第百二十三話 新たな……
今朝、木人がダンジョン入りした。
配下達は今にも論功行賞を行いたいようだったが、こちらにも都合があるので昼に玉座の間前に集合とした。
正確にはもう玉座の間前ではないのだが、新たな名称も昼には決まるだろう。
そして俺は、昼までに持って行く物の最終確認を行わなくては。
新しい物もあれば古い物をある。それぞれの用途も確認して不足がないかも調べないと。
あ、でもその前に。
「おらぁ! 出てこい! てめえを紹介するいい機会だからな。俺を差し置いて引き籠れると思うな!」
私室に隠れている闇の精霊を引っ張り出す。
食事もトイレも必要とせず、隠れ潜む虫みたいな存在だが、紹介しない訳にはいかない。何もしない居候とは言え、いつか顔を合わすかもしれない。その時の為にせめていることだけは教えておかないと。
「ぬう、ハニワの魔王。我が存在は秘匿されるべきで――」
「うるせえ、顔を見せて挨拶してこい。居候だろうが。働かざるもの食うべからずの理念で言えばお前は食わないから働かなくても良いが、挨拶はしろ。良識を知らんのか?」
「そこまで言われればこちらも退けぬ。我が力を見せてやる。先に行っているぞ」
そう言うと闇の精霊はとぷんと影の中に潜って消えた。随分と特殊な移動方法だな。さて、あの移動方法で昼までに一層に着ければ良いな。あいつ。
さて、今度こそ、確認を……。
『ダンジョンを造ろう』の変化に気付いたのはダンジョンに帰った翌日。帰って来た日はすぐに寝たため、確認もしていなかったためだが。
『ダンジョンを造ろう』は七色を越え、閃光のような視野に入れるだけで眩しい光を放っていた。何故帰って来て早々に気付かなかったのか不思議なくらいだ。
そして開いてみれば、様々な変化が起きていた。
『他の魔王の配下を倒そう』『他の魔王のダンジョンを襲撃しよう』『他の魔王を倒そう』『他の魔王を倒そうⅡ』『多くの他種族を倒そう』『多くの種族を配下に加えよう』『三階位の魔族を配下に加えよう』
などの多くのクエストの達成。
魔素を消費することで得られる技能の増加。
新たにダンジョンが特殊能力を獲得。
それと新たな、景色? とでも言うのだろうか。とにかく、新しく得た。
クエストはともかく、得られる技能の増加、ダンジョンが特殊能力を獲得、そして新たな景色は、おそらく俺が倒した魔王、首領悪鬼と樹霊が持っていたものだろう。
例えば増加した技能だが、『ブレイクフィスト』と言う『拳闘士』のような拳を使った技能だったり、『ポイズンブランチ』と身体の一部を毒化させ、毒化した身体で相手に傷を与えることで相手に毒を移すなど、樹霊が得ていれば強力そうな技能だったりと、俺としては必要とは思えないが首領悪鬼や樹霊であれば、有用そうな技能ばかりが増加した。
首領悪鬼が技能を持っていなかったのは自分の身体能力を過信した結果だろう。実際技能無しでもバカみたいな破壊力はあった。
樹霊は生まれた直後に戦闘になったため得る機会がなかったのだろう。増加した技能を見れば面倒そうな技能ばかりだ。
おそらくだが首領悪鬼を倒したことで増加した技能は拳や武器の使用を前提とした攻撃的な技能だ。
しかも見事に弓矢などの遠距離を主軸にした武器の技能はない。近接戦闘を前提とした技能ばかり。近接戦闘など怖くて出来ない俺には必要ない技能ばかりだ。
そして樹霊を倒したことで増加した技能だが、毒や麻痺などの状態異常付与の技能だ。一見有用そうに見えるが、発動条件としてまず自身の身体の一部に状態異常を発生させ、それで相手を傷つけることで相手に移すといった内容だ。まさに木人など枝や根があることを前提とした技能だ。
爪にでも状態異常を発生させれば、と閃いたが俺に爪はなかった。
それに俺は状態異常無効をいくつか持っているので、どちらが優先されるか分からない。状態異常無効が勝ったら、技能を得ても使えないことになる。
使えない技能の増加はさておき、ダンジョンの新しい特殊能力は非常に有用だ。
一つはおそらく首領悪鬼のダンジョンが持っていた『技能付与』。
もう一つは樹霊のダンジョンが持っていた『魔力吸収』だ。
『魔力吸収』はダンジョン内の配下ではない、つまり敵の魔力を吸収する。一見有用そうに見えるが、残念ながらうちのダンジョンには合わない。基本方針としてダンジョン内に入る前に倒すし、入られても即座に倒す。長期戦は想定していないのだが、この『魔力吸収』は長期戦を想定したものだ。吸収量も微々たるもので、もしかしたら何かで役に立つかも程度の能力だ。
もう一つの『技能付与』が重要なのだ。これは対象を指定して魔素を消費することで発動する。対象に何らかの素質があった場合、素質に見合った技能を与える。魔素の消費量は対象の強さに比例する。
これは、俺だけでなく配下も強化できる有用な能力なのだ。報告されていた腕が大きくなったり、声が馬鹿みたいに大きい大悪鬼はこれを使った結果、生まれたのだろう。
試しに、と自分を対象にして使ってみる。魔素は首領悪鬼と樹霊の連戦でそれなりに余裕があったのだが、流石に魔王を対象にするとかなり持っていかれる。持っている魔素の半分ほどか。
しかしこれで強力な技能を得られる可能性があるのだ。使わない理由はない。
「『技能付与』発動!」
魔素が消費される。そして………………?
何の変化もない。
何も起きない。
魔素は確かに消費されている。
……つまり、これは。
俺には素質がない?
………………。
あぁぁんまりだぁぁ!
最終確認完了。何せ今回の褒美はクエスト達成の報酬がほとんどだ。頑丈な剣とかミスリルとか言う青白い金属だ。どれを誰に、と確認しておかないと絶対に忘れる自信がある。他にも褒美の予備もいくつか持っていく。
そしてこんな重たい物を今の俺なら普通に持ち運びできてしまう。新しく得たこの『身体能力強化』を使えば。
クエスト達成報酬の中にあった『無作為技能箱』からこれを得た。リンやエナがアリスから必死に学んでいる所悪いが、これが魔王の特権なんだ。
この『身体能力強化』非常に使い勝手良い。魔力の消費はそこそこで効果は上々。もしも髪の毛があれば金髪になっていたかもしれない。
とはいえ、使用用途は限られるだろう。荷物運びや大急ぎで移動する時などだけに。戦闘では『重力』を使って相手を潰す、通じないなら『守りの戦闘態勢』になり防御を徹するのみ。『身体能力強化』は俺の戦闘の型に合わない。
他にもクエストの達成報酬として経験値やらDPやらを得たが、あまり意味はない。レベルが一から五に上がったが、魔力が少し増えただけ。DPについてはもうない。
『ダンジョンを造ろう』から一層を覗けばどうやら配下達はすでに集まっている様子。やや早い気もするが特に問題はないので一層へ向かう。
「うおおおぉぉぉ!」
扉から出ると同時に大歓声。
俺の事を随分と待っていたのだろう。そしてこれからのことを考えて興奮しているのだろう。
だけどね、驚くから止めて。びっくりしたから。手に持っていた褒美の山を落としちゃったから。
「全員揃っているな。それでは始めよう」
落ちた褒美はそれが当然のように放置して、皆の前に進む。
大丈夫、多少予想外のことがあったが立て直せる範囲だ。どう動くか、ずっと考えていたのだ。
「まず、今更ではあるが、新入りの紹介から始めよう。蛇人以降にダンジョンに来た種族の代表前へ。木人はその場で良いぞ。……それと、お前達もまだ顔を会わせていない奴がいるんだが、居るなら出てこい」
蛇長人や妖鳥人、オルギアなどが前に出てきている中、とりあえずそこら辺の影に視線を向ける。
……どうやら間に合わなかったようだな。後で紹介することにしようと思ったが、全員の視線が俺の背後に向いていることに気付いた。
振り向いてみれば。
「ハニワの魔王よ、あれほど遠いなら先に言ってくれ。大変だったぞ」
「うるせえ、言う前に行ったんだろ。ほら、並べ」
岩蜥蜴の代表まで並んでいるのだ、早く進めたい。
闇の精霊を列に押し込む。ふむ、少し異様だな。蛇長人や妖鳥人が引くほど驚いている。……オルギアも驚いているが、他とは違う驚きに見えるな。
「それぞれ自己紹介を、と言いたいがどうしたんだ、オルギア?」
「あ、あの。ノブナガ様。こちらの方はもしや、精霊ではないでしょうか?」
「そうだが?」
直後、はあ!? と驚きの声が上がった。どこから声が上がったのかと見ればスズリとトドンが口を大きく開けて驚いている。
ふむ、何やら面倒そうな気配。
スズリとトドン、そしてオルギアが闇の精霊に向ける視線が、他の者たちの奇妙な生き物に向ける視線と異なり、何やら畏敬の念を感じる。
「質問があるなら自己紹介時にそいつに聞け。では蛇長人よ、お前からだ」
面倒なことは本人に丸投げすればいい。俺だって何もしないただの居候と言うこと以外何も知らない。
「え、はい。蛇人を代表してここにいる蛇長人です。ノブナガ様に種族を救っていただき感謝しています。誰よりも、ノブナガ様に尽くす所存です」
いきなり話を振られてやや困惑した蛇長人だが、すぐに立ち直り毅然とした態度で話した。
そして流れを作れたおかげか、簡単に次へと続いて行く。
「はい! 鳥人の代表です。妖鳥人になりました。……えっと、多分ノブナガ様に助けられたので、一番頑張ります!」
「先でよろしいか? すまない。代表ではないが、ノブナガ様に使えることになった大悪鬼のオルギアだ。この中で最もノブナガ様のお役に立てる自信がある」
分かりやすい自己紹介、そのはずなのに場がどんどんと険悪になって行く気がする。……何故だ?
次に自己紹介をしようとしていた岩蜥蜴が場の雰囲気に圧され、こちらに助けを求めるような視線を寄こしてくる。
いや、気持ちは分かるけど原因が分からないのでどうしようもない。
「ほほう、私たちよりも? それはそれは……」
……ああ、なるほど。今までの者たちよりも役に立てると、優秀ですよ、と言われたと思っているのか。
多分誠心誠意頑張ります、程度の感覚であって決して挑発しているような言葉ではないと思うんだが。
しかし、どうしたものか。要は忠誠の比べ合いなのだろうが、忠誠を受ける身の俺が仲裁に入れるはずもないし。
「どうした? 自己紹介だろう? お前の番だ」
「ミテミロ、デキヌ」
「……何故だ、よく分からぬ。では、先に失礼する。闇の精霊である。名はない」
場の雰囲気など知らぬ、とばかりに岩蜥蜴を飛ばして闇の精霊が先に自己紹介をしてしまった。
直後、閃いた。これを利用しようと。
「スズリやオルギア、何か質問があるのではないか? こいつは私室に籠って何の役にも立たないが、早々会える奴でもない。何か問うなら今だぞ」
新入りへの質問攻めで場の雰囲気を流す。新たな燃料がなければ険悪を維持するのは難しいはず。
「はい、えっと。闇の精霊様なのですよね?」
「そう言っているつもりだが? 精霊の言葉は人族も魔族も解せるはず。……まさかお前も無能と思っているのか! ならぬ、我慢ならぬ。魔王のみならずただの人族にまで。精霊の力を、加護を与え見せてやろう!」
どうやら何もしない居候と言われてかなり気にしていたようだ。スズリの確認近い言葉を勘違いし、焦るように周りを見渡して。
「適性のある者がおらぬ……!」
ぐったりと、崩れ落ちるとまるで粘液生物のように影の水たまりとなった。
「全くいないのか?」
適性なんて、素質なんてある奴は早々いるものではないのだと、過去の自分を慰めるためにもう少し喋らせようと思ったが。
「鳥人達に僅かに適性があるだけだ。加護を与えても僅かな力しか発揮しないであろう」
「じゃあ、あれだ。質が悪いなら数増やせば」
過去の自分を慰める言葉でなくなった瞬間、興味が失せた。勝手にやってろ。
「……そうだな、どれだけ加護を与えようが何かが減るわけでもない。鳥人の種族に闇の加護を与える!」
影の水たまりから丸くて黒い何かが噴き出て辺り一帯に雪のように降り注ぐ。どこかで見たことがある黒い塊だな。……まっくろなくろすけ?
しばらくして、黒い何かが全て地面に落ちて闇の精霊の下へと戻って行った、
……鳥人に何か変化があるようには見えない。
「何か変わったのか?」
「うむ、あの適性では夜目が効く程度が限界のようだが、きちんと効力が発揮されている」
……しょぼ。
目に見える変化、というか目が見える変化なので分かりづらい。それに夜目が効くって。鳥目からフクロウの眼になっただけではないか。
では加護を受けた者の反応は?
「どうだ妖鳥人? 加護を受けた感想は」
「全然分かりません! 意味あるんですか?」
元気よく加護を否定。闇の精霊に致命傷を与えた。
しかしこれは好機。場の雰囲気が緩んだ。
「ほれ、岩蜥蜴。自己紹介をすると良い」
「ハイ。岩蜥蜴デス。ヨロシク」
下手に刺激する可能性のある言葉は一切選ばず、短い挨拶で終えた。
後はこのまま無難に自己紹介が終われば良い。この後は俺が自由に仕切れる。
他にも首領悪鬼の所から来た者はいるが、すでに同種族が居るのでその者たちの紹介はなし。
そして最後、木人の番となる。
「あの、その。代表っていうか、押し付けられただけでして。樹齢は五十年もない若輩者ですし。森人のように樹齢が三百年だが、五百年ある者を選ぶべきだと思うんですけど。ええ、居ませんよね。だから代表とか決めなくても良いと思うんですけどどうなんでしょう。まあ、自分が代表でなければ良いんですけど。ただ自分以外の木人は樹齢が三十年にも満たないからまともに喋れなかったりして――」
「以上。木人の代表の言葉であった」
いつまでも煮え切らないような話を続けそうなので強制的に終わらせる。場も先程とは違う意味で苛立ち始めていた。
これで自己紹介は終わりだ。次は。
「これより新たに入った種族の族長を選出する」
まあ、分かりきっていることではあるが、全員の前でこうして決めたという事実が重要なのだ。
「まずは蛇人」
「私、蛇長人が族長となります」
「次に鳥人」
「え、誰? あ、私!? はい、妖鳥人です」
「……不安な頭の出来だな。オルギアはアリスのように俺の直轄とする。故に小悪鬼の族長は今まで通りヒデとする」
「「かしこまりました」」
「次に岩蜥蜴人」
「蜥蜴人ノシタニツキマス」
……おや? 今までの流れと明らかに違った返答だったぞ?
族長を選出せずに蜥蜴人の中に入ると言うことか。
「ツヨイヤツ、ゾクチョウ。ダカラ、ゾクチョウハ蜥蜴人」
「なるほど。どうする、リン?」
清々しいほどの脳筋の発想。理解しやすい。だが、受け入れるかは別だ。その場合、重要なのは受け入れる側、リンたちの考えだ。もしも負担だと答えれば脳筋の考えは却下だ。
「近親種ですので、組み入れても問題ないと思います。ですが、最初は様々な違いが出てくると思いますので、岩蜥蜴はエナに任せ、少しずつ組み込むことになると思います」
問題なしと。リンの後ろでエナが絶望的な表情をしているように見えるが、問題はないのだから見えなかったことにする。
「あ、では木人もどこかの種族の下が良いです」
「却下。木人の族長は代表のお前。では次に進む」
木人に族長を決めよ、なんてグダグダするだけなのでこっちで勝手に決める。他の種族にこいつらを束ねさせるのは相当面倒であり、かわいそうなので却下した。
他に首領悪鬼の所から来たすでにいる種族はそのまま同じ種族に組み込まれる。これで新入りの方が強い、などの場合面倒が起きたかもしれないが、新入りの方が弱いので簡単に組み込めそうだ。
闇の精霊に関しては単一種族らしいので放置。どうせ加護を与える程度しか役に立たないし。加護もしょぼいがな!
それでは、褒美を渡すとしよう。
「族長の選出も終わった所で論功行賞に移る。要は頑張った奴に褒美を与えるだけだ。まず、首領悪鬼討伐戦。敵の首魁、首領悪鬼を討ったアリスに剣を与える。多分良い物だと思うぞ」
雑だな、と思いながらも先程落とした褒美の中から剣を取り出す。うん、剣の良し悪しを見極める目はないが、悪い物にはみえない。
今アリスが持っている剣も首領悪鬼、樹霊と、魔王の連戦でくたびれているだろう。ここで新しい剣に変えるのも悪くないはず。
「くれ」
褒美の山から顔を上げればそこにはすでにアリスが居た。自己紹介や族長の選出の時は関係ないから後ろの方で暇そうにしていたくせに。
ほれ、と手渡せばその場で剣を抜いて確かめるように振る。
危ない、危ない! 止めろ!
「うん、良い感じだな。感謝するぞ」
「分かった、分かった。下がっていいぞ」
怖いからすぐに離れろ。まさか目の前で素振りをされるとは思わなかった。見えない速さで剣を振りまわすのは本当に止めて欲しい。
「全く……。次は首領悪鬼の軍勢だな。まずは、相手の指揮官。まあ、指揮なんてしていなかったらしいが、大悪鬼を二体討伐。これは各種族の族長と名持ちが協力して成し遂げた。ただ数が多いのでな。誰か代表として受け取るか、均等に分けるかで悩んでいるのだが」
決してその功績を低く見ているわけではないが、アリスと比べれば劣るものであり、また多数の功績のため褒美を受け取れる者が多い。功績で考えればアリス以下の褒美でなければならないが、褒美を皆で分ける形となるとあまり良い物は与えられない。誰か代表として受け取るのであれば全員の前で渡すのにふさわしい物を与えられるのだが。
「それでしたらノブナガ様。辞退させて頂きたく思います」
「……辞退? 良いのか?」
「はい。あれの大悪鬼は確かに三階位の魔族でありましたが、決してノブナガ様に褒めて頂けるような優れた敵ではございませんでした。せめて、オルギアのような強い三階位を倒せたときにお褒めの言葉を頂きたくございます」
ランの言葉に同意するように族長と名持ち達が一斉に頷く。……何があったのか分からないが、要らないと言うのであれば無理強いは出来んな。
「分かった。では次に、軍勢そのものだな。報告では特に蜥蜴人が獅子奮迅の働きを見せたとのこと。確認するがリンやエナではないのだな?」
「はい。その時にはすでに大悪鬼の方に向かっておりました。その功績はこの蜥蜴隊長にございます」
リンよりも一回り程大きな蜥蜴隊長。……どこかで見たことがあるような? あ、前に模擬戦で戦った蜥蜴隊長か。あの時は尻尾で急所を攻撃してしまい申し訳なかった。
「では褒美として、名で良いか?」
「はい! リンに負けぬような名を賜りたく思います」
リン関連か。それならいくつか浮かぶから問題はないな。
「分かった。ただ名を与えるのは後となる。他にも名を与える者が複数いるのでその時に与える」
しかし今回は名を与える相手が多くなるな。次の褒美も名だ。
「では次に、鳥人。代表の妖鳥人前へ。お前たちは苦境に立たされた族長たちを救い、率先して我が方に付き、他の種族の寝返りを……。良く分かって無さそうな顔をしているな。要は族長を助けてくれて、俺を選んでくれてありがとうってことだ。褒美として族長の妖鳥人に名を後に与える」
「……? 良く分からないけど、はい!」
元気はよろしい。いや、元気だけがよろしい。まあ、深く理解することを望んではいないので良いか。
妖鳥人を下がらせて次に移る。
「次は樹霊遭遇戦。……思い出すだけで嫌になるな。首領悪鬼討伐の後で疲れていた状況で、いきなり誕生して即戦闘だ。まあ、皆が魔王と言う敵を認識できた一戦だったのかもしれないが。それではまず、援軍が来るまで戦線を維持し、その後森人を討伐、更に樹霊討伐に参戦したオルギア。お前への褒美はこの鉄腕……だ」
腕を失くしたオルギアに丁度良いと、『ダンジョンを造ろう』の倉庫に埋もれていたある団長がしていた鉄腕を持ってきたのだが、失敗した。
大悪鬼と人族が同じ腕の大きさなわけがない。まさかこうして目の前にしてようやく思い至るとは。義手がある、だけで思考を停止したのは駄目だったか。
「ああ、すまない。これでは使えないな。……トドン、これをオルギアの腕くらいに大きくすることは出来るか?」
大きさが合わない、はい残念。で済ますにはあまりに惜しい。片腕のままでは不便だろうしな。
だからトドンに大きく出来るか聞いてみる。ダンジョン内でこれに手を出せる可能性があるのはトドンだけだ。
「うん? ちょっと待て。……出来なくはない、か? 中央の大事な魔道具の部分は生きている。後は肉付けするように外と、中の方もでかくなるようちょいと増やせばどうにかなりそうだな。但しちゃんとした鍛冶の施設が必要になるな。あ、俺は鍛冶をしねえぞ」
「いや、それさえ分かれば良い。ファース辺境伯に頼んでみよう。そんなわけでオルギア、褒美を渡すのが少し遅くなってしまう。すまない」
「いえ、過分な褒美。ありがとうございます」
恭しく頭を下げるオルギアを見ると本当に申し訳なくなってくる。せめて何か別の形の褒美でも考えるか。……オルギアなら素質あるだろうし、『技能付与』でもこっそりと試すか。素質がなければ黙っていればいいし、何か技能を付与できれば褒美を渡せなかったので、と言えば良い。
「おう、いいけどよ。ちゃんと腕の良い奴を選ばないと失敗するぞ」
「その辺りはファース辺境伯を信じたいが、トドンも付いて行くか。お前なら鍛冶師の腕程度見抜けるだろう?」
「その場で俺に鍛冶をさせるなんてことは」
「絶対にしない。約束しよう」
なら良い、と引き受けてくれた。これで最悪、俺がトドンの姿を取ってこっそりと鍛冶をするという方法も出来る。鍛冶場がないと意味がないからファース辺境伯領まで連れて行かないといけないからな。
あっと、そうだ。
「トドン、ついでだ。樹霊討伐に大いに貢献したお前にも褒美がある。このミスリルとか言う金属の延べ棒だ。好きに使え」
ダンジョンのクエスト報酬として得たミスリル。ヒデ辺りでも喜びそうなものだが、これは金属だ。そして金属加工技術はここにはない。はっきり言って無用の長物。枕にする程度しか価値がない。ただ、鉱国出身のスズリやトドンなら昔を懐かしむ程度の価値があるかもしれないので渡す。
ふむ、と受け取ったトドンはミスリルを見回して。
「純度が高い、良いな。ほれ、オルギア。お前にくれてやる」
オルギアに投げ渡した。オルギアの枕にでもしろと言うのか? 小さいと思うが。
「どうして自分に渡す?」
「あの鉄腕を治す際に内側はそれを使う。外側の鉄は知らんが。それにな、樹霊討伐の時にお前が守ってくれていたのは知っている。その礼だ」
ついでに言えばそれを貰っても何の役にも立たん、と言いながらトドンは後ろの方に戻って行った。
オルギアはトドンに向けて一度頭を下げ、それから鉄腕とミスリルを持って戻って行く。
……うん、良い話になってしまっている。何だか話の続きがしにくいな。
「……ええ、では次だ。その身を挺して他種族を守った。その献身を評する。代表として蛇長人よ。名を与える」
「え、あ、あの! 他の方々に比べれば僅かな貢献しか……」
「族長に名を与える口実だ。素直に受けよ」
出来れば族長には名を持ってもらいたい。その方が色々と便利だからな。木人は何もしてないので名を与えられないが。
それに個人が個人を、ではなく種族が他の種族を守ったと言うことは本当に評価している。これを前例として広がってほしいものだ。
「次で終わりだ。森人を倒し、樹霊討伐に助力した。ライル、イフリーナ、セルミナ。お前たちに聞きたい。褒美は何が欲しい?」
アリスのように分かりやすい性格をしていれば簡単で、魔族の配下のように慕ってくれているなら色々と出来る。しかし状況的にここにいることになったこいつらが何を望むか。それが分からない。解放するつもりもないしな。
「何が欲しいかって聞かれても、何ッスかね?」
「お金を貰っても使えませんし、待遇も良いとは言いませんけど、周りを見れば十分と思いますし。……イフ姉」
褒美について何が良いかと困惑する二人に対してイフリーナだけは明確な目的がある様子でこちらにきて手を差し出し。
「樹霊討伐の際に凄い衝撃を出したアレをくれ」
「却下だ!」
まさか火薬をねだるとは、あれは絶対に他の奴には渡さない。
残りが僅かと言うこともあるが、火薬の進化はいずれ『守りの戦闘態勢』すら容易に破壊する火力を生み出す。
そこまでにどれだけの時間が掛かるのか、本当にそこまで進化するのかは分からないが、可能性があるなら摘むつもりだ。
しかし俺の強い拒否が相当意外だったのか、イフリーナはその場に崩れ落ちた。
「え!? イフ姉! どうしたの、イフ姉? あの、魔王陛下。私の分の褒美としても駄目ですか?」
「駄目だ。しかしイフリーナはどうしたんだ? 願いが叶えられなかったら崩れ落ちるより、激昂してこちらに襲いかかってきそうなものだが」
崩れ落ちたイフリーナにセルミナは慰めるように近づき、話を聞いた。
「えっと、どうやら樹霊を抉ったあの魔法を再現したいようです。何かの力を借りての結果ですが、魔法ではあった。なら何とか再現し、習得して使いこなせるようになりたい。ですが熱量を上げたり、火を大きくしてなど頑張ったが再現は出来ず、一縷の望みを賭けて欲したようです」
爆発に魅入られたのか、イフリーナは。なればなおさら、火薬を渡すわけにはいかない。爆発に魅入られたのなら更に大きな爆発を求めて火薬を改良しかねない。
ただ。
「ライル、セルミナ、イフリーナ。三人の褒美として再現の為の助言ならばしてやる。それが最大限の譲歩だ。どうする?」
火薬は渡せないが爆発だけなら別に良い。おそらくイフリーナでは爆発を再現できてもそれを利用する、という考えは出て来ない。それに完全に否定だけしては印象が悪くなってしまう。
「え? 俺の褒美の分もッスか?」
「そういえば、樹霊討伐の時に俺の事を置いて逃げた奴がいたような……」
「俺の分の褒美も使って欲しいッス。だから早く終わらせるべきッス」
あの時の事は忘れていないぞ、と軽く脅せばライルはあっさりと白旗を上げてその場から逃げたがった。
後はセルミナのみ。
「イフ姉のためなら構いません。それにここで助言を頂かないとイフ姉が落ち込んだままで、調子が狂うので」
良かったな、イフリーナ。出来た妹を持てて。
「ではイフリーナ。爆発に関する助言だ。良く聞け。重要なのは圧縮だ。熱量ではない。まあ、爆発にも種類がある。燃える空気だったり、爆発しやすい環境だったり。それについては教えるつもりはないが。爆発に至るまでの手順は一つではないと知れ」
そしてその爆発を決して俺に向けるんじゃないぞ。
俺の助言を受け、即座に試そうとするイフリーナ。寸でのところでセルミナが気づいて止めさせ、俺に頭を下げてからイフリーナを後ろに引きずっていく。
イフリーナのあの姿。集中力。斬る、ということに固執するヴォルトやアリスに似ている。……もしや早まったか?
まあ、未来の事を考えても仕方がない。今は今の事を考えよう。
「これで論功行賞は終わりとする。褒美が余ったな。まあ、良い。では、これより名を与える、前に重大な発表がある。皆、付いてくるように」
俺は先程やって来た扉を今度は普通に通る。
一階層の扉を通った先にあるのは豪華絢爛な玉座の間、ではなく。
一部簡単に舗装された道があるだけで他は見渡す限りの山、山、山!
この光景はヒデら小悪鬼と木人以外は見覚えのある景色。
「第二階層を造った。モデルは西の山脈。広さは一階層の倍以上だ」
第二階層、山脈。




