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第九十六話 魔王対魔王

「首領悪鬼(ドン・オーガ)ビビってる! ヘイ、ヘイ、ヘイ!」


 気分としてはついでに手を叩きたい所だが、硬い物が当たる音がするだけなので止めて置く。

 直後、自分と同じくらいの大きな拳が飛んできて俺の身体を殴り飛ばし、壁に叩き付ける。


 アリスがオルギアの相手をしてしまったので、流れで始まってしまった俺(魔王)対首領悪鬼(魔王)の戦い。

 戦いと言っても俺は攻撃らしいことをしていない。『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』を維持して全ての攻撃を受けている。

 首領悪鬼(ドン・オーガ)の膂力は凄まじく、今まで出会った生物の中でも疑いようもなく一番だと言える。何せ『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』の俺を殴って飛ばせるのだから。掴んで握り潰そうともしていた。

 しかし俺は未だに無傷。硬さが、握力が足りないのだ。

 どれだけ殴ろうと首領悪鬼(ドン・オーガ)の拳より俺の『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』の方が硬い。殴れば殴るほど逆に首領悪鬼(ドン・オーガ)の拳が傷つくだけだ。

それに飛ばされたところでその先も岩、つまり俺の方が硬い。普通の感覚で言えば投げられた先に羽毛や海綿があるようなものだ。傷つくわけがない。例え僅かに傷ついても『自動回復』ですぐに癒える。

投げられた衝撃で、ということはあるかもしれないが衝撃程度で根を上げるような身体はしていない。


 その首領悪鬼(ドン・オーガ)は、手が血だらけとなり若干息を切れてきている。手が血だらけの理由は、『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』の俺を殴り続けた故に指が歪んだためでもあるが、大きな理由は俺が殴られる際に抜き手で攻撃を受けているからだ。

 力強く迫ってくる拳に俺は前ならえのように抜き手で攻撃を受けている。すると抜き手は握り拳、指に突き刺さり腕の奥まで入り、殴り飛ばされる寸前に返しのように手を広げることにより奥まで届いた手が、指の中の肉を抉りながら出て来て傷口を広げていた。

 ただ、首領悪鬼(ドン・オーガ)にとってその程度の怪我は針に少し刺された程度のなのか、うっとおしい程度で怪我を気にした様子はない。


 それらから判断するに、現状はやや厳しいと言った所。

 状況だけ見れば俺の優勢だ。首領悪鬼(ドン・オーガ)は俺に攻撃を通す方法がなく、俺は反撃して僅かながら傷を負わせている。

 更に首領悪鬼(ドン・オーガ)は全力で攻撃して今の状態であり、俺は一切攻撃をしていない。それだけで精神的に優位に立っている。

 ただ、俺の『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』は魔力がある限りと言う時間制限付き。アリスがオルギアを倒してこちらに来てくれればいいが、向こうは実力が伯仲。すぐに決着が着くとは思えない。

 もしも首領悪鬼(ドン・オーガ)が怪我を気にして攻撃を控えたり、こちらの様子を見るような行動を見せるなら、すかさずワリの実を食べて魔力を回復できるのだが、首領悪鬼(ドン・オーガ)は執拗に攻撃を繰り出してくる。

 そこで首領悪鬼(ドン・オーガ)の体力を尽きさせるために挑発することにした。こちらの魔力が尽きる前に何とか首領悪鬼の体力を尽きさせて隙を作りたい。


「もっと来い、オラ―!」


 その甲斐もあり、首領悪鬼の体力が尽き始めたのか、先程から動きが緩慢になってきている。息を整えようとしてくれればその隙にワリの実を食べる程度は容易い。

 裏拳が飛んでくる。しかし初めの頃に比べて明らかに遅い。ここまで来ればあと少しすれば肩で息をするように。


「おっと、失礼」


 殴り飛ばされた先は戦闘中のアリスとオルギアのど真ん中だった。壁まで飛んでいないことから体力が尽き始めたことが分かる。

 すぐにこの場から退きたいが、目の前で繰り広げられる剣と拳の応酬が凄まじくとても動けない。『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』を解いた瞬間に死ぬだろう。

 どうしたものか、と考えていると。


「邪魔だ!」


 アリスが器用にオルギアの拳をずらして俺に当てさせた。その衝撃で俺の身体が傾き、ゆっくりと倒れる。

 横向きに倒れる直前に見えたのはオルギアの驚いた表情。多分アリスの行動が意外だったのだろう。配下がする言動じゃないもんね。

 倒れてしまうと『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』を解かないと立ち上がれない。しかし解くと確実に巻き添えを食らって死ぬ。

 身動きが出来ない状況だったが、救いの手が叩き込まれた。


「お前ら、邪魔だ!」


 首領悪鬼(ドン・オーガ)がやってきて拳を振り下ろした。勿論アリスやオルギアの事など一切考えず。

 殴った影響で四方八方に砕けた石が跳ねるが、オルギアやアリスがその程度で傷を負うはずもなくあっさりと対処していた。

 そして俺も、地面にめり込んだが、救いの手ならぬ拳が振り下ろされた際に迎撃で抜き手を打ち込んである。簡単に抜けないように返しもばっちり。

 後は拳を戻してくれれば俺も地面から抜け出せる。出たらまた挑発して先程と同じ展開に持ち込めば……あれ?

 拳を戻す速度が速い。これでは戻すではなく振り上げるだ。

 地面から抜けて拳と共に宙へと移動する俺。それとすれ違うように首領悪鬼(ドン・オーガ)の片腕が俺の居た場所に振り下ろされた。

 これはもしや、と思った瞬間に腕がすっぽ抜けた。かなりの速度で振り上げられたため、手のひら程度の返しでは耐えきれなかったらしい。


 ぐるぐると高速回転しながら落ちて行く。

 肩、胸、背中と何度も跳ねながら強打したが、支障はない。首領悪鬼(ドン・オーガ)も追撃に来ない様子。

 安全を確認してから元の姿に戻り、辺りを確認する。

 すると最初に映ったのは未だに俺のいた場所を殴り続けている首領悪鬼(ドン・オーガ)。どうやら未だに俺があそこに埋まっていると思って攻撃しているようだ。

 今の内にワリの実を食べて魔力を回復。しかし執拗に攻撃しているな、挑発され続けて頭にきていたらしい。

 アリスとオルギアの方は、まだ戦っている。ほぼ互角、しかし攻撃の激しさが段々と増している。例え無傷で済むとしてもあの中には入りたくない。

 

 状況の把握完了。もう少し時間稼ぎをしないといけない。しかし、だ。首領悪鬼(ドン・オーガ)の無防備な背中を見ていると欲が湧いてくる。

 少しくらい、傷を負わせてからアリスに任せた方が良いのではないか。

 今なら確実に先制を取れる。更に魔力も回復したので多少『重力』を使っても問題はない。

 散々殴り、叩き付けてきた恨みを返す時。ではなく後で戦うアリスの為に。


 そうと決まれば行動に迷いは生じない。

 気づかれないように慎重に首領悪鬼の背後に近寄る。距離にして五メートル。

 首領悪鬼(ドン・オーガ)は未だに気付かずに地面を殴っている。


「馬鹿が! 『重力』十倍!」


 最大出力。距離については魔力の消費は極力抑えたいのでそれなりに近づいたが、威力について容赦はしない。

 圧し潰れろ!


 そこに、僅かな油断があったのかもしれない。

 『重力』を使用した直後、首領悪鬼(ドン・オーガ)は声から俺の位置を悟ったのだろう。圧し掛かる『重力』に抗わず後ろ向きに倒れて来て、更に腕を伸ばしてきた。

 俺が居るのは首領悪鬼(ドン・オーガ)の背後五メートル。対して首領悪鬼(ドン・オーガ)は身長が五メートル、腕の長さを合わせれば七メートルは届くだろう。

 俺の位置は首領悪鬼(ドン・オーガ)の間合いだった。

 倒れてくる首領悪鬼(ドン・オーガ)の重さは通常の十倍。腕だって同じだ。個々に居れば潰されるが、逃げるような時間はない。

 打てる手は、限られていた。すぐに『重力』を解除して、『守りの戦闘態勢(タングステンの身体)』になるしかない。


 身を守るのは行動というより脊髄反射。攻めに転じるよりも当然早い。

 しかし『重力』がなくなれば首領悪鬼(ドン・オーガ)も好きに動けるようになる。

 首領悪鬼(ドン・オーガ)仰向けには倒れたまま、両腕で俺を掴んで思いっきり投げた


 威力は凄まじく速度は最速。しかし投げた体勢が悪く、俺は頭から地面を削るように滑って行く。

 あああ、禿げるうぅ。


次回アリス&オルギア。

ノブナガに髪はありません。

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