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第百三十六話 国家群の今

 国家群緊急集会。

 国家群の根幹を揺るがすようなことが起きた際に、各都市国家の首脳級が集まり意見を交わす国家群の最高会議。

 表向きは皆が一致団結し、事の解決に当たるための場なのだが。


 ふん、群れて何をするか思えば。


 実際は一致団結などせず、発言力の強い国の意向で物事が進むだけの会議。

 そのはずなのだが、今回はやや異なる。


「それではこれから、国家群の新防衛体制について協議したいと思います」


 国家群防衛体制。今までは攻められた国は国家群の中心にあるカルネア公国に即座に連絡し、カルネア公国はそれを各都市国家に連絡。各都市国家は軍を興し、防衛連合軍を結成。攻め込まれた国を救出後、そのまま敵国に侵攻する防衛攻勢戦略が敷かれていた。

 しかし、その中心であるカルネア公国が滅亡。それに関わった三国はどう責任を取ってくれるのか、と中小都市国家から怒りの声が上がったのだ。


 防衛体制が崩れたぞ、新たな防衛体制の負担はカルネア公国滅亡に関わった国が負担するのだろうな、と。

 中小規模の国力しかない奴らが、このユゥラ樹林国樹王ハール・マ・ハールに対しその物言いは癇に障るものだった。

 だがいつものように黙らせることは出来ない。

 防衛体制の崩壊について責任がないとは言わない。高貴な王たる者、責任から逃れてはならない。とはいえ、カルネア公国とタダラ鉱国が発端であり、ユゥラ樹林国は他国への牽制を踏まえて出兵しただけであり、責任は僅かだろう。

 ただ黙らせられない最大の理由は中小規模の都市国家とは言え、集まられると無視できない国力となるため。


「今までの防衛体制はカルネア公国を中心としたものでしたが、カルネア公国に災害寄生虫パンデミック・パラサイトが発生し滅亡したため、新防衛体制を構築する必要があります。また、新防衛体制にはタダラ鉱国、ユゥラ樹林国、ザール大国を主軸としたものが適切と思われます」


 カルネア公国は戦争ではなく、魔物の大量発生で滅び、その後始末に三国が共同で当たり解決した。それが国家群内で表向きに通っている理由だ。まさか三国で一国を叩こうとしたら災害寄生虫パンデミック・パラサイトの発生に気付いた、などと無駄に国民を怖がらせる情報を流せるわけがない。


 新防衛体制は三国を主軸、などと言っているがこれこそが負担なのだ。

 主軸ということは、今までカルネア公国に押し付けていた面倒を三国が担わなければならない。

 例えば防衛連合軍を結成した際の食料の確保。緊急時用の連絡兵の確保。防衛拠点への出資など。

 国家群全体が危うい状況で、この負担は中々に重いものになる。とはいえ、断るような様子を見せれば。


「何が主軸か! ただ負担を押し付けようとしているだけではないか!」


おお、さすが馬鹿筆頭のザール大王。この状況で逃げる素振りを見せるとは。出来の悪い頭は相変わらずか。


「何たる言いがかりか! この三国を選んだのは滅びたカルネア公国の領土を割譲されたためだ。主軸となるのが嫌であれば領土を破棄せよ!」


 やはりそこを突いてくるか。カルネア公国の領土を持っているのだから、カルネア公国の義務を背負えと。

 正論だ、否定のしようがない。嫌ならカルネア公国の領土を破棄しろも当然の要求。

 今のカルネア公国の領土は焼野原だが、いずれは多大な国益を産む。それは今強いられようとしている負担以上の利益だ。

 目の前の負担を恐れ、利益を捨てるのは馬鹿を越えた馬鹿のみ。ザール大王はただの馬鹿のようで、黙ってしまった。


「ユゥラ樹林国は新防衛体制の主軸として協力したいと思う。ただ、どのような体制なのか分からねばそれは難しい」


 根回しの段階で負け、どうしようもない時は無駄に足掻かず素直に認めた方が傷は浅くて済む。損を受け入れることも出来てこそ、立派な王なのだ。


「それについては既に草案ですがすでにご用意があります。そちらをご覧ください」


 ……何が草案か。すでにほとんど詰め終わっている。内容は簡単だ。王国が攻めてきた時はザール大国が主体となり、帝国が攻めてきた場合はユゥラ樹林国が主体となって防衛連合軍を率いる。また防衛拠点の出資は三国共同で行うものとするが、タダラ鉱国の比率を高くするなど。三国が同程度の負担となっている。

中々に考えたようだが、まだ甘い。


「なるほど、これなら受け入れられるが。調整を望む。この中ではオワの大森林の魔王が侵攻してきた場合が想定されていない。おそらく、我がユゥラ樹林国が主軸となるのだろう。その場合、我が国の負担が他の二国よりも多いと思う。そうだな、防衛拠点の出資比率を下げて頂きたい」


「オワの大森林の魔王ですか。確か帝国が討伐するなどと言っていたような。まあ良いでしょう。ではオワの大森林の魔王が存命中に限り出資比率を下げるなどで如何ですか?」


「それで良い」


 最初だけで良いのだ。そこから変更となればまた話し合う必要が出て来て、その会議は踊らせてしまえば良い。そうすればオワの大森林の魔王が討伐されても数年は出資比率を低いままで通せるだろう。

 その後は、この新防衛体制がきちんと動くのか、何度演習をして、いつ行うのかなどを話し合った。

 ただ目的を果たせた者たちはすでに帝国についての話題に変わりつつあった。


 皇帝が死んだ、魔王に呪い殺された、実は反乱だったなど確証を得られていない話をしている。

 ユゥラ樹林国は国民がエルフであるため、諜報能力が低いのだがそれでも少しは情報を仕入れ、一つだけ確定していることがある。

 帝国皇帝の死だ。一度だけ目にする機会があったが、あれは高貴な王である自分から見ても、覇気に満ち溢れた王の器を持つ男であった。

 反乱や呪いなどの噂はどうあれ、あの男の死は帝国に影を落とすことになる。約束されていた食料の供給も滞っている。

 魔王を討伐したら食料提供を再開すると言っていたが。


 失敗は、さすがにせんだろう。


 ただ食料供給が止まるのと、防衛拠点の出資比率が下がったままなのはどちらが国にとって良いのか、考えておこう。場合によっては……。



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