第三話 魔法の本
目を覚ますとそこは変わらず玉座の間だった。
床で意識を失った所為か体の節々が痛む。
起き上がり体を捻ってほぐしていると、おかしなことに気づいた。
あの狼の死体が消えていた。槍も血もまるで無かったかのように痕跡すら残さず。
体の怪我も治っていた。肘掛けにぶつけた額や床に思いっきり叩きつけた顔の痛みは引いたのかもしれないが、割れたはずの膝の皿も治っていた。
寝れば治るような怪我ではない。
分からないことがまた増えたが今回は手がかりがある。あの本だ。
本を取りに玉座の裏まで持ってみれば、やはり真っ赤に点滅して存在感を主張していた。こんなに自己主張の激しい本を初めて見た。
開いてみればそこには先ほど見た『クエスト達成!』の文字。もはや驚く理由がない。
点滅するページをめくるとそこには『クエスト達成報酬』の文字。ただ、その次に続くのが『食料 肉』と肉の絵が描かれていた。
これは正直技能よりもありがたい。食糧問題は現在最大の問題なのだから。
本の要望通り肉の絵を押すと、本から肉が出てくる、こともなくそのまま絵は消えて、本は何かの一覧を表示した。
…………あれ? 肉は?
一覧の中にあるのかと思い一つ一つ確認してみれば。
『人族の集落を襲撃しよう』
『魔物を配下に加えよう』
『ダンジョンの階層を構築しよう』
などと意味の分からないものばかり。報酬に~何たらなどと書かれているがそんなのはどうでも良い。今重要なのは食糧なのだ。
しかし確認すれどもすれども肉のことなどどこにも書かれておらず。
「おい! 肉はどこ行ったんだよ!」
まさか、上げて落とす作戦なのか。本のくせに生意気な。
怒りの余り本を思いっきり投げようかと思った時、ページがまた点滅しだした。
今度は何なのかと、ページをめくるとそこは『持ち物』と書かれてあり。
三つの持ち物うちの一つに肉が入っていた。
まさかと思いその肉と書かれた部分を押すと。
ボン!
と音と共に本から肉が飛び出し、俺の手に乗る。
ぬめっとした感触。一切れの肉のようだが赤みが乗り非常に美味しそうだ。
だが、何の肉なのかが分からない。
普通に考えるなら牛や豚、鳥などだろうが本から出てきた肉だ。それに外は二足歩行して槍を構える狼がいるような世界だ。まともな肉の可能性の方が低い。
さすがに餓死しそうになれば食べるだろうが、安全が確保できていないのなら口を付けるわけにもいかない。
とはいえ外に出しておくわけにもいかない。冷蔵庫にでもしまっておこうかと思ったが。
ぬめりと、肉の油が俺の手から肉を滑らせる。咄嗟に落ちる先に左手を出してしまった。
左手には俺が開いている本があり、肉は本に当たり、消えてしまった。
…………?
まさかと本を覗くと、先程と同じく持ち物項目に肉の文字が。
本に収納されたのか?
試しに肉以外の物を取り出してみる。肉以外に書かれているのは『壊れた槍』と『群犬の毛皮』だ。
何となく予想が付いているが確認のために『壊れた槍』を取り出してみる。
音と共に出てきたのはやはりあの狼が持ってきた槍で、穂先の根元辺りから見事に折れていた。
恐らく狼の死体はこの本に収納された。そして使える部分だけを残して消えたのだろう。そして残ったのが『壊れた槍』と『群犬の毛皮』
あの狼はどうやら群犬と言う種族らしい。毛皮が残ると言うことは質が良いのか、と思い出してみたが普通にただの毛皮だった。
その後、その二つを本に押し付けると消えて本には『壊れた槍』と『群犬の毛皮』の文字。
なるほど。どうやらこの本はただの本じゃない。魔法の本だ。
ついでにもう一つ試しておこう。
「クエストページはどこだ?」
しばらくすると最初の方ページが点滅する。めくればそこはクエストのページだ。
先ほどの肉のおかげで気づいたが、この本は聞けば答えてくれるのだ。収納も出来て質問にも答えてくれる本とは。魔法万歳。
そうなると気になるのは知識と現実の違いだ。俺の知識では魔法なんてものはない。魔法のような科学はあるが。
現実には魔法はある。現実での武器と言えば銃だが、群犬が持っていたのは槍だ。そもそもコボルトなんて種族を知らない。
しかしそんなときに役に立つと思われるのがこの本だ。
「俺の知識と現実に差がある理由は?」
すぐにページが点滅するだろうと思ったが中々点滅しない。もしやこの質問は受け付けないのか、と不安に思っているとかなり後ろのページが点滅した。
かなり時間が掛かったがこれで分かると思いめくってみるとそこには。
『ヘルプ、サポートセンターに問い合わせ中。しばらくお待ちください』
へ?
本のことではもはや何があっても驚くまいと思っていたが無理だった。これは驚く。
サポートセンターがあるのかよ! しかも問い合わせ中って、めっちゃ優秀な本だな。
しばらく待っていると文字が更新された。
『問い合わせ結果が届きました』
結果が届いた。つまり本に載っておらず答えられない問題もちゃんと答えられるようになっているのか。
さてどんな結果なのか、文字が更新され内容を見て首を傾げた。
『すみません、間違えました』
何を?