第二話 戦闘? ☆
まるで百科事典のような厚み。手に取ればもはや鈍器として扱えるんじゃないかと思える重さ。
これを武器にして、と一瞬考えたが却下する。確かに槍を防げそうだが、この本の面積ではさすがに心もとない。
なので正しい使い方を、さっそく読んでみる。
一ページ。
『Now Loading』
え? 何か読み込んでんの?
それから少しすると文字が消え、新たな文字が浮かび上がる。
『クエスト達成!』
は? そんなの受諾した覚えがないんだけど?
いかん、驚きすぎて事態に付いて行けてない。本のペースに飲み込まれている。一旦落ち着こう。
一度本から目を離して周囲を確認。誰かが入ってきた様子もなく、良くも悪くもいるのは一人、俺だけ。
ついでに本の裏表紙など見てみるがどう見ても本だ。間違っても電子機器には見えない。
再び本に目を戻すと、先程のページは白紙に戻っており、二ページ目が存在感を主張するように色を変えて点滅していた。
これ本当に本か?
警戒しながらページをめくると、そこには「クエスト達成報酬」という文字と共に「無作為技能箱」と書かれた包装された箱の絵が。
しばらく見ていると箱の下にPush!! と出てきた。
要望通り押してやろう。
押すと箱は開かれ、何かが俺の中に入ってくる感覚。異質な感覚が体を巡るとスッと消えていく。
本の方も箱の絵が消えて文字に代わっていた。
技能『重力』の獲得
『重力』
重力を操ることが出来る。
え? それだけ? 説明少なすぎない?
どこかに詳細な説明があるんじゃないかとページを捲ろうとしたら。
ガチャ
どこかの扉が開く音が聞こえてきた。
嫌な汗が背中を伝う。
「ガゥ……?」
明らかに人ではない声、ヒタヒタと慎重な足取りまで聞こえてくる。
分かっている。どこの扉が開いたのか。何がそこにいるのか。
だが、もしかしたら違うかもしれない。予想が外れているかもしれない。
そんな希望を持って玉座から顔だけ出して覗いてみる。
そこにいたのは、二本足で歩く槍を持った狼一匹。
五匹だと思っていたのが一匹で予想が外れたと喜ぶべきか、最も強そうな一匹が来て予想が当たったと悲しむべきか。
一匹くらいなら、と楽天的な考えが一瞬浮かぶがすぐに振り払う。槍と言う武器がある上に身体能力が明らかに違う。
どうにか敵対せずにやり過ごし方法はないか、もしくは逃げ出す方法を考えて。
「ガ、ガゥ! ガァガァ!」
うわっ! 見つかった。
狼は全身の毛を逆立て槍をこちらに向け唸り声を上げる。
……いや、もしかしたら彼らの言葉なりに話しかけてきてくれているのかもしれない。
「や、やあ。どう――」
「グガァ!」
隠れるのを止め、両手を上げながら玉座から姿を見せると、狼は叫んで突撃してきた。
な、何で!
瞬く間に俺と狼の距離が縮まっていく。
何かで身を守ろうにも本は鈍器と間違われては困ると思い玉座の裏に置きっぱなし。それ以外にあの槍を防げそうなものはない。
そんなときに脳裏に走ったのは先程本に書いてあった技能。
技能『重力』の獲得
『重力』
重力を操ることが出来る。
全く当てになどならない。だが何もせず死ぬほど諦めが良いわけではない。
使用方法など分からない、危険度だって分からない。
分からないことだらけ、だから俺は全力で叫んだ。
「重力!」
直後、俺の身体に何百キロという重さがかかった。支えきれず膝を折れば、その勢いで膝の皿を強打し、激痛のあまり前のめれば自分の重さに耐えきれず倒れ、倒れる途中で玉座の肘掛に頭をぶつけ、割れるような痛みに襲われながら床に倒れた。
それも数秒すると重みも消え、体も自由に動くようになった。
狼に殺される前に自分で自分を殺す所だった。
更に先ほどの技能の副作用なのか、全身が酷い疲労感に襲われる。
本当ならこのまま目を閉じたいところだが、狼がどうなったのか確認できていない。
もしも今のが無駄だったらもはや逃げることも出来ず死ぬだけだが。
そう思い何とか前を向くとそこには血まみれで倒れている狼が。
倒れている理由は分かるが血を出す理由がどこにある。
確認しなければならない。もしまだ理解できていない技能の力で血を出しているならそれが自分に向く可能性もある。
痛みを訴える体を酷使し、這いずって何とか狼の元まで移動する。
近づいてみれば死因はすぐに分かった。
槍が折れて、穂先が狼の喉に突き刺さっていた。
恐らく狼は前傾姿勢で倒れ、槍が折れてからその上に倒れ込んだのだろう。そして運悪く穂先は上を向いていた。
そう、運が悪かった。技能の副作用でもなんでもない。
ホッと安堵すると抗いようのない虚脱感が全身を覆う。
俺はそのまま目を閉じ意識を失った。