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第四十一話

「いやー美味い!」


 他人が美味そうに飯を食っているのを見て、殺してやりたいと思ったのは初めてだ。

 目の前には美味そうな夕食が二人分ある。だが減っていくのは一つだけ。

 本当なら食いたい。だが食えば腹を下す。それを体が分かっている所為か、口に運ぼうとするだけで手が動かなくなる。

 それを知りつつ目の前で美味そうに食うヴォルト。

 何故恨みで人を殺せないか。呪うことが出来れば即座にして見せるのに。

 帰ったら呪い系統の技能(スキル)系統が無いか調べてやる。


「ん~? ん~? 食えんのか! 残念じゃのう~」


 うっかり腕が滑ってフォークがヴォルトの口へ、スプーンが目玉へと行ってしまった。滑ってしまった故減速などせず、突き刺さらん勢いのフォーク、くり抜かんとするスプーンが迫るが、首だけ動かしてあっさり避けられてしまった。


「ほっほっほ、食べるべきは目の前にある料理じゃよ? こっちには何もないぞ?」


「何やってんだい全く! 良い大人が食事中に遊ぶんじゃないよ」


 客が居なくて暇だから見ていた女将が呆れた声で言う。

間違っているぞ女将。ここにいる爺は良い大人じゃなくて四六時中斬る今年考えていない悪い大人だ。それに俺は生まれて一年の経っていない。つまり大人の可能性は低い。二重の者(ドッペルゲンガ―)に子供、大人があるのか知らないが。


「というかそっちの怖い顔した方。どうしたんだい、全然食べてないじゃないか」


「女将、こいつな。えっと、オワの大森林で採れるあの実、何じゃっけ。まあ良い。それを食って腹を壊したんじゃよ」


 俺の事を指差してげらげらと笑うヴォルト。いくら酒が入っているからとはいえもはや容赦せん。弁慶すら耐えられなかったと言われる痛み! 受けてみよ。

 死角となる机の下で俺の足が酔っぱらいの脛を蹴り飛ばす!


「あんた、もしかして浅い所にあるワリの実を食べたんじゃないだろうね」


 が、察知されたのかヴォルトは大きく下がると席を立ちどこかへ行ってしまった。というか女将今なんか言ってなかった。


「いかんのか?」


「いけない所じゃないよ。浅い所の果実には寄生虫(パラサイト)と言う魔物がいるかもしれないんだよ。そいつごと食うと『寄生』されて腹を下すんだよ。まあ、二、三日でケツから出て行くんだけどね」


 なんだと。この腹痛は食い過ぎではなく『寄生』されていたからなのか。

 というか、魔物の分際で魔王に『寄生』しようとは何たる図太さ。これからは見つけ次第必ず殺す。見たことないが。


「……そうか、何か対処法はないか」


「ちょっと待ってな」


 女将はそう言い残して厨房へ行ってしまった。

 あの様子だと対処法があるのだろう。ふふ、これからどうなるのか分かっているのか、腹の具合が悪くなっている。しかしこの苦しみもあとわずか。

 

「待たせたね。これを飲んでごらん」


 ドン、と置かれたのはコップに入った緑色の液体。何だ臭う。それも目に来る臭いだ。


「グイッといきな!」


 随分と威勢の良いことを言ってくれる女将だ。とはいえ、これで治るのなら……。

 一口で!

 口内に広がっていく粘っこい液体、鼻から抜ける薬品のような刺激臭、そして胃が拒絶するような混沌とした味。

 そう、つまり不味い。それも吐きそうになるほど。


「ここで吐かないでおくれよ」


 吐くこと前提なら先に言え女将!

 まさか腹痛以外でトイレにいくことになるとは……。


「ああ、トイレは無理だよ。さっきあんたの連れが入っていったから」


 クソ爺! 殺す! いつか絶対に殺してやる。

 



「うぃ~、飲み過ぎたかの? おや? どこに行っとったんだ?」


 人が吐きそうになる口を押えて、外の脇で吐いてきたと言うのに。この爺は何を意気揚々としているのかね?


「クソ爺め、いつか殺すぞ」


「安心せい、儂もそのつもりじゃ」


 俺が殺しにかかったらこれ幸いと反撃してくるだろうな。駄目だ、こいつを喜ばせるだけに終わる。別の手段をいつか考えよう。


「それと女将、助かった。一応どういう風に作ったのか知りたいのだが」


「そんな特殊なことはしていないよ。オワの大森林で採れる薬草を使っただけだよ」


 話を聞けばその薬草を数日漬け込んだ物らしい。昔からワリの実を食べて寄生される人が出てくるから常備しているとか。

 少し譲ってくれないかと頼むとあっさりと小さなツボごともらえた。あまり貴重な品でもないのだろう。


「感謝する。代金はそこの爺から取ってくれ」


「何でじゃ! 自分で払え!」


「お前に金を渡したままだろ」


 そうじゃった、と思い出したようにヴォルトは金が入っていると思われる布の袋を取り出すと、それを女将に投げ渡し。


「全財産じゃ。くれてやる」


「あ、おい! あ、あの女将……」


 全財産がなくなってもどうせ通貨のないダンジョンで生活しているから問題はないが、後の事を考えると多少の余裕は残しておきたい。

 とはいえ女将から無理やり奪い取るわけにも行かず、どうしようかと取り乱していると。


「こんなたくさんいらないよ。全く仲が良いねあんたらは。ほら」


 袋から銀貨を一枚だけ抜き取り返してくれた。それが高いのか安いのかは判断が出来ないが。


「しかしあんたら金持ちだねえ。どうだい、もう一泊していかないかい」


「はっは、良い提案だが儂は王都に急ぎの用事があるからのう」


「俺も急用があるのでな」


 袋を開いてみればヴォルトに渡した時と変わらず、胴貨、銀貨、金貨が複数入っていた。あまり使わなかったのか?


「残念だねえ。ま、今度来たらまたうちに寄ってくんな」


 その後、俺はこの世界に生まれて初めて料理らしい料理を食べた。


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