大丈夫
ショウは、笑うことが少し苦手な少年だった。
家ではみんな忙しく、学校でも上手く話せない。
心の中に、言えない言葉だけが積もっていた。
ある雨の日。
公園のベンチの下で、小さな子犬が震えていた。
ショウは思わず抱き上げ、家へ走った。
「大丈夫だよ。」
その声は、まるで自分に向けた言葉のようだった。
子犬は「コト」と名付けられた。
小さな鳴き声が、優しい言葉の様にショウの心に触れるから。
それからの日々、ショウはコトにだけは何でも話した。
「今日はクラスで手、あげられたんだ。」
「ほんのちょっとだけ、勇気出せたんだ。」
コトは言葉を返さない。
でも、その瞳は全部わかっているようだった。
ショウの世界は、少しずつ明るくなった。
――時が流れ、コトは年を取った。
歩く速度がゆっくりになり、呼吸が静かになっていく。
ショウは抱きしめながら泣いた。
「いなくなったら…僕、どうすればいいの。」
その瞬間、確かに聞こえた。
「大丈夫だよ。ショウはもう、一人で笑えるよ。」
声ではない。
音でもない。
心が受け取った言葉だった。
コトはショウの手に顔を寄せ、静かに目を閉じた。
夜が明ける頃、コトは眠るように旅立った。
ショウは涙の中で、そっと微笑んだ。
「ありがとう。僕を、救ってくれて。」
その日からショウは、前を向いて歩き続ける。
もう、うつむいた少年ではない。
胸の奥で、今も確かに聞こえる。
「大丈夫だよ。」




