4 私の素性
「リリア......お前なんでここに....」
懐かしい声は兄グレイのものだ。
思わず胸がいっぱいになる。
「お兄...」
呼びたい!
抱きつきたい!
でも、そう言いかけて、ハッとする。
お兄様が私の味方かも分からない。
私はごくっと息を呑む。
兄と私の関係は良いとはいえない
兄は、両親が私を隠して育てることを昔から強く反対して言い争っていたし、私には冷たい視線がいつも突き刺さっていた。
5才離れているし、貴族の子供達ならば必ず通う寄宿舎のある学校に行ったから接触時間もほぼない。
政府系の仕事についたといい、用がなければ家にも寄りつかない。
むしろ両親以上に、冷え切った関係だ。
「お前の知り合いか?」
尋問を行う男からそう聞かれて、グレイは一瞬言葉につまらせるが、キッパリ答えた。
「リリアは、その、認められていない妹だ」
「認められていない妹??」
周りのみんなが顔を見合わせる。
そして、みんな悟ったかのようにバツが悪そうな顔をする。
「そういえばお前の親父、離婚したんだったな、」
「そっか、すでに後妻さんに娘がいたからだったのか」
みんなの目が兄グレイに同情的な目に変わる。
居心地が悪くて、私は俯く。
自分が何かしたわけでもなければ、兄グレイとは実の兄妹なのにそれも伝えられない。
グレイはそんなわたしをみながら、慌てて手を振った。
「いや、後妻の子じゃない。俺とリリアも関係は悪くないから、気を遣わないでくれ。」
私は、兄が自分を妹だとハッキリ伝えてくれたことで、思わず兄を見つめる。
ホッとしたのと同時に、一気に力が抜け、疲労感に襲われる。
「えっ!じゃあ他にも愛人がいて子供までいたのかよ」
と誰かが囁く。
周りは決まり悪そうな目になり、私が侯爵家の庶子なんだろうという結論に達したようだ。
「ええと、あの船にゲオルクとリリアが乗っていたということか?なんで??」
「お母様に、あの船に乗ってブロア国で新しい人生を歩むように言われたの。」
私の声は震えていた。
「は?」
グレイはすごく不快な言葉を聞いたというように思わず聞き返してくる。
「厄介払いか?」
そう聞かれて、目から涙が一筋こぼれる。
グレイは、私のその様子で全てを悟ったのだろう。
拳を固く握りしめ、顔色がサッと青くなり、怒りからかこめかみがぴくぴく動いている。
「父上に、話をします。身分は、リリアーナの身分は自分が間違いなく証明出来ます」
そう周りに伝える言葉を聞き、私は慌てる。
「グレイ兄様、やめて。お父様は私を厄介払いしたってお母様から聞いたの。私が娘だなんて認めないわ。新しい方もいるんだし」
「そんなこと言ったって、侯爵家の娘がそんな真似をさせられるなんて!」
でも、お兄様はわかってないのだ。
私は兄グレイに決定的なことを告げた。
「侯爵家の娘じゃない。お兄様もわかっているじゃない。そんなことお父様だって認めないわ。私、生まれたことになってないんですもの」
グレイの顔が歪み、周りの人も慌てて聞く。
「えっ?君、戸籍ないの?」
私は頷く。
「私に戸籍をいただく方法はないでしょうか?母には隣国ブロア国で、記憶喪失の真似をしたらいいって言われたんですけど」
「えっ!記憶喪失!」
今度は、最初にこの部屋で私に尋問しようとした責任者らしき男が驚く。
「でも、ゲオルク様から、あの船はブロア国にそもそも行く船じゃないって聞いて、母は、船で誰かの物になれというのが本心だったようですけど」
私は、言葉にすると惨めで恥ずかしくなってきた。
親からそんな扱いを受けるような生まれの子だと思われているのだろうか。
私の希望は、ちゃんと新しい人生を自分で歩んで、力は生涯使わず生きていきたいのだ。
でも、身元を示すものがなければ、仕事もできない。
「ふむ、その侯爵様と色々あったんだろうが、君のお母様にも困ったものだ。移民などで無戸籍の者もいないわけじゃないが、この国では、全国民のギフトの力を確認した上で戸籍登録をする。」
尋問官は、淡々と私の目を見て述べた。
「君は自分がどんなギフトを持っているか知っているかい?」
そう聞かれて、いよいよこの質問が来たと思った。
私のギフトを伝えたら、おそらく私がなぜ戸籍がないのか分かるだろう。
両親は私を実子とは認めない。
グレイお兄様は?
私が話すことで迷惑をかけないかしら?
私は兄の顔を見つめたが、無表情だった。
ただ、わたしがどう話してもいいと覚悟を決めているように頷いた。




