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第百三十一話 反乱

 帝国皇帝の執務室。

 そこでファース辺境伯から非常に愉快な報告が入ったので、近衛団長のバンと主席宮廷魔導士であるマンドを呼び、その報告の意見を貰う。


「帝国を長年悩ませていた首領悪鬼(ドン・オーガ)、更に誕生したての魔王の討伐か。主神教からも報告はあったが、討伐した相手までは分からなかった。まあ、陛下が認める相手なので、何となく予想はしておりましたが」


「それに配下種族の増加。勢力の強大化か。普通なら大きな争いをすれば戦力が低下するものだが、それが見られないか。本当に今までの魔王とは別格か」


 バンも、マンドも報告を受けて苦い顔をする。何故そんな顔をする必要があるのか。俺としては非常に楽しいのだが。


「それで、どうなさるので?」


「どうも、こうもないだろう。今まで通り、友好的な関係を築ていくだけだ」


 ノブナガへの対応を変える理由などどこにあると言うのか。喜ばしい報告はあっても、悲観する報告はないのだが。


「陛下、はっきりと申し上げますが、危険ではありませんか? 魔王ノブナガは首領悪鬼(ドン・オーガ)や新たに誕生し討伐された魔王の勢力を吸収し、急激に成長しています。このまま成長すれば帝国の脅威になりかねません」


「だから軍を興し討伐に動くと? 国家群のようになりたいのか?」


 マンドは頭が固くて困る。魔王が他の魔王を吸収し、強大になりつつある、としか考えないからそのような答えが出てくるのだ。

 ではバンはどう考えているのか。意見を聞こうとすれば困ったように頭をかく。


「概ねはマンド殿に同意しますが、どの程度の軍が必要になるのでしょうな。首領悪鬼(ドン・オーガ)を討伐しつつ損害があまりないと考えると、千や二千では無意味でしょうな。確実に勝つとすれば万は欲しいですが、時期が悪いですねえ」


 時期か、確かに悪いな。そろそろ、侯爵、公爵に視察と言う名の牽制をしなければならず、他の貴族も食糧難脱却のためにトツトツの栽培に忙しいだろう。そして何より、万の軍など起こせば国家群を刺激することになる。

 国家群は帝国など比較にならないほどの食糧難に見舞われている。それに対し、帝国は僅かながらに食糧支援を行っているが、これは善意で行っているわけではない。

 食料がないなら奪おうと国家群が考えた時に帝国が狙われる可能性を下げるためだ。僅かながらも食糧支援をしてもらっている帝国と、もらっていない王国では王国の方が選ばれやすい。それだけの話だ。

 それなのに帝国が万の軍を興せば国家群は侵略を疑い、少ない食糧を集めてやられる前にやるとばかりに動き出すだろう。それは困る。


 ただ、時期など関係なく討伐自体がありえないのだが。


「まったく、我が国の武と文を司る二人がこの程度の考えとは。帝国の未来が不安になってくる」


 後継者も未だに決まらず怪しいと言うのに、支えるべき二人までこれではな。


「陛下の考えをお聞きしても? 何故、ノブナガの急成長が危機ではないのか」


「良いだろう。だがその前に聞こう。何故ノブナガの勢力が成長すると危険なのか」


「魔王だからです。今までの魔王とは違い知恵があることは分かりました。ですが、知恵があるからこそ、急激な成長と共に領土拡大に動く可能性があります。今までの魔王は、勢力を作ってから人族に危害を加えておりました。ノブナガもそのように動く可能性はあるのです」


 力強く訴えるマンドだが、そのおかしな訴えに俺はつい笑ってしまう。

 ノブナガを賢い魔王と認めているが、どうしても普通の魔王の印象を抜け切れていないらしい。それに急成長して変わってしまうなど人族とて同じ。魔王だからという理由にならん。

 まあ、変わってしまうという危機感については分かる。良くも悪くも、立場で変わる者、変わらぬ者はいる。

 ただまあ、これは経験則だが。あれは余程追い込まない限り変わらないだろう。今のままで満足している者だ。


「マンド、面白い意見だがもう少し視野を広く持て。では仮にお前らが急成長したオワの大森林魔王、ノブナガだとする。お前が支配しているのはオワの大森林と西の山脈だ。西の山脈の採掘権をファース辺境伯に譲っているが持ち主はお前だ。さあ、どう行動するのが賢い?」


 机に広げられた地図を指して、マンドとバンに考えさせる。さあ、魔王の二人よ。どう行動する?


「えっと、マンド殿の言う通り急成長したのでどこかに侵攻を」


「どこに侵攻する? 王国か、国家群か、それとも帝国か? 王国に侵攻した場合、オワの大森林が手薄と判断した国家群が食糧確保のためにオワの大森林に動き出す可能性があるな。勿論、王国と魔王が互いに消耗したところで漁夫の利を得るべく動くことも考えられる。それに王国にはかの剣聖がいる。斬られておしまいだな」


 故に王国侵攻はありえない。


「では国家群か? 食糧不足故に軍を興せないと考えているのか? 残念ながら後の事を考えなければ軍は興せる。いや、後の事を考えればノブナガ侵攻を国家群全体で止め、そのままオワの大森林に逆侵攻を行い、森の恵みをありったけ奪うという方法もあるな」


 連合軍を瓦解させ、国家群を動けなくしたのだ。それなのにわざわざ自分から戦を起こす? ありえない。故に国家群もない。


「では帝国か? 友好的な関係を築いていたが故にもし侵攻してきたら反応が遅れるかもしれないが、相手はファース辺境伯だ。簡単には抜けないだろう。その間に国家群に魔王が侵攻してきたため食糧支援困難とでも伝えればすぐに援軍を寄こし、ノブナガを撃破できるだろう」


 それに帝国は、国家群や王国に比べると旨みが小さい。帝国もあり得ない。

 つまり、ノブナガはどこに侵攻しようとも失敗するだろう。急成長しても国と比べられるほどの戦力は有していない。だが何より。


「ノブナガには支配を維持できるほどの配下はいない。帝国は未だに貴族不足だが、ノブナガには手の届かぬ領地を運営してくれる者も、自分を支えてくれる文官も不足しているのだ。我々以上に手が不足しているのにどこに侵攻するのだ?」


 苦し紛れにマンドは人族を滅ぼすことを目的とする、などと吐いたが、それのどこか賢いと問えば黙った。

 これで分かったはずだ。ノブナガは王国と国家群と帝国を同時に相手にして勝てる戦力でも持たない限り、侵攻することは出来ない。

 それに侵攻よりももっと有益な方法はある。


「さて、そろそろ俺の考えを言おう。俺がノブナガであれば、オワの大森林を中心に貿易都市を作る」


 どの国へも侵攻できるとはつまりどの国からも侵攻される。どの国からも助力を得られ、どの国とも容易に貿易が出来る。オワの大森林の価値は計り知れんな。


「あ、ありえません! 魔王が貿易都市を目指すなど!」


「ありえているだろう? 現に魔王は帝国と、厳密にはファース辺境伯と小規模ながら貿易を行っている。いずれは他の国とも貿易を行う可能性は十分にある。いや、貿易を行わない理由がないのだ」


 魔族と魔物が跋扈する未開の森、オワの大森林。そこを統治する者がいれば、賢い者であれば誰だってそう考える。

 魔王だからありえない、なんて言葉はノブナガには似合わない。


「分かりました。あの、魔王であれば十分に可能性はあることは認めましょう。しかしそのような貿易都市が出来ればその都市を狙って王国や国家群が動くのでは?」


「そしてどの国がその貿易都市を管理するのかで大揉めするわけだな。勿論帝国も参加するぞ。もしもノブナガを排除できればだが。しかしそうなれば話し合いでは決着がつかずに戦争だろうな。ふふ、魔王が人を殺すより多くの人族が死ぬことになるな」


 ちょっとした皮肉のつもりで口に出したのだが、マンドは頭の痛い問題だとばかりに頭を抱える。難しいことを考えているのだろう。もっと簡単に考えればいいのに。


「分かりました。ノブナガ勢力の成長は自衛能力の上昇のみであり、地理的に侵攻は不可能であると。そして、ノブナガが陛下の考え通り本当に貿易都市ならぬ、貿易ダンジョンを造ろうとしているなら、自衛能力は高い方が良いと。ふぅ、とんでもない時代になりそうですな。激しい変化は老人の凝り固まった頭に悪いのですがね」


「はっは、頭を柔らかくしていかないとな」


 それからはノブナガと友好的関係を今以上に築きつつ、帝国を如何に発展させるのかマンドと共に計画を練っていると。


「陛下、この話に俺やマンド殿以外を呼びましたか? それも大人数を」


「いや、誰も呼んでいないが? どうした?」


「足音が。それも結構な人数の。……まずいな、武装している」


 ここは皇帝の執務室だ。文官がたまに来ることはあるし、武装している巡回兵がいないわけではない。

 しかし結構な人数、と言われるほどの人が何の連絡もなく執務室に来ることはまずない。


「陛下、マンド殿。お下がりを」


 つまり、そういうことなのだろう。

バンが剣を構え、扉の方を向く。マンドは何か諦めるようにこちらに来た。

 残念だ。平時故にバンの武装は常に身に着けている剣のみ。得意とする盾もなければ、身を守る鎧も身に着けていない。

マンドも土属性の魔法を得意とする上級魔法使いであり、特にゴーレムの扱いに長けているのだが、肝心のゴーレムはここにおらず、作ることも出来ない。

帝国の最大戦力がまともに戦えない状況で。


「父上、失礼します。皇位を譲ってもらいます」


 反乱が起きるとは。

 入って来たのは不肖の息子ギルガルと、近衛副団長のマサド。この二人だけでこんな大事を起こす度量はない。

 扉の向こうには、近衛兵の他に、見慣れぬ兵士もいる。やはり、黒幕がいるな。


「入ってきたらどうだ、アルキー公爵。それとアルキー公爵だけでこんなことをしでかすとは思えん。レブド公爵、マモン侯爵も一緒に来ると良い」


「はっはっは。丁重にお断りさせて頂く。近衛団長殿に斬られたくはないし、近衛副団長殿は守ってくれないだろうからな」


 ……そうか、否定しないということは本当にレブド公爵とマモン侯爵もこの企てに参加しているのか。マモン侯爵はともかく、レブド公爵も加担しているとなると、かなり不利な状況だな。

 マモン侯爵はかつての戦争で祖国から帝国に寝返り、その後も帝国のために戦線に立ち、終戦後に今までの功績や貴族不足を理由に陞爵。伯爵から侯爵となった。

 ただそれは先代の話。今代は先代の死後、かなり好き勝手にやっていると聞く。

 レブド公爵は帝国があの戦争で最初に滅ぼした国の王族だ。まあ、戦闘直前で降伏され、戦闘は起きていないのだが。ただ、あの降伏の所為で更なる戦争を余儀なくされたのだが。。

 レブド公爵は帝国への帰属意識が低く、自分の領土にしか興味を示していない。それはレブド公爵の息子にも言えたことだ。……レブド公爵はすでに隠居し、ほとんどを息子に任せていると聞いていたが、こちらに来ているのはどちらだ?


「父上、お話があります。父上が友人などと狂ったことを言っている魔王――」


「滅ぼしたいか? 貴様と話すことは何もない。黙っていろ」


 この馬鹿の考えは手に取るように分かる。魔王二体を倒せる魔王が居る。帝国の脅威だ。今の内に国を挙げて滅ぼそう。それだけだ。

 似たような考えをマンドも口にしたが、マンドは危機を覚え可能性を口にしただけだ。この馬鹿は結論ありき。魔族を滅ぼしたいだけだ。そしてたまたま魔王を滅ぼす口実があるだけ。

 そして、それに付き従う近衛兵も、馬鹿の思想に共感した馬鹿か、これから形成を鑑みて馬鹿に従うことにした考えなし。


 話す価値などどこにもない。まだ情報を得られるアルキー公爵たちと話をした方がましだ。


「アルキー公爵。レブド公爵とマモン侯爵をどのように説得を? ……いや、レブド公爵は――」


「父上! 魔王に与する貴方に帝国を任せられない! 是が非でも、皇位から退いていただく!」


 人が話をしているのにこの馬鹿はうるさいな。それに皇位を退く? ここで手を下すとっは思えない。となると、病のため療養とでも言って軟禁。その間にゆっくりと実権を自分に移して行こうと? 年単位の時間が必要だな。その間をアルキー公爵が何もしないと考えているのか?

 救いようのない馬鹿だな。


「バン、追い出せ」


「殿下! お下がりを」


 もはや顔を見る価値も、言葉を聞いてやる理由もない。バンに命じてギルガルとそれに付き従うマサドを執務室から追い出す。


「誰も入れるな」


「かしこまりました。陛下、お達者で」


 執務室から出たバンは扉を閉めるとすぐに戦闘音が響いてきた。命令通り、誰も入れないように戦っているのだろう。

 おそらく、バンは死ぬだろう。帝国で一番強いが、多勢に無勢であり、武器は剣のみ。更に扉を守るために好きに動くことも出来ない。

 だから、この時間を無駄には出来ない。


「マンド、魔法は使えるか?」


「いつでも。救援を求めますか?」


 執務室には玉座の間にあるような緊急時の脱出口などは用意していない。しかしマンドがいれば、外部に情報を送ることは出来る。

 ゴーレムを使う。文官棟兼魔導士研究棟にはマンドによって作られた三体のゴーレムが置かれている。ゴーレムは遠隔で操作できる。範囲は魔法使いの技量によって異なるが、マンドの技量なら帝都内であればどこへでもゴーレムを動かせるだろう。

 そのゴーレムを連絡係として動かせばいい。指示を出せば、マンドからの指示と理解して宮廷魔導士が動き出すだろう。救援を求めれば、当然来てくれる。


 ……しかし、本当にそれで良いのか? 

相手は近衛の一部だけでなく、アルキー公爵などの兵も居る。宮廷魔導士だけでは厳しいだろうが、帝都に駐在する騎士団の助力を得られれば可能性はある。

 そうなると今度は時間が問題となる。連絡を受けた宮廷魔導士が急いで騎士団に助力を薙ぎ、準備して来るまでバンが耐えられるか? 無理だ。そう長くは保たない。そして救援に来た宮廷魔導士や騎士団の前に捕縛された俺が出てくる。……その先は考えたくない。

 もし俺の予想以上にアルキー公爵たちが兵を連れてきた場合、救出は困難。駐在する騎士団や宮廷魔導士に甚大な被害が出る。それにもし、こちらが優勢になっても、自暴自棄になったアルキー公爵が一矢に報いるためにギルガルを、そして俺を殺しにかかる可能性もある。


「いや、待て。確かファース辺境伯の息子がいたな。そいつを使うか。マンド、言った通りに指示を出せ」


 俺は帝国の皇帝だ。誰よりも帝国のことを考え、帝国の為に動かなければならない。産まれてから、死ぬまで。それが皇族としての務め。

 最善とは事態を切り抜けることか、最良とはこの命を守ることか?

 否。帝国の未来を最優先に考えること。そして、帝国の未来を考えれば、俺が生きて捕まることは最大の不利益になる。

 この状況で、帝国の不利益を可能な限り減らし、繁栄させていくには。


「……陛下。本当にそれでよろしいのですか?」


「期待できないか? それとも望み薄か? だが、今の状況から帝国が存続し、繁栄するにはそれしかない」


 馬鹿な息子も、アルキー公爵など反乱貴族も、そして後継者についても全ての問題が解決する理想のような一手。しかしこれが成る可能性は非常に低い。少なくとも俺では出来ない。

 だがまあ、最期なのだ。底知れぬ友人に、果てしない期待を寄せても良いだろう。


「陛下、情報の伝達、完了しました。すでに指示通り動いていると思われます」


「うむ、ご苦労。どうやら向こうも大詰めのようだ」


 扉の向こうでは敵が大声の状況を教えてくれる。最初は距離を空けろ、バラバラに攻撃して少しずつ体力を削れ、だったのに対し、今は距離を詰めろ、一気に攻撃するぞと決着を付けたがっている。

 バンはもう限界のようだ。

 もうやるべきことは少ない。その少ないことをやってしまおう。


「マンド、そのローブを貸せ」


 主席宮廷魔導士のみに着ることが許された真紅のローブ。それをマンドから受け取り顔を隠す。体格も何もかも違うが、一瞬だけ誤魔化せればいいのだ。


「マンド、後は任せたぞ」


「はい。この命に代えても、帝国をお守りいたします」


 後は、扉の前でバンがやられるのを待てばいい。非情かもしれないが、俺を守ろうと行動されても迷惑なのでな。

 護身用の短剣を確認し、準備は万端。少しでもマンドの体格に近づけるために腰を落とす。

 しばらく待ち、歓声が上がった。バンが討ち取られたのであろう。

 今が好機。


 執務室から飛び出て厄介な敵を探す。

 最優先はアルキー公爵。次点でレブド公爵、マモン侯爵だったが、残念ながら三名とも遠くで戦闘を見ていただけでとても辿り着けそうにない。

 なので次に面倒な、近衛副団長のマサドに向かう。


「父上の捕縛に向かえ! マンドは殺しても構わん!」


 バンと言う最大の障害を排除したことでギルガルが焦るように指示を飛ばす。隠し通路で逃げ出す可能性を恐れているのだろう。

 しかし助かった。マンドは帝国の内政を握る立場。冷静に考えていれば俺のみならず、マンドも捕縛対象なるところだが。

 誰もが指示通り、マンドに扮した俺を狙う。どれも鋭く素早いが、バンに最後の一撃を加えるために固まっていたのが仇となり、簡単に避けられる。これでもあの戦争で戦線に立ったことがあるのだ。

 と思ったが、避けられずにいくつか浴びてしまう。思うように身体が動かなかった。歳には勝てんか。

 まあ、良い。マサドの下まで行けるのであれば!


 愚直なまでに真っ直ぐ飛び込むと、マサドはそれに合わせて剣を振り下ろそうと構える。

 このままでは真っ二つに斬られて絶命するだろう。マサドに届かない。なので、卑怯な手を使う。

 剣が振り下ろされる直前にマサドにだけ見えるように顔を見せる。


「良いのか?」


 捕縛対象で、忠誠を誓った相手だ。混乱を、僅かな硬直を引き出すには十分だった。剣は振り下ろされず、簡単にマサドの胸に飛び込む。後はそのまま短剣をマサドに首に突き立て、払う。


「マサド様!」


 周囲の近衛兵が俺を突き刺し、マサドから引き剥がす。だがもう遅い。全てが手遅れだ。

 マサドが助からないと悟った近衛兵は恨みをぶつけるように俺に剣を向けたが、倒れている俺の顔を見て愕然とする。


「へ、陛下!」


「ち、父上だと! だ、誰か急ぎ治療――」


 無駄だ。自分の身体だからこそ分かる。この身体はすでに死んでいる。こうして意識があるのは気力で何とかしているだけ。

 さあ、ギルガルよ。どう動く。


「陛下、見事な最期でございました」


「マンド! 貴様! 父上を盾にするような真似を! 父上を守るのがお主の役割であろう。恥を知れ!」


「恥を知るのはどちらでしょうな。それに皇帝を守るのは近衛の仕事。私の仕事は帝国を守ることですから。殿下は、帝国とは何なのか、理解しておいでですか?」


 ああ、さすがに気力の限界か。もう目が見えなくなってきた……。


「くっ! マンドを地下牢に連れていけ! もし父上の怪我が治らなかった場合、協力をしてもらう必要がある。しかし、くそっ! 父上に死なれては困ると言うのに。隠すしかないか」


「無駄ですよ。宮廷魔導士にすでに今回の一件を知らせております。帝都から逃げ出しているでしょうから捕まえるのは困難。しかし、噂を残していく程度は出来るでしょうな」


「ちっ! ならばどうする……。魔王だ……。魔王の呪いにより父上が倒れたと公表しろ! 帝都を完全に掌握した後にオワの大森林に侵攻する。俺が皇帝となって最初の魔王狩りだ! 全貴族に出陣要請を出せ!」


 くっくっく。想定通りに動いてくれるな、ギルガルよ。だからお前は――。




 何だ、バン。文句でも言いに来たのか? 達者で、と別れてすぐに会っては立つ瀬がないと? 良いではないか。ああ、待て。もう少し見て行くぞ。これから、面白いことが起きるはずだからな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 皇帝が死ぬとかすごい悲しい。ノブナガは、どう動くのでしょうか?続きが気になります。
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