34 認められなかった子供
ここから家族編になりますが、恋愛編よりはR15です
「グレイ、リリアーナここは非公式な場所で私はただのヤコブの弟だよ。気軽に接してくれ。ね、ゲオルク?」
ゲオルクは、苦々しいものを見たような顔つきで、やけっぱちのように頷く。
本当なんだ。
この方が王様で、ゲオルクのお父様で、ヤコブさんの...
ん?
「はは、ヤコブの弟がなんで王なのか?気になる様子だな。
このことは、国の中枢を担っている第一王妃と、ヤコブに預けられていたゲオルクしか知らないことだ。それも含めて話に来たのだから、内密に頼むよ」
軽い雰囲気を醸し出そうとするが、ヤコブと一緒で目は笑っていない。
だが、いわゆる威圧的、重圧感のある王というより、気品あふれる貴公子という様子で、第四、第五王妃も、親子ほどの歳の差があったとしても抵抗が少なかっただろうという気がした。
「まずは、リリアーナ、息子が世話になったね。この子が、第三王妃のことを乗り越えて、第一王妃に縁談を依頼するまで、変わるとは思わなかった。礼をいうよ」
そう言われて、わたしは心にひゅっと冷たい風が通る。
その縁談を更に破談にしてくれと、すぐゲオルクが依頼したことを知っているからだ。
肩身が...狭い。
いやそれ以前に、ここで交際やそれに続くものは無理だと言われるに違いない。
ヤコブさんと話がつながっているなら、わたしはオルランド侯爵の娘だけど、管理対象のギフト持ちで、存在しない子供として育ったことも知っているはずだ。
「そんなに固くならないで。第一王妃は、リリアーナとゲオルクと仲直りしたと聞いて、ホッとしていたらしいから安心しなさい。第一王妃はリリアーナのことをとても気に入っているらしくてね。」
わたしが気に入られている?
虐めのようなお茶会しか記憶にないのだけど?
「君は、幼い頃からリアランスに徹底的な淑女としての教育を受けているんだろう。リアランスは、我々の世代では、目が合うだけで恋に落ちるものが続出するほど美しく、洗練された淑女だ。女性たちは煮湯を飲まされて悪く言うものもいたが、同時に憧れの存在でもあった。第一王妃は、ヤコブから君のことも聞いて知っているからね。
君がリアランスの再来のようだと目をキラキラさせていたらしいよ」
「そ、それは...ありがたい言葉だと思います。」
お母様の娘として褒められたことがないのでおもはゆい気がする。
だけど、それ以上に第一王妃は母とわたしの関係を知っていて、あれだけ自然に会話していたことに驚く。
「第一王妃は不器用なんだ。虐めているように見えたかもしれないが、ちゃんとゲオルクのパートナーとして申し分ないかチェックして、更に王妃が認めていることを流布して周囲に文句を言わせない。いつも悪役ばかり引き受けて損をしているがね。」
なるほど......確かに、あなたのことが気に入ったとみんなの前で言われたし、カリーナ様も第五王妃も、みんな好意的に変わったわね。
でも、偽装パートナーと知っていて、あのチェックはかなりハード......ゲオルクに変な噂が立ってはいけないと相当気を配っていたのかしら?
「ゲオルクは母の立場が弱いからね。第一王妃は、人の噂をかなり気にしている。
私は、そんな良妻賢母の第一王妃をとても信頼しているが、過去の軽率な言動で、彼女から私は信頼されていない。
そして、第三王妃や第五王妃の件でどう彼女が関わっているのかいまだにわからなくて調べ続けているんだ。」
国王の目は真剣だった。
第一王妃を良妻賢母といい、信頼していると言い切るのも意外。
ゲオルクも目を丸くしているし、グレイお兄様も困惑している。おそらくだけど、周囲の目から見て、そんなに第一王妃と仲良く見えなかったんじゃないのかしら?
でも、話だけ聞くと拒否しているのは第一王妃?
国王は私の戸惑いに、切なそうに笑った。
「それだけのことをしてしまったからね。
第三王妃が嫁いでから、いや結婚前から今に至るまで、第一王妃とはまともに話もできる関係じゃないし、私は彼女のことをずっと誤解して、軽蔑してきたんだ。
ゲオルクも知っての通り、第三王妃を害したのは彼女じゃないかと疑っていたからね」
「まだわからない。第一王妃がカリーナ姉さんと結託していたかもしれないじゃないか?もしくは、姉さんに無理やりやらせた可能性も捨てきれない」
ゲオルクは、睨みつけるように国王に言った。
国王は、静かに首を横にする。
「第五王妃に危険が迫っていることを何らかの形で知って、私に守るように依頼してきたのは第一王妃だよ。
だから、私はギフトを解除できるリアランス夫人を第五王妃のそばに配置できるようにしたし、毒を消すことができるヤコブにも動いてもらうことにした。」
ヤコブも、国王の言葉に頷いている。
それを聞いて、わたしとお兄様、ゲオルクはみんなで顔を合わせた。
「お前が疑うのは当然だよね。
でも、あれからいろんな人の話を聞いて、第三王妃の件も、第一王妃は無罪だと思ってるんだ。
第三王妃の件は、わたしが愚王だったからこそ引き起こしてしまった事件なんだ。」
そこまで言い、王は自責の念を語りはじめた。
◇
今から45年前───
我が国スルベトア王国は、大国レストリア王国と戦争の危機にあった。
「レストニアから宣戦布告があっただと!」
「それだけではありません。すでに海上には、魔法大砲を抱えた軍船は、我が領土を射程圏内にとらえています」
報告してきた兵の声は震えていた。
「期限、もしくは譲歩は?」
「期限は明日の夕刻まで、条件交渉には応じてもいいということです」
王は、レストニアの要求を受け入れるしかないと唸りつつ、その一方的な仕打ちに対して悔しくて拳を握りしめて、震わせた。
レストニアは海を挟んだ大国で、資源も豊富、産業も栄え、高い教育、能力を持ったものを多く輩出し、高い軍事力も持っていた。
他の国より頭一つ、どんな分野においても飛び出ている国だった。
王は外の風景を眺め、何も知らずに外で遊ぶ子供たちや、田畑を耕し、商売をし、汗を流し働く国民を見つめて目を閉じる。
全く勝てる見込みはない。
国民を逃がす時間もない。
また逃がせる場所もない。
「レストニアの要求はなんだ?」
交渉の中で、レストニアが求めたのは、国の資源や土地だった。
だが、それを奪われたら国民は生きていけないだろう。
苦肉の策だった。
「我が国の特殊ギフトを持つ管理対象者たちを、レストニアにすべて明け渡す」
それらを渡せば、国を栄える能力を持つもの、滅ぼす力のあるもの、未知の病を治すもの...我が国の未来を握るギフトが消えてしまう。
だが、国が滅ぼされたら意味がない。
レストニアはその条件を飲み、戦は回避されたが、王は、それが一時的とならないように和平の証が欲しいと告げた。
国が、大切なギフトを持った国民を差し出すのだ。
我々の国に手出ししないという確約が欲しかった。
「では、我が国の大切な第一王女をこの国の未来の王妃として差し出そう」
王は、息子に譲位し、レストニアの王女を王妃とし、結婚して平和は守られた。だが、結婚してすぐ問題が発覚する。
レストニアから来た王女は、元々、結婚直前の婚約者が存在した。王女のお腹の中には、すでにその婚約者との間にできた男の子を身籠っていたのである
◆
「まさか...」
わたしとグレイが口に手を抑え、言葉を失う。
ゲオルクはその話を知っていたのだろう。
目を伏せて聞いていた。
「そう、そのまさかだ。」
ヤコブは苦々しげに頷き、静かに目を閉じて私たちに話した。
「俺は、同じ母から産まれた王の兄だが、この国の先王の息子ではない。不幸にも男児で、さすがにこの国の王にはできなかった。レストニアにある公爵家の当主と王太后の間に産まれた子供だからな。
だから俺もリリアーナと同じく、この世界に存在しない人間なんだよ」
この世界に存在しない人間───
私にはヤコブさんの悲しみが痛いほど理解できた。
王家に生まれて、弟が王になる。
自分は、表舞台に王の息子として、もしくは王妃の息子として立つこともない。
かといって、レストニアにも自分の居場所がない。
それは、侯爵家に生まれ、徹底した貴族教育を受けながらも決して社交界やこの世に存在することがなかった自分とヤコブが重なってみえた。




