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全てを奪われたギフト持ちの少女は覚醒して家族を書き換える  作者: かんあずき
ギフト編

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7/13

7 誰かに聞かれている

部屋の風呂はシンプルな作りだったが、トイレとは分かれたきちんと洗い場も備えられていた。


熱いシャワーを頭から浴びるとまとわりつく海水の香りが流れ落ちていった。

朝が近づいているのに神経が昂っていて、眠気も感じない。


「頭がおかしくなりそう」


そう呟く自分の声に、まだかろうじて正気を保っていることを知った。


視線の先に、貴族好みのカットガラスのボトルが3本。

シャンプーとトリートメント、ボディソープがそれぞれ置かれていた。


「女性を引き寄せるシャンプー?」

手にすると、ふんわり甘い果実の香りがする。

「確かに女性好みの香りだわ。桃のような、花のような。ギフトを使ったこんな仕事もあるのね」


「ギフトを隠さずそんな仕事に打ち込める人もいるのね」


少し羨ましい。

私は二度とこのギフトは使わないと決めて、ただ、普通の生活をしたいだけなのに。


大半の人が叶うその小さな夢は、なぜ自分には遠いのか?


甘い香りが全身を支配し、心がほぐれると共に、鼻の奥がツーンとして、涙と共に熱いシャワーが流れていく。


先ほど開けたピアスの穴が少しジンジンと痛み始める。

今までその痛みを何も感じなかったのは、緊張して痛みを感じなくなっていたからだったと実感する。


残った痛みが、自分がここにいる現実全てだった。


先ほどの爆破された船を助けなかった自分の判断を、仕方なかったで済ませてよかったのか。


いや、助けても私は、あるべき形を変えてしまう。

運命に逆らえば代償がある。


そう思っても残る罪悪感を、お湯の温かさがホッと溶かしてくれていた。





「すいません、先に入りました。ええと、お湯は入れ直されますよね」


私は風呂から出て、おずおずとゲオルクとグレイに声をかける。


「いや、俺も海水浴びちゃってるし、そのままでいいや。悪いけど、グレイ、先に入らせてくれよ。リリアーナちゃんは、グレイに髪を乾かしてもらって」


私の顔を見て少し赤くなりながら、そういってゲオルクは風呂場に入っていく。

グレイはその姿を見て少し苦笑いする。


「あいつ、濡れた髪の女に弱いのか? おい、こっちに来い。乾かしてやる」

「乾燥させる機械があれば自力でやりますよ」


そこまで子供じゃないと思う。

生粋の貴族女性ならメイドにさせるだろうけど、むしろお母様の髪を整える練習もさせてもらっていたのよ。


そう少し不満そうな顔をしてみる。


「ここでは、自分たちがみんな乾燥機だから」


グレイはその顔を見て、私の不満を感じたらしく手招きした。


私がそばに座ると、グレイが手を広げ、ふわっと暖かい風が吹き、多くの水球が浮かび上がる。

それをタオルでキャッチする。


「ええっ!もう乾きましたよ。お兄様すごすぎません?」

「魔力が多少あるならお前も鍛えたら出来る。」

「そんな!私が知らないだけで、みんな当たり前に出来ることなの?」

「ここの奴らは魔力を鍛え上げているから身の回りのことは大抵できる。普通の一般人だと、どれかひとつは特化してできる人が多いかな。貴族の場合は、人を雇い使うことを義務づけられているから使うことがあまりないが、学校に通うものは一通りやれる奴が多い」

「そうなのですね。」


今からでも習えるだろうか?

いや、そんな環境じゃなかったわと落胆した。


「貴族教育も受けたけど、どんなことがあるか分からないから、普通の人の生活に必要なことも教えてもらっていたの。でも、やっぱり外の世界は違ったのね」


自嘲気味に笑うしかない。

そんな私に兄グレイは自分のナイトガウンを渡してくる。


「ゲオルクは女には不自由していないが、体をこれで隠しておけ。夜着で過ごすのはあまりに無防備だ」

「わかりました」

「お前は家にずっといたからピンとこないかもしれないが、肉親の俺がいると言ってもここの環境も異常だからな。」

「そうなのですか?」

「当たり前だ。嫁入り前の女性が、兄がいるとはいえ異性がいるんだぞ。危機感を持て」


グレイは怒ったかのように、ギロっと私を睨みガウンを着るように強要してきた。風呂上がりで体は暖かくなっていたが、仕方なくガウンを着てボタンを留める。


それをじっと見て、やっとホッとしたようにグレイの頬が緩んだ。


「今日は大変だったな。お前が無事でよかった。これからどうなるかはわからないが、お前はきちんと持っている力を周りに共有して守ってもらう方がいい。」


おそらく生まれて初めて兄から優しい言葉をかけてもらったような気がする。

両親と私のことで、日々言い争っていたのは、今日のような日を迎えることを心配していたからなのかもしれない。


私は、目に涙が溜まり始め、肩を震わせた。


「わたしの......わたしのせいなの。」

「何が?」

「お兄様が知ったら、私を許さないわ。ごめんなさい。本当にごめんなさい」


私は、ボロボロと落ちる涙を拭うこともできなかった。

でも、お兄様にもこれ以上迷惑をかけられない。


「一度だけ、一度だけ力を使ってしまったの。だから、お父様も、お母様も以前と変わってしまったの。私の力は、使ってはいけないものだったのに、人の人生も変えてしまった。壊してしまったの」


「どういうことだ?お前、何に力を使った?」


グレイが慌てて私の両肩を持ち、目の色を変える。

それは怒りのような恐れのような。


でも、伝えないわけにはいかない。


「あ……あの」


その時ーーー


「久しぶりに優しい言葉でもかけるのかと思ってたら、グレイ、それじゃ尋問だ」


まだ体が濡れて腰にタオルを巻いたままのゲオルクが、私とお兄様のやり取りの後ろで声をかけた。


「君の力のことは、把握させてもらった。その話は俺も一緒に聞こう。のんびり風呂に入らせて欲しかったんだがな?」


ゲオルクは自分の耳たぶをちょいちょいと触る。


あ!


ぞわっとする。どうやら私のピアスは位置情報だけではない。音も管理されてるんだ。


二人きりではなく、兄と共謀する可能性も考えられていることを再認識し、私はゾッとするのだった。











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