37 被害者と加害者
私は、国王の懺悔を聞いていたが、私が知っている第一王妃とはかけ離れていた。
正直、第一王妃をよく言い過ぎなのでは?と思ったぐらいだ。
「あの、先日の第五王妃のお茶会で第一王妃様とお会いしたのですが、かなり物言いもきつい方のように思いましたし、第三王妃のことも、今でも良くは言われていなかったのですが......」
そう恐る恐る切り出す。
正直に言って、誰の話をしていますか?と言う感じだ。
国王は、力無く笑い、困ったように頷いて、ソファーの背もたれに自分の身を預けた。
「今でも彼女が第三王妃を悪く言うのは知っている。だけど、第一王妃が言うことで、周りのものは不思議とそこまで言わなくてもと第三王妃に同情的になる。
第四や第五王妃は、話は合わなくても、共通の敵がいるだけで結束するし、悪役を一人で引き受けているんだよね」
ああ、確かに...
あの時の自分の感情を思い出した。
私も亡くなった人のことをそんなふうに言わなくてもいいのにと、第三王妃に同情的になった。
そして見方によっては、第二王妃の不満をあの場に出すことで発散させている。
憎まれ役をわざわざ買っているんだわ。
「たしかに......侍女長には、母のことを一目置いていて、作り物ではない美しさがあったと褒めていたらしい」
ゲオルクも、眉を顰めて困惑を隠しきれないようだ。
「相手の不満をすべて彼女は受け入れる。そして、最後にその不満の美点をそっと周囲に漏らすんだ。不器用な人なんだって気づけなかったんだよね」
国王は、遠い記憶を思い出すように切なそうな表情をした。
「実は、侍従長に頼んだ第三王妃への贈り物も、周囲から批判されることがないような物を第一王妃が見繕ってくれていたらしい。お前の服もだ。見た目で、人は判断するからってね。」
「あのドレスよね?確かに、とても上質の良い物だったわ。宝石もいろんな大きさを贈られていたから、それぞれの服に合わせてつかえたはずよ」
私は頷くと、ゲオルクは更に困惑したようだった。
「母さんの踊り子の服もあったけど、俺の記憶は全部父さんが贈ってくれたドレスを着た母だった。でも、持っていた量も多くなかったし、散財する派手なタイプではなさそうだった。侍女も持っているものが少ないと話していたし......それに、母さんは毎日泣いて震えていたし、実際俺だって他の貴族の子から、嫌がらせを受けていた」
ゲオルクは国王の話す目のやり場に困る母親の格好に記憶はないと話した。また、第一や第二王妃に対して、父からの寵愛をもらえないことを馬鹿にしたり、物言いをはっきり言うという話に困惑しているようだ。
今まで、一方的に第一王妃たちにやられてきた可哀想な第三王妃だと思ってきたのだから、当然だと思う。
だが、国王はそこは明確に首を横に振り、ゲオルクをまっすぐ見つめていた。
「セリーナはゲオルクが思うような、細く倒れそうなか弱いタイプではない。むしろ勝気だったからこそ、そんなセリーナを王妃たちが追い詰めたと、怒り心頭で私は周りが見えなくなった。
セリーナが亡くなってからは、今度は彼女と似た性格の縁談ばかり降ってくる。彼女は第四や第五王妃と似たタイプだからね。」
それを聞いて、グレイと私は顔を見合わせた。
あの、悪びれない態度でお茶会を過ごす第四王妃や破天荒第五王妃と似た性格。
おそらく第三王妃は、国王から寵愛を受けたものが一番偉いと言われていたのではないか?もしくはそう思って嫁いだのかもしれない。
だが、平民で、王妃や貴族を王の寵愛のみで煽れば、どれほど反感をくらったか、その反感が予想外に激しく衝撃を受けただろうということは想像がつく。
「当初、私は第三王妃を殺したのは第一王妃だと思った。ヤコブや医師になんとか治らないかと頼んでいたと聞いても、なお、毒以外の方法で殺したのではないかと疑ったんだ」
国王は、苦しそうに顔を顰めた。
事実、第三王妃の死は、自分の娘であるカリーナ様のギフトであることがわかったわけで......
このギフトには、残酷なほどに無邪気な子供の願いが託されていた。
「当時、第一王妃はどのようにこの件を話されたのですか?」
「それが叩いた件以来、私は第一王妃と会話を交えたことはない......信じられないよね。」
えっ?それは相当の期間じゃないの?
ゲオルクのお母様が亡くなったのってかなり前じゃない?
もう20年は経つと思うけど......
ゲオルクも唖然としている。
だが、ヤコブが国王を庇うように口を開いた
「第一王妃は、男性恐怖症だったんだ。アレクもみんな知らなかったことだ。
王妃になるために、公爵から圧力をかけられ、ムチで叩かれるような教育を受け続けてきたらしくてね。
アレクが手を出したのをきっかけに、悪化してしまって、二人きりで部屋に入るだけで第一王妃は過呼吸を起こして倒れてしまう。」
あの自信に満ちた第一王妃が?
だが周囲が気づかないほど、恐怖と闘いながらも、淑女を演じていたのだろう。
国王は沈んだ表情で頷く。
「結婚して、ただの一度も優しい言葉をかけたことも、お礼も言ったことすらないんだ。結婚生活は地獄だっただろう。鉄仮面になっていたのは、恐怖を押し殺していたからだろうと後悔しているんだ」
その後悔は伝わってきた。
でも、必死で支えていた男性から突然平手打ちされて、罵られたんだもの。
第一王妃の心情を思うと、国王であっても同情できないわ。
ただ、心でそうは思っても、王に意見はできない。
当時の人たちもそうだったのかしら?
「第三王妃のことも「全ては私の不徳の致すところで、どのような罰も受けます」と書面でしか返ってこない。
だが、こうやってカリーナの作った香水が見つかった今思えば、そうカリーナに自分たちが願わせてしまったと責任を感じていたのかもしれない」
あのカリーナ様のギフトは、悪意というよりは願いだ。
わたしも第三王妃の悪口を言っていた両親の記憶がある。
カリーナ様は、それよりもっと身近だ。
自分の母たちが苦しむ姿を幼い身でゲオルクとは反対の立場で見てきたんだわ。
「私は、何を信じていいのかわからなくなり、いろんな人たちに今までのことを聞いて調べ始めた。
結果から言うと、第一王妃も第二王妃も、王宮内や社交界で、私を支え続けてくれていた。
第三王妃やゲオルクの二人が、他の貴族や子息と起こすトラブルも、彼女たちが頭を下げて歩いていた。知ろうともしなかった」
ゲオルクがトラブル?
今の紳士な行動からは想像もつかないのだけど?
ちらっとゲオルクを盗み見ると、思い当たるような顔をしている。
「喧嘩は......たくさんしたな。絡んでくるやつが多かったし、ジメジメしてるやつが多かったから、殴ってやった記憶もある」
ゲオルクは決まり悪そうに額をポリポリとかいた。
子供目線で見たら、向こうから嫌がらせを受けたと思うだろうが、王族が一方的に貴族の子息を殴るなんて御法度だ。
「いや、お前だけじゃないよ。いじめの話に繋がるんだが、第一王妃は、私が何も教えないから、第三王妃に貴族としての教育を受けさせようとしていた。
だが、第三王妃は私の寵愛がもらえない第一王妃の嫉妬によるいじめと受け取っていたらしい。でも、第一王妃は、そもそもが男性恐怖症だからね。お門違いもいいところだ」
そう言うふうに関係を悪化させたのは、愚王だった私なんだよとゲオルクに呟き、ゲオルクの肩に手を置いた。
「私は、第三王妃が亡くなった後、悲しみを第一王妃を嫌悪していることで昇華させているゲオルクを自分の手元で育てていく自信がなくてね。第一王妃が悪者ではないなんて、どう伝えたらいいか、その悲しみをどう受け入れてやればいいかわからなかった。
しかも、第一王妃からは、あんな状況に自身が置かれても、自分が面倒を見ると連絡がきていた。」
「それは......俺が拒否したんだ。寄宿舎付きの学校に入りヤコブの元で過ごすことも俺が希望した。」
ゲオルクも恨んでいた相手が、自分を気遣っていたことに気づき始めたようだった。
「第一王妃は、ずっと俺にまめに連絡してきて、お前の様子を気にしていた。間接的にお前をずっと守り続けていたよ。」
ヤコブは第一王妃がシロだと知っていたが、ゲオルクの気持ちを尊重して口には出さなかったんだわ。
「でもさ、カリーナのギフトはだんだん覚醒したってことかな?」
グレイは、ギフトって変化するのか?と疑問を隠しきれない。
「カリーナの第三王妃がいなくなればいいのに...そう思った気持ちは思いがけず強かったのかもしれないな。覚醒というよりは、ぼんやりかけていたギフトが、使うことで上手に明確に操れるようになってしまったんじゃないだろうか?」
カリーナ様が大泣きしている声を侍女は聞いている。
子供が母親を思って、ギフトで第三王妃を殺してしまったことを第一王妃と第二王妃は隠蔽しようとした可能性は高い。
ところが時が経ち、第五王妃が嫁いできた。
あの時のことをいつ誰に漏らされるかわからないカリーナ様の恐怖は半端ないだろう。
第一王妃は、そのカリーナ様の様子に不安を覚えたと言うことか。
「久しぶりに第一王妃が私の前に現れたかと思えば、手紙を押し付けて、去っていった。
そこに第五王妃に危険が迫っているかもしれない。彼女を守ってほしいと。押し付けたその手は、震えていて、それ以上は私も問えなかった。
私は、ギフトを解除できるものを第五王妃につけた。そして、毒を解除できるもの、最悪の場合、第五王妃を生き返らせることができるものをお茶会には準備した。」
それを聞いて、ギフトの解除できる人はお母様、毒の解除がヤコブさん、生き返らせる役割が私だったと知る。
「第一王妃の言う通りのことが起こったが、彼女のおかげで第五王妃を助けることはできた。
だが、今回は見過ごせない。第一王妃や、第三王妃の息子の婚約者を陥れようとした罪は重い」
国王はキッパリと言った。
「私は、第二王妃とカリーナに問いたださないといけない。
そこで、ゲオルクお前に聞きたい。お前はカリーナ、そして第二王妃も噛んでいるかもしれない場合、どこまでの処罰を望む?」
「父さんは?どう考えているんだ」
国王は、ふーっと息を吐いた。
「ギフトの悪用は許されない。私は、カリーナに自害を勧めないといけないだろうと思っている。連座といいたいが、公爵を敵に回せば政局は不安定になりかねない。第二夫人には遠い場所に隠居してもらおうと思う」
カリーナ様のギフトは私と同じ危険なギフトなのだ。
なのに、おまじないと思って、育ってきたから危機意識が弱すぎたのだろう。
今後も、誰をターゲットにするかわからないカリーナ様をそのままにしておくことは難しいだろうと思われた。
でも......自害しかないの?
私はゲオルクを見つめた。




