第八十三話 鬼が出るか蛇が出るか
部屋の掃除、というか本の整理を一部するだけで二日かかった。(・ω<)
追跡は簡単だった。
この異臭漂う森の中でも蛇人の臭いは独特らしく嗅ぎ残すことはないとシバが言っていた。
ふむ……。全然分からん。
さすがのアリスも臭いは分からないらしいが、蛇人が這った後を的確に見つけている。ピット器官でも付いているのだろうか?
しばらくして、小さな洞窟を見つけた。臭いと痕跡はこの中に続いているらしい。
「どうしますか魔王様。罠の可能性もありますが」
「もし追いつけたら変身して思考を探ろうと考えていたのだが。アリス、蛇人がこのような洞窟に潜んで罠を張ることはあるのか?」
「罠の可能性は低いな。だってこれ蛇人の住処だぞ? あの蛇人ではない複数の蛇人が出入りしている痕跡もある。狭くて薄暗い、じめっとした場所を好む奴は多い」
なるほど、罠の可能性はほぼない。ただ住処の可能性があるのか。それなら罠の方が良かったな。罠なら突破してしまえば相手は一人、交渉は容易い。
しかし住処だと迎撃のためにぞろぞろと出てくるのだろう。もしもこちらの想定する数以上に出て来られたら、面倒だなあ。いや、そこはアリス、いやシバに任せれば良いか。一階位程度の群れなら俺でもどうにかなる。
中に入ると西部特有の澱んだ、まとわりつくような臭いが消えて無臭となりひんやりとした空気が肌に触れる。そして周りにはほんのりと光る苔が生えていた。
外とはまるで違う世界。これは気を引き締めて入った方が、と考えふと気づく。
『重力』を使ったらこの洞窟崩れるんじゃ?
『重力』の範囲は自分の周囲十メートル。つまり洞窟の中で使えば一部に負荷をかけることになる。その負荷に洞窟が耐えられるのか、それは知らない。
横幅も大人二人が並ぶのがやっとといった所、すぐに前後で交代は難しそうだ。なら。
「アリス、先頭を譲ろう」
蛇人如きじゃなあ、と文句を言いながらも俺の前を歩くアリス。念のため、挟み撃ちを警戒して入り口に軍犬を何名か待機させる。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。あ、蛇は確定か。
「尾けられていたとは。愚か者!」
洞窟の最奥、広い空間には居たのは五十ほどの蛇人と明らかに気位の高そうな、蛇の部分が長い者が居た。
「なにあれ?」
「長蛇人だな。二階位の魔族だ。昔師匠が三階位の蛇頭人と魔王の石蛇眼妃を相手にした話を聞いたな。『石化の魔眼』は眼が光った瞬間に視線を斬れば防げるとか」
なにそれ怖い。
「長蛇人程度では『麻痺の魔眼』だろうが、出来れば試してみたいものだな」
蛇人は魔眼持ちなのか。怖いなあ。あ、でも俺は『麻痺無効』持っているし、石化も『守りの戦闘態勢』になれば防げそうな気がする。
どうやら即座に戦闘となる様子もなく、交渉となりそうだったのでアリスを下げて俺が前に出る。
するとキッと睨まれた。はて? 睨まれるようなことをしたかな?
「どうも、長蛇人さん。ノブナガと申します」
「何用ですか首領悪鬼の手下。我らが長、蛇頭人様を殺してもお前たちの奴隷になどなるものですか! 最後の一名になろうともお前たちに従う者などいません。徹底抗戦です!」
シャー、と威嚇と共に周りの蛇人達も戦闘態勢になる。それにつられて俺の背後に居るシバら軍犬たちもそれぞれ背負っていた武器を構える。
おいおい、ちょっと待て。
「何やら勘違いしているようだな。我々は首領悪鬼とは関係ない。私はオワの大森林東部にダンジョンを構える魔王、ノブナガだよ。君たちと少し話をしに来たんだ」
どうにか話をすることは出来た。最初の内は他の魔王など! と他の魔王の所為で話すことさえ難航していたが、シバが介入することで一片。俺とシバの種族は明らかに違う、それでも厚遇してもらっていることを話すと半信半疑だが納得してもらえたようだ。
「私たちの住処は元々もっと西の大きな洞窟でした。しかし最近首領悪鬼の軍勢がやって来て配下に加われと脅してきて。抵抗した長の蛇頭人様が殺され、我らはその洞窟から逃げ出しました。その後、三階位の魔物に襲われ同胞とバラバラになりながらもこの洞窟を見つけ、細々と暮らして行こうとしておりました」
……首領悪鬼の手勢がオワの大森林に入って来た? 確か西の山脈にダンジョンを構えているはず。何故わざわざ下りてくる? しかも配下に加われと脅し、従わねば殺すとは。物騒だねえ。
こっそりアリスのここの長だった蛇頭人がどの程度の強さなのか聞けば、おそらく強剛猿よりも強いと。だから分散しても五十となる大きな群れを作れていたのではないか言われた。
そしてその蛇頭人を殺した首領悪鬼の手下。首領悪鬼が直接手を下したなら驚かないのだが。三階位の魔族と言うことだろう。嫌だねえ。
「それならどうだろう? 私のダンジョンに来ないか? 勿論、奴隷のように酷使するつもりはない。君たちの適性に合った役割を与えよう。どうかな?」
それとついでにここいら一帯の地図、はないだろうから石切り場となりそうなところがあれば教えて欲しい。え? ない? それは残念だ。
さすがに蛇長人もすぐには答えを出せないようで悩んでいるようだ。まあ、俺が傍若無人の魔王だと疑っているからでもあるからだろうな。
いつになるかは分からないが、またの機会に、と適当にお茶を濁して帰ろうかとした時。
「魔王様! 敵襲です!」
外で見張りをさせていた軍犬が焦った様子でやって来た。
挟み撃ちなのか、と長蛇人を見るが、そちらも驚ている様子。
ならば誰なのか、それを聞く前にアリスがすごい勢いで外に向かって走り出した。俺たちもすぐに後を追う。
しかしどうせ、外に出る頃にはアリスが片を付けているだろう。そう思っていたが。
外の光が見え、それと同じく戦闘音も響いてきた。アリスが片づけられていないのだ。
何が起こっているのか、そう思って外に出てみれば。
鬼が出ていた。
大量の小悪鬼が周囲を包囲し、その中にちらほらと中悪鬼の姿も見える。しかし驚くべきは目の前。
包囲の真ん中で戦うアリスと大悪鬼の姿。更に後ろには少し小さな大悪鬼が二体。
しかもそのアリスと戦っている大悪鬼は。
「オルギアさん」
俺が初めて言葉を交わした魔族だった。




