第百四十話 義手の完成
「出来はどうだ? オルギア」
ついにオルギアの義手が完成した。
それのお披露目、性能実験の為に騎士団の訓練場にやってきた。
まずは軽い運動として、走ったり拳を突き出したり腕を思いっきり振り回すなど問題がないかの簡単な確認。
「はい。素晴らしい出来です。本当に腕が生えたような感覚です」
拳と拳を合わせて力強い音を響かせる。
今度はオルギアが今日の為に外から持ち込んだ大きな岩。その岩に向かって構えると。
「セアァ!」
蹴った! 下から上への強烈な蹴り上げ。義手とは何の関係もない行動に困惑したが、すぐに理解した。
腰を低く落とし、義手を更に低く置いて構える。
あれは!?
「昇鬼拳!」
拳ごと飛び上がったオルギアは降って来た岩を粉砕。欠片がこちらまで飛んできた。
「ふむ、動作に問題なし。岩を殴っても影響なし。腕の感覚はちゃんとある。魔王様、技を無断で借りたことお詫びを」
「気にするな。義手の出来が良さそうで何よりだ」
岩を殴っても変形せず、関節も問題なく動いている。もう四肢全てを義手にした方が強いんじゃないかと思うくらいに良い出来だ。
俺と同じく観戦したファース辺境伯も驚きの余り声も出せない様子。義手であんな派手なことをされては仕方ない。
「ただ、アリス殿のような強者にも通用するかはまだ分かりません。今度会ったら少し訓練に付き合ってもらおうかと」
「好きにしろ。ただオルギアには義手が完成した以上動いてもらわねばならん」
「承知しております。ファース騎士団の進路の掃除ですね。普通に移動しただけではどうしても狩り残しが出ますから、それらを駆除しつつ進むことにします」
さすが、頭の回転が速い奴は本当に助かる。思考が変な方向にぶっ飛んでいると理解させるのが大変だからな。
「それでは失礼します」
確認も終えたので、オルギアはトドン達に報告に向かう。……はて、行く方向が違うような。外へ進んでいる。もう行くのか? まあ、荷物などないし、食料は現地調達だ。ここにいる理由は確かにないか。
オルギアが去り、我に戻ったファース辺境伯は屋敷に戻る最中に唸るように感想を述べてくれた。
「いや、凄かった。人族が義手を付けて武器を振るう姿を見たことはありますが、身体能力に優れた魔族が義手を付けるとああなると。元々の技量もあるのでしょうが、驚きました。あの拳を振り上げた技も同じような衝撃を受けましたが。ノブナガ殿の技らしいですが」
「ははは、あんなこと出来ませんよ」
あれは俺がオルギアの身体だったから出来たことで、俺がこの身体で同じことをすれば拳が粉砕するだろう。
まあ、ファース辺境伯の気分転換になったのであればそれでいい。そろそろファース騎士団も動き出す時期が近づき、ファース辺境伯は部屋に籠りっきりになっていたので心配だった。
屋敷に戻ればまた部屋に籠るのだろうが。少しでも外に出られたのであれば大丈夫だろう。
それからもオルギアの義手の出来について話をしていれば、屋敷の方からクラースが歩いてきた。
「その様子ですと義手の件は良い形で終わったようですね。ライル殿から手紙が届きました。交渉は全て終わったとのことです。いやはや、中々に交渉上手なようで予想よりも大分早く終わったようですね」
「……だから勝手に見るなと。まあ良い、寄こせ」
クラースから手紙を奪い取ったファース辺境伯。俺はファース辺境伯の後ろから手紙を盗み見る。
内容は簡単に言ってしまえば、三つの町との交渉を完了、そして三つ目の町で代官の家族に少々手を出したので後始末のお願い。
後始末を頼める? とファース辺境伯に聞けば問題ないと無言で頷いてくれた。
まあ、代官の家族の件はそこまで重い事ではない。代官が恐妻家だったため、妻の弱みを教えてやっただけとのこと。怖いことに使わなくてホッとしているだろう。
「準備を見事に完遂されては、こちらが失敗するわけにはいかないな。クラース、物資はすでに運び出したな?」
「はい。そうしなければ間に合いませんので。まあ、この手紙の意味は我々に安堵を届けたということでしょうか」
事前に言っていた通り、交渉は成功することを見込んで行動している。交渉成功の手紙が来てから物資を運んでいては遅いのだ。ただ、やはり不安はどうしても残る。それをこの手紙は払拭してくれた。計画的には無意味だが、こちらの精神的には非常に助かるものだった。
「問題はなし、か。順調なことだ」
「問題がお望みで? それでしたら実は先程大量の魔族が町に降り立ちまして。いかがいたしましょう?」
まるで今思い出したかのようににこやかに告げるクラース。その報告にファース辺境伯は顔を真っ青にする。
「そういうのは先に言え!」
直後に町の様子を確認に走って行った。ただ俺は気になることがある。
「クラース? 今降り立ったって言ったな? つまり空から来たってことか?」
「その通りです、ノブナガ様」
大量の魔族が空から来た。俺の頭に一つに答えが浮かぶ。
……おかしいな。まだ早いはずなんだが。でもアホだから。
「妖鳥人?」
「はい。更に鳥人も大勢で。最初見た時は驚きましたが、頭の方が少々と言いましょうか、素直と言いましょうか。ノブナガ様の名前と食事を与えた所、驚くほど従順になりまして、今は町の方で待機してもらっております」
子供好きの老人のような笑みで語られたが、俺の心は申し訳なさで満ち溢れていた。
早く町に行こう。そしてあのアホウ共を回収しよう。
町に向かえばファース辺境伯から楽しそうに逃げる鳥人達を見つける。追いかけっこと勘違いしているんじゃないか。
本当に申し訳ない。