いておきたかったのだが。
別にそこまで急ぐ用ではない。こちらの準備も終えていないしな。
ただもう一つ思い出したことがある。
それは。
「さて、呪殺、祟りの類はあるか?」
アリスの師、ヴォルトを呪うための技能を探す。クエストのページが虹色に輝き存在感を主張するが無視する。
あの時の恨み晴らさでおくべきか。
が、残念ながら無いようだ。丑の刻参りくらいにしておいてやろう。
仕方ない、と材料があるだろうかと確認しようとしたとき、目の端に気になる技能が映った。
『寄生無効』
これがあれば俺はあそこまで苦しまずに済んだんじゃないのか?
取得条件を見ると様々な異常耐性系技能が必要のようだが、今は騎士団全滅させた時の魔素が残っている。
足りるか確認してみると、魔素がかなり減るが獲得可能な模様。
それでは。
『毒軽減』『毒半減』『毒激減』『毒無効』『麻痺軽減』『麻痺半減』『麻痺激』『麻痺無効』『魅了軽減』『魅了半減』『魅了激減』『魅了無効』『混乱軽減』『混乱半減』『混乱激減』『混乱無効』『睡眠軽減』『睡眠半減』『睡眠激減』『睡眠無効』『寄生軽減』『寄生半減』『寄生激減』『寄生無効』
うわ、一気にたくさん取れた。と思ったが同じものが被っているように見えるが。
……なるほど、若干効果が異なるらしい。
軽減は25%、半減は50%、激減は75%、無効は100%の確率で状態異常を無効化できるらしい。
実にありがたい。とはいえ、油断はできない。他にも状態異常は残っている。
魔素もかなり減ってしまったしな。念のため他の異常耐性技能を取るわけにもいかない。
これから技能を取るときは慎重にいこう。
ついでに虹色主張をしているクエストページも開いておく。目の端がチカチカしてうざかった。
当然と言うべきか、いくつかクエストがクリアされていた。
『人族の街に偵察に行こう』『職業最上位と戦おう』
報酬は……、前者は種だ。まあ偵察だから良い物は手に入らないだろう。
後者は期待できるはず……。ダンジョンポイント、経験値。
ぬ、数値としては理解できるが目に見えて分かる物の方が嬉しかった。
まあ、貰える者は頂いておこう。
Push!!
『ノブナガはレベル1に上がった!』
……え? え! レベルアップした! だが。
俺って今までレベル0だったのか!
…………ぬぬぬ。
どうやら本当にレベル1らしい。
生まれた直後はレベル0であり、食事などを摂るとすぐにレベルがあがるらしい。一般的には。
しかし俺は魔王。当然レベルが上がるための経験値も魔王級。
だが騎士団殲滅の一件で上がっていても、と考え調べてみたら大変なことに気づいてしまった。魔素の取得と経験値の取得は条件が異なるのだ。
魔素は生物が死亡した際に所持していた魔力に特殊な変化が起こり、大気中に拡散する。その近くにいた際に自動で吸収される物。
経験値は対象を討伐することで得られる。この時複数で単体を討伐した際は均等に振り分けられず、与えたダメージなどに比例して得られる。
つまり魔素は新鮮な死体の近くいれば自然と溜まり、経験値は敵を討伐、またはダメージを与えておかねば得られない。
騎士団の時は俺がしたことは囮となり攻撃を引き受けただけ。攻撃などバッハなど数名を踏んだだけだ。
確かに魔素は大量に得られ、経験値はほとんど得られないわけだ。
当然ヴォルトとの戦闘も経験値には加算されない。相手を殺さない限りなんら意味がないのだ。
衝撃の事実。
更に追い打ちの様に気づいてしまった。
俺はレベルアップが非常に難しい。
防御性能なら未だに自分を上回る生物を見たことが無い。おそらくこの近くには居ないだろう。いたらヴォルトが嬉々として狩っているはずだ。
しかし攻撃性能は、微妙としか言いようがない。
『重力』 強力な技能だ。無音無動作で発動可能であり、範囲もそこそこ。雑魚狩りならば十分役に立つ。だがヴォルト級ならば間で避け、アリスやオルギアなど強者は耐えてしまうだろう。いくら雑魚を狩れても強者を狩らないと経験値は得られない。
『偽りの私』 固有技能とあってかなり強い。一対一ならヴォルトと戦った時の様に一時的に押すことも出来るだろう。だが問題もある。まず相手の強さをそのまま映すわけだから負ける可能性もあり、複数で来られればその時点で負ける。
攻撃特化の技能を持っていないことが悔やまれる。
………………本当に? 別にいらないんじゃない?
レベルアップして何が得するかと言えば強くなる。それだけのはず。
強くなる必要があるのか? 防壁を築き防衛兵器を作れば良いんじゃないか? 俺がレベルアップする必要なんてないじゃないか。
何だかそう考えたら気が楽になった。
あっはっは。
「魔王様、失礼いたします。遅れて申し訳ありません」
下がった気分が元に戻った頃、ランを筆頭に幹部たちがぞろぞろと入ってくる。
というかランの奴魔族配下筆頭の地位をいつの間にか手に入れてないか? 恐ろしい奴だ。
「おや、アリスとライルがすでに来ていると思いましたが」
「あいつらとの話はすでに終わった」
アリスは用事があるから後でもう一度呼び出すが。
「呼んだ理由は目の前にある山を見れば分かると思うが、外に出たついでに買ってきた物だ。それらを使いこれからの作業に役立てるように。使い方が分からんものはあるか?」
全員の目が分けられた道具の山に向く。
指示を出す必要もなく道具の種類で誰がどの山は理解して、それぞれの道具を手に取って見る。
見る限り使い方が分からないという様子はない。持ってはいなくても知ってはいたのだろう。
「このような物を頂きありがとうございます。これからも魔王様のお役にたてるよう一層精進致します」
いち早く山の中身を見終えたランが頭を下げる。やはりこういうことをして筆頭の地位を既成事実の様に作り上げたのか。
他の者もすぐに気付き少し遅れてから頭を下げる。
さすがにいつまでも誰かに頭を下げさせている、と言うのは俺の精神的にあまりよくない。
「良い―――」
「おいし~」
場違いな声が場に響く。
声の方向に全員が目を向ける。そこにいたのは。
「ヴ、ヴィ!」
「ん~?」
ヴィが少し離れた場所においておいた薬の山の中に突っ込んでいた。
しかも何故か緑色になって。
「な、何をしているんだ?」
「ごーはーん」
壺の中から薬と思わしき液体を摂取している。
「だ、駄目だろうが!」
それはダンジョン内全員で使う物、と言いかけて気づく。
ヴィのために買ってきたものがない。
別に忘れていたわけではない、というか必要だと思わなかったと言うのが事実だ。
粘液生物達の仕事は消化だ。だから道具も何も必要ではない。他の種族はまだ不便に見えたり進歩の余地があったから買ってきた。
とはいえ、一種族だけ渡さないというのは問題にならないだろうか。
ダンジョンに粘液生物は必要不可欠だ。第替不可。しかしここで何も与えなかったと理由で出て行かれたら、非常に困る。下水も汲み取りもまだ無理なのだ。
ではどうするか、薬を与えるか。薬はいますぐ必要な訳でもない、後で購入してくればいいだけだ。
それにヴィが何故か気に入っているようだ。奪い取るなんて出来ない。
「ヴィ、それはお前を含め配下全員に渡す物だ。お前だけが味わって良い物じゃない」
「ごめん、なさい」
しゅるしゅると角に伸ばしていた手? 液体にしか見えないが。それを戻して小さくなる。
「分かればいいんだ。しかしあれだな、これではお前だけでは持って行けんな。私が預かっておこうか?」
あわよくば少しだけ回収して緊急用に、と考えたが。
「大丈夫です」
体全体から手? 液体で出来た触手を伸ばして壺などを持ち上げる。
「ね?」
「そ、そうだな」
何だか意外な物を見た気がする。粘液生物って器用なのか。
ヴィの突飛な行動の所為でラン達が呆然としている。いかん、先程までの真面目な雰囲気が消えてしまっている。
話で流れを作り何とか最初の状態に持っていこう。
「そうだ、私のいない間に何かあったようだな。一体どうしたんだ?」
入口でも蜥蜴隊長との会話を思いだす。
「それは……。シバ、あなたから」
あれ? カイだけじゃないの? 問題は複数なのか、勘弁してくれよ。
「その、魔王様。実は群犬の中に……」
逐電した者でも出たのか? シバには悪いが情報を持つものを生きて逃がすわけには。
「妊娠した者がおりまして」
すぐに追手を……妊娠?
「未だに魔王様の石材の手に入りやすい場所、という命すらこなせていないと言うのに誠に恐縮ですが、妊娠した者を休ませてもらえませんか。そして出産の許可をくださいますようお願い申し上げます!」
首が取れるんじゃないかと心配するほど勢いよく頭を下げるシバ。まるで自分の事のように真剣な表情だ。
まあ、当然だろう。子は宝、次世代を担う者だ。例え他人の子とはいえ、種族繁栄には違いない。それは真剣になる。
無論、俺としても反対するつもりはない。食糧事情が未だ安全とは言えないので生めや増やせやとされると困るが一人二人なら別に良い。
問題はこの質問そのものだ。何だ、妊娠した奴に身を粉にして働けと言うように見えるのだろうか。出産の許可を出さない狭量な魔王だと思われているのだろうか。
何だかショック、と間を空けたのが悪かったのかシバの顔から汗が垂れた。顔色も心なしか悪くなっているように見える。早く答えてあげないと。
「良いだろう。休みも出産の許可も与える。だがこれだけは言っておく。未だ食糧事情は安定とは言い難い。故に出産の推奨はしてない」
俺も俺も、と増えるのは勘弁してね。と軽く釘を刺しておく。
「かしこまりました。皆には重々言い聞かせます。許可していただきありがとうございます」
軽く、のはずだが随分と重く受け止められてしまった。まあ、訂正するほどの物ではないから別にいいか。
「他には何もないか?」
カイ、速く名乗り出て終わらせてくれ。と思って言葉にしてのに。
「ハッ、実は魔王様……」
何故か隣のリンが一歩前に進み名乗り出た。何でだよ!
「ど、どうした?」
「これはアリス先生が仰っていたことなのですが、どうやら我々は一度同格の相手と戦った方が良いらしいのです。壁なるものを超えるために」
ああ、そういうのは分かるよ。訓練はどこまで行っても訓練、とか、実践こそ最高の修行とかそういうのだろ? いや、詳しくは知らんけど。
「そこでアリス先生の提案で、魔王様の固有技能で完全に同実力で戦ってみてはどうか、と。もしよろしければ時間が開いて居る時にお相手いただけないかと!」
アリス、後で覚えておけよ。
何やら期待の籠った瞳でこちらを向くリン。断りづらい。恐らくヴォルトから俺の話を聞いたんだろう。しかしあの無茶はヴォルトの身体だから出来ただけなんだがな。
受けないと俺の信頼が下がる気がするし、互角の相手に辛勝すればリンたち蜥蜴人に自信がつくだろう。
「分かった。手合せだな。しかしこれからしばらくは暇な時間が作れんからかなり間が開くぞ? それでも良いか」
「ハイ! 引き受けていただきありがとうございます」
まるで憧れの相手と会えると決まった子供のような顔をして下がる。あんまり期待しないで欲しい。
「さて、他には……と言いたいところだが、どうせ他にもあるのだろう。ヒデ、何か報告することはあるか?」
「ハ、ハイ! ええ、柵を設置しましたが魔王様に言われたことをふまえるため回収、増産しております。ですので柵の設置が遅れます」
いきなり振られて混乱するのは分かるが、俺変なこと言ってないよね、と周りに振るのは止めてくれ。周りも困惑しているだろうが。
さて、お待ちかねのカイだ。
「カイ、お前は何かあるか?」
「いえ、報告すべきことは何も」
……あれ? おかしいな。俺聞き間違えたか。いや、確かにカイが困っていると……。
しかしカイの顔を見ても嘘を言っているようには見えないし、あの蜥蜴隊長がわざわざ嘘を吐くとも思えない。
「そうか? ここに来る途中でお前が困っていたと言う話を聞いたが」
「あ、それでしたら魔王様が解決してくださいました」
え? 俺なんかしたっけ?
「現在一部で開墾作業を行っていますが、植える種がなくなってきまして、どうしようかと悩んでいる所にこちらを持ってきてくださいましたので」
そう言ってカイが手で示すのは俺が懸命に分けた山。きっと、その中に種があったのだろう。何を分けたかあんまり覚えてないんだよな。
「そうだったのか、タイミングが良かったな。ああ、ついでにこの種も渡しておく」
先程クエストの報酬で出た種を渡しておく。
「魔王様の過分な心配り感謝いたします」
回り回れば全部俺の為なんだが、そう思ってくれるならそれでいいさ。
「ヴィ、お前からは何かあるか?」
問題が最も起きそうにないヴィにも聞いておく。
「う~ん? そういえば、名前欲しい、皆言ってる」
ラン達全員が一斉にヴィへと驚いた様子で視線を向ける。
……よりにもよって面倒な者が来たな。名前か。苦手なんだよな。
ただ緊急性のあるものなら考えなければならない。ただ場の流れで言っただけなら無視しても良いのだが。……うん、ヴィの表情が全然読めない。粘液だもん。
粘液生物の表情が分かる技能ないかな。ないだろうな。
「ヴィよ。私に最も貢献している種族は粘液生物だと思っている。お前たちのおかげで分からないかもしれないが、汚物の処理というのは非常に面倒だ。嫌がるのが普通だ。それをいかなる理由があろうとも率先して処理してくれていることに私は感謝している。だから、後で一名だけ名を与えよう。ただしその一名はヴィ、お前が選びなさい」
一つくらいなら頑張れば名前も出てくるだろう。ややほめ過ぎかと思ったが一名に留めるためなら別にいいだろう。
「分かりました」
ヴィが選ぶ奴が特徴のある奴であること願おう。
「さて、ランお前で最後だが何かあるか?」
「はい、魔王様が出かけてからなのですが。この一件の所為で配下の蜘蛛人もあまり落ち着きがなくなりまして」
我が子を心配する母のような振りしてランが口を開く。あざとくポイントを稼ごうとしているな・
しかし重要そうだな。俺がいなくなってからか、反乱分子か?
「どのようなことがあった?」
「これと言った証拠があるわけではないのですが、誰かに覗かれているような気がすると。視線を感じると皆が話しておりまして。主に胸に」
「あ、それもう解決した。詳細は……面倒だ、アリスに聞くと良い。ちなみに私刑については黙認しているから」
「は、はあ? 迅速な対応ありがとうございます」
ライルに追加制裁が発生した。合唱。




