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第百四十一話 出陣

世界を不幸にする悪の組織がザキを唱えた。

渡良瀬のPCが死んだ。

渡良瀬はザオリクを唱えた。

PCのデータが復活した。

渡良瀬は新たにPCを仲間に加えた。

渡良瀬の懐に痛恨の一撃。

渡良瀬は死んだ。

 鳥人(ハーピー)たちは早々にダンジョンに帰還させた。行軍速度を考えて出発日時を決めているし、ムスタングに滞在させては飯代がかさむ。

 ついでに町に解き放っているヴィら粘液生物(スライム)も持ち帰ってもらった。しばらくすれば俺もファース辺境伯もいなくなり、粘液生物(スライム)関連の問題が発生してしまうと面倒だからだ。

 更に、鳥人(ハーピー)の頭の悪さを考え、代わり考える頭としてセルガンも連れて行かせる。


「ち、父上! 何故、何故ー!」


「セルガン、お前はファース領を継ぐのだ。ノブナガ殿のダンジョンに行くことは決して無意味なことではない」


「だからと言って今ですか!? あ、待って。馬で行くから! これ怖」


「行くよー」


 まあ色々とあったが無事に送り出した。下手に動くと危ないから簀巻きにしてホウに運ばせたんだが、ちょっと怖いだけで安定性は抜群だったから大丈夫だろう。

 それに正直な話。今回の戦の為に戦力のほとんどを投入しているため、少しでもダンジョンの防衛戦力が欲しかった。いざというときのための緊急連絡用に鳥人(ハーピー)を一名残すようには言ってあるが、戻るまでの時間を考えればやはり戦力はどれだけあっても困ることはない。

 頑張ってくれ。セルガン君。



 

 鳥人(ハーピー)騒動から数日後、ついにファース騎士団が動く。


「事前に説明してある通り、目標は帝都。道のりは過酷。更に、アルキー公爵の諜報員が帝都に辿り着くよりも早く我々は帝都に着くことが求められる。出来るか!」


「出来ます!」


「道中の魔物は出来るだけ排除されているが絶対に遭遇しない訳ではない。しかし武器は剣のみ、鎧はない。馬も慣れ親しんだ愛馬にあらず。しかし求められるは無限の持久力と最高の速度。出来るか!」


「ご命令とあらば!」


「ならば命令する。ファース騎士団、ギルゲイツ殿下をお救いするため、帝都に向け進軍せよ!」


 多分、素晴らしい場面なのだろう。全体に号令を出すファース辺境伯にそれに応える騎士団。ただ騎士団全員がそこらで買った安物の服を着ていては栄えない。ファース辺境伯に至ってはボロ布だ。

 いくら厳しい行軍で衣服が使い物にならなくなるとはいえ、あそこまでボロボロな物を選んでくるとは。ファース辺境伯のやる気が感じられるな。


 正規の装備は三つ目の町に運び込まれているので、そこまで辿り着けば何の問題もない。だからこそ、問題となるのが行軍速度とそれを維持できる持久力なのだが。

 あの士気の高さを見る限り大丈夫そうだ。

 むしろうちの連中が遅れないかどうか心配だ。


「クラース、後は任せる。この戦いに勝とうが負けようが、この地に戻ってくることはないだろう」


「承知しております。セルガン様についてはお任せください。一流の領主に育て上げて見せましょう」


 ファース辺境伯とクラースが別れ際に何か気になることを話していた。何だろうと聞きに行こうとしたが、その時にはファース辺境伯は騎士団を引き連れて行ってしまった。

 なのでクラースに何の話か聞こうとしたが。


「何でもございません。些末な話です」


 教えてはくれなかった。




 魔王が予告していた日がついにやってきた。今頃軍勢を整えて出陣の準備をしているか、まだ準備に手間取っている辺りだろう。

 しかし油断はできない。相手にはファース辺境伯が付いている。その騎士団の強さは帝国でも比類なき者。数で優っているとはいえ、被害が大きくなってしまっては汚名となりうる。

 圧倒的勝利で収め、俺の力を帝国に、世界に見せる必要があるのだ。故に今、アルキー公爵たちを集め、情報の整理と共に最終確認を行っている。


「アルキー公爵、そろそろファース辺境伯が動くのではないか?」


「はい。諜報員によればファース騎士団は大方の準備は終了しており、いつでも出られる状態とのこと。ただ情報伝達の遅れを考えれば、すでに出陣している可能性は大いにあります」


 帝都からファース領は近くもないが決して遠くもない。帝都が帝国の中心にあるという理由もあるが、ファース領のある帝国南部は北部と異なり平野だ。移動しやすい場所と言える。


 ただ防衛上の問題からファース領からまっすぐ帝都に伸びる道はない。もし敵に侵攻された時を考えて、ファース領から蛇行するようにあちこちの町を通ってから帝都に辿り着くようになっている。

 諜報員による情報伝達に時間がかかる理由があるとすればこちらか。ただ今はこの蛇行した道のおかげでファース騎士団の侵攻を遅らせることが可能となり、こちらにかなりの余裕を作り出してくれた。


「ふむ、ならばこちらも出るか?」


「それはなりません。ファース辺境伯が確実に動いたと報告がない限り危険です。最悪、奴の策にはまり大きな被害を生むことになります」


 俺としてはすぐにでもこの戦を終わらせ、皇帝として確かな実権を握り魔族や魔物を滅ぼして安全な国を作りたいのだが。

 これが逸る気持ちということだろう。アルキー公爵に首を振られて考え直す。一度気持ちを落ち着けるために他の者の意見を聞く。


「レブド公爵、何か意見はあるか?」


「そうですね、帝都の騎士団と訓練して分かりましたが、皆に迷いがある様子でしたな。この状態で帝都を長く空ければ、誰かの甘言にコロッと乗るやもしれません。ここはアルキー公爵の言う通り、ファース辺境伯が動くのを待つべきです。そうすれば大義名分も得られ、帝都の騎士の迷いも晴れるでしょう」


 帝都の騎士たちか。そういえば近衛としか顔を合わせていなかった所為か、皆士気が高いと勘違いしていた。そうだな、俺は未だに信用されていないのだ。

 貴重な意見だ。覚えておこう。


「マモン侯爵は何かあるか?」


「へ? そうですな、戦のことは分かりませんが帝都の民が減っていますな。職人やら商会やらも人が減って、金の動きが鈍うなりつつあります」


「戦の始まる前によくあることだ。民の一時的な自主避難は。この帝都で戦うことはないが、魔王が帝都を攻撃すると言ったため、臆病な民が一時的に逃げだしたのだ。戦が終わればいつの間にか戻ってきているだろう」


 アルキー公爵の言葉にレブド公爵も頷く。

 さすが三十年前の大戦経験者だ。俺やマモン公爵が知らないことを分かっている。

ここは素直に二人の意見を採用し、ファース辺境伯が動いたのを確認してからこちらも動こう。

 他にも想定される進軍経路や進軍予定の町に送った兵糧など、細かな確認をしていると誰かが扉を叩いた。


「入れ」


「失礼します! 伝令より、ファース辺境伯が出陣したとの報告が入りました!」


 入ってきたのは伝令兵で、もたらされたのは俺が待ち望んだ情報。


「そうか!」


 ならばすぐに出陣を、と立ち上がるもアルキー公爵やレブド公爵は立ち上がろうとはしない。おそらく、歳の所為だけではないだろう。


「どうした?」


「殿下、お待ちください。今から兵を集めても数時間はかかりましょう。それに出兵式を行う予定のはず。訓練で汚れた姿の兵を並べるおつもりですか? 出兵式は殿下の威光を示す場でもあります。今は明日に出兵式を行うことを兵に通達し、明日の為に動きましょう。今すぐ現れるわけではありません」


「そう、だな。少し焦りすぎていた。あと数時間もすれば日も傾く。今出ても、大して移動できずに野営となるか。明日の出兵式の準備を」


「失礼します!」


 またもや伝令兵が入ってきたが、先ほどと違い慌てた様子で転がり込むように入ってきた。そしてその顔は驚きと恐怖に支配されていた。


「ファース辺境伯とその騎士団を発見。また、帝都周辺に蜥蜴人(リザードマン)豚人(オーク)と思われる移動中の魔族の集団が確認されました」


「何!?」


 いつの間に、どうやって!



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