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第5話 盤外の協力者と、不穏な行軍

伝令メイドの発言にまだ始まっていないことが書かれていたのを修正。

「ありがとう、シルヴィア、クロエ。でも、まだ準備の第一段階。確実なチェックメイトには証拠は多ければ多いほどいい……アダリン、急いで商人ギルドの筆頭幹部『ファンドラ』をここに呼んできて。極秘裏にね」

「畏まりました。陛下……外部勢力、しかも現金な商人との直接交渉。そのリスクを理解した上での果敢な一手、高く評価させていただきます。ただちにお呼び立ての手配を」


 部屋の隅に控えていたアダリンが、満足げに手元のメモ帳をパタンと閉じて恭しく一礼し、足早に部屋を退室する。

 それから程なくして。

 アダリンに案内された来客によって、控えめとは言い難い活気に満ちた力強い音で扉が開け放たれた。


「陛下ぁ!ご指名ありがとうございまーす!今日もとびきり香りの良い東方の高級茶葉と、それ以上に刺激的でブラックな市場の裏事情をたっぷり持って参りましたよ!」


 弾けるような明るい声と共に現れたのは、商人ギルドの意匠を洗練された形に変え、機能性と富の象徴を同居させた旅装束に身を包んだ女性だった。

 ファンドラ。

 この王都の物流の三割を支配し、文字通り情報の海を泳ぐ商人ギルドの若き傑物だ。


「ファンドラ。急な呼び出しに応じ感謝する。……余から頼みがある。東部領の不自然な物資の流出、その行き着く先を早急に洗ってほしい」

『(なるほど、あれがファンドラか。金に汚い様子はなさそうだが、計算高い研ぎ澄まされた目をしてる。上手く利と大義を提示してやれば、最強の盤外駒になるはずだ)』

「おや、おやぁ!これはまた、実に魅力的な……おっと、失礼。実に社会的価値の高い案件ですね!商売人は耳が命、そして信用が全てです。将来の超大型顧客かつ、この国の公正な取引環境を守ってくださる陛下のためならば!街の不穏な噂からブラックな市場の金の洗濯の流れまで、商人ギルドの全ネットワークを駆使してサービスで徹底的に洗っちゃいますよ!」


 バチリ、と景気の良い音を立ててウインク一つで二つ返事をしたファンドラに、ルゼリアはようやく喉に支えていたプレッシャーを少しだけ吐き出した。


『よし。ギルギアスが屋敷内の実録をファンドラが屋敷外の物流を押さえる……完全な挟み撃ちの構図だ。相手がどんなに嘘を塗り固めても内側と外側の数字が合わなければ、それはただの空論になる。メイドさんたちにも頼みたいことがある。ルゼリア、頼むぜ』

「うん、わかった。……シルヴィア、クロエ、あなたたちにも頼みたいことがあるの」

「はい、陛下。何なりと」

「はーい、御用の向きは〜?どこまでもお手伝いしますよ〜」


「シルヴィアは過去五年分の東部領の納税記録、および災害補填金の支給記録を精査して。周辺領地の物価変動データと比較して異常な乖離――特にあの人だけが得をしている特異点を炙り出して。クロエは城内のメイドや下働きたち、特に東部出身の者たちから内情を集めて。バレストロ侯爵が最近、あからさまな贅沢をしていたり特定の怪しい商人と頻繁に接触していないか……噂話を回収して」


 淀みなくかつ具体的に細部まで役割を分担させ、指示を飛ばす幼い女王。

 二人の専属メイドは、一瞬だけ信じられないものを見るかのように目を見開いたが、すぐに主への深い誇らしさをその背筋に宿して、深く深く、忠誠の礼を捧げた。


「任務了解。数値の矛盾を認定。完璧な比較統計資料の提出をこのシルヴィアが陛下にお約束します。修正が必要な箇所、すべて浮き彫りにしましょう」

「任せてください、ルゼリア様。噂話の間引きと収集はメイドの特権中の特権ですからね〜。誰にも悟られずにとびっきりの毒と真実を回収してきますよ〜。んふふ、面白くなってきましたね〜」

「……外部の専門家、商人勢力、および内部の側近への同時並行的かつ完全に整合性の取れた指示。一夜にしての指揮能力、および戦略構築能力の飛躍的向上……。女王ルゼリアの『覚醒』を確認。これは、評価の基本アルゴリズムそのものを抜本的に書き換える必要があります。文句なし、驚愕のプラス100点です。……素晴らしい」


 部屋の隅、無言でペンを走らせるアダリンの手が、かつてないほどに速く正確に動いていた。

 その瞳には、単なる仕事を超えた一人の少女への期待が灯っていた。


 すべてが動き出した、その時。

 一人の伝令のメイドが、青ざめた顔で扉を叩いた。


「陛下!失礼します!騎士団より、緊急かつ深刻な報告が入りました!」

「……何が起きた?」

「東部不作を主張しているバレストロ侯爵が不自然なほどの私兵を動員し始めたとのこと!自領の館の警備を異様なまでに固めると同時に、東部領の交易路を目指して移動を開始したとのことです!」

「……っ!!」


 ルゼリアの小さな肩が、ビクッと大きく跳ねる。

 せっかく口にした朝食が逆流しそうなほどのプレッシャーが、再び彼女を襲う。


 彼女はクッションの上で静かに、先程よりも一層力強くサファイアを明滅させている王冠を見つめた。

 ギュッと折れそうなほど細い指で震える右手を左手で押さえつけながら、小さな拳を強く強く握りしめる。


『(なるほど。向こうも食えない古狸ってわけだ。尻尾を掴まれる前に武力で威圧し、情報を遮断するつもりか。だが、ルゼリアと俺の隠密作戦があんな脂ぎったデブごときの付け焼き刃の抵抗に屈してたまるか)』


 内心ではプレッシャーでひやひやと――存在しない心臓がバックバクのテンパり気味なクラウンだったが、宝石の物理的な輝きだけは王者の如く絶やさず、静かに重厚な威厳を持って念話を響かせた。


『大丈夫だ、ルゼリア。相手が焦って武力を動かしたってことは、それだけ致命的な尻尾がそこにある証拠なんだよ。焦りは完璧に見えた嘘の中に必ず隠しきれない綻びを作る。作戦は予定通り続行だ』

「……わかった。負けられない」


 顔を上げた幼き女王の瞳には緊張と、それを超える熱い反撃の意志、それクラウンという唯一無二の相棒への絶対的な信頼が宿っていた。

 王国の闇を払うための反撃の狼煙は、冷たい朝を焼き尽くすように、高く高く上がったのである。


毎日の更新を目指して頑張ります。(基本は20:10)

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