31 母の遺品
昨夜は更新を飛ばしてしまいすいません。
29.30話を再度更新しており、今晩は31話です。
完結までストック作ったので、本日から不定期更新です。
多分今夜、もう一回更新します。よろしければブクマでチェックをお願いします。
人払いを私がお願いした後──
そばにいた侍従が冷たく告げた。
「失礼ですが、部屋で二人きりというのは、リリアーナ様の評判にも影響があると存じます。他言は致しませんし、口を挟むこともありませんので、どうか私を室内に入れていただけませんか?」
最大限の譲歩を見せていることはわかっている。
だが、首を私は横に振った。
「ご配慮感謝いたします。ですが、ゲオルク様が信頼する侍従の方であっても、聞かせることはできない話があるのです。ゲオルク様、ちゃんとこれを最後にします。どうかよろしくお願いします」
私は今度はゲオルクから視線を外さなかった。
ゲオルクの顔が、ハッとしたような表情に変わり、目が見開かれる。
周囲を気にするように、私の肩を抱えて
「周辺の人払いをしろ。私が許すまで、お前も一歩たりともこの部屋には近づくな」
そう一言告げる。
「で、ですが...」
侍従が食い下がろうとするが、さらに低い声で、
「大切な話を彼女とする必要がある。下がれ」
ゲオルクがそう伝える声に、私はぶるっと震える。
だが、声とは裏腹に、私の肩を抱える手は優しく、震えを感じるとそっとさするように肩を撫でた。
「失礼しました。差し出がましいことをお伝えしまして」
「いえ、ごめんなさい。」
侍従の反応が当然で、申し訳なくなる。
ドアを閉められ、二人きりになると今度はその静寂に押しつぶされそうになり、必死に淑女になろうとしても震えが止まらなかった。
「すまない。リアを拒否していたわけじゃなくて...その...ちゃんと帰って伝えようと思っていたんだが...実は」
ゲオルクが言葉を選ぶように、私に声をかけた。
私は、頷いてゲオルクに微笑んだ。
「大丈夫、第五王妃との面談で聞いたから、気を使わないで。第一王妃に、良縁を依頼したと聞いたの。ゲオルクがちゃんと、前を向いて幸せになろうとしているって......その、わかってるの」
「あ...ああ、そっか、もうそこまで噂が回ってるんだな。そうなんだ。その、この後のリアの評判も気になるし、次に迎える人にも不誠実になりたくないんだ」
ゲオルクも、困ったように、私に少し視線を下げて微笑み返した。
「そうね、早くその、要件をお伝えしないといけないんだけど.....その...飲んでたの?」
ゲオルクからは少しアルコールの香りがして、机にはお酒の瓶とコップが置かれている。
ゲオルクがお酒を飲んでいる姿は初めてみる。
今までお部屋でも、ジュースすら飲まなかったのに。
やっぱりお母様のことを思い出すのが辛かったのかしら?
私がお酒の瓶に目線がいくのを見て、ゲオルクは、恥ずかしそうに急いで片付けた。
「汚くしていてすまない。仕事らしい仕事はないし、意外と母さんのものは、少なくて、あっという間に片付けが終わって、昔を思い出して偲んでたんだ。」
そう言って、片付けたテーブルに箱を持ってきて、私にその箱を見せる。
「あっけないよね。ドレス一枚と、踊り子時代の服、そしてこの箱で終わりだ。そうだ、よかったらリアも一つもらってくれないか?母上の貴金属なんだが、リアは自分のものを何も持ってないだろう?」
ゲオルクはそういいながら箱の中から宝石箱を取り出した。
そこには、大きな宝石のブローチや小さな細工の美しいネックレス、装飾の素晴らしい宝石が多く収められている。
「だ、だめよ!こんな高価なものいただけないわ。それに、つけて歩いたら、それこそゲオルクの奥さんになる人に嫌な思いをさせてしまうわ」
私は、金銀宝石がチカチカする箱を見てギョッとする。
量は多くないが、一つ一つはかなり高価なものだとすぐにわかった。
だが、箱の中には、まだ宝石箱以外に小箱がある。
「この箱は...?」
「これは、母さんが使っていた化粧道具だよ。カビだらけでね。それこそとっておいても仕方ないんだ。だけど、母さんは自分で染料などを使って、貴族の好む化粧はしなかった。自分の美しさを崩さない人だったからね。母さんの譲れないところだったのかなと思って捨てられなくてさ」
私は、頷いて聞いていた。
第一王妃や第二王妃にどんなに嫌がらせされても、自分を貫いた道具だったのね。
「大切にする気持ちわかるわ。そうだ、もしよかったら、カビが消えて使える状態に戻るようにギフトをかけてもいいかしら?その.....以前、私は良かれと思ってあなたに幸せになれるように未来にギフトをかけてしまったでしょう。でも、人の幸せを勝手に決めてしまってはいけないってお兄様からも叱られたの。だけど、これは使えない原因を消すだけだから」
私は、そこまで言って、逃げて帰りたくなった。
でも、自分の想いも伝えられてなければ、カリーナ様が作った香水のことも聞けていない。
「ふふっ、相当グレイにやられたのかな?泣きそうになってる、大丈夫だよ。君が純粋に俺の幸せを願ってくれた。それだけで心が暖かくなる。何も君は気にしなくていいんだ。
そうだね、もし、使える状態に戻るなら、せっかくだから母さんの化粧品は君がもらってくれないかな?」
私は顔を上げて、びっくりする。
「そんな大切なものを...ダメよ。使えるようにするわ。そうしたら、ゲオルクの奥様も使ってくださるわよ」
「うーん、例えばさ、ここに母さんが使っていたドレスがあるんだけど、ちょっと見てくれる?」
ゲオルクは、そのまま歩いてクローゼットから一つのドレスを持ち出してくる。
それは、年数が経っているにも関わらず、色落ちもなく、とても上質な絹のドレスで大切に保管されていたと思われた。
「素敵な品だわ。これ、とても丁寧に保管されているし、色も落ちてないし、刺繍やレースも素敵な品だわ。」
ゲオルクは、そう伝える私に嬉しそうに頷いた。
「そう言ってくれると母さんは喜ぶだろうけど、これを大切に維持してくれたのは第一王妃なんだ。」
そう言われ、私は凍りついてドキッとする。
「だ、第一王妃様が?」
ゲオルクのお母様の殺害や第五王妃殺害未遂に関与した可能性がある第一王妃様が、どうして遺品を大切に?
「なんで、母さんを虐めまくっていたあの人がって思うよな。でも、埃一つ被らず、かといって何も動かさず大切にこの部屋を守ってくれていたんだ。
ただ、こんなドレス......流行からも外れてるし、欲しがる人なんて...」
「そんなことないわよ。あ、でも、私、流行は全くわからないの。だけど、お母様との思い出が詰まっていて、こんなによいお品ですもの。きっと、ゲオルクの奥様になる方も喜んで使ってくださるんじゃないかしら?もし、サイズ的に着られなくても、思い出として大切に保管した方がいいと思ってくださるはずよ」
ゲオルクは、「やっぱりな...」と呟く。
「何がやっぱりなの?」
「いや、リアならそう言ってくれる気がしただけだよ。でも、大半の女性は、しかも流行を競い合う社交界のほぼ全女性は嫌がるだろうね。
母親の使っていたドレスや化粧品を活用して欲しいなんてマザコンもいいところだよ。宝石であっても石以外の装飾は変えさせて欲しいというだろうね」
「そうなの?ごめんなさい、私、流行とかそういった常識がないの。服は今まではお母様が用意していたし、今はヤコブさんの支給でしょ。そういうのがわからなくて...」
わたしはしょんぼりしてしまう。
どんなに淑女になっても、第五王妃のいうとおり、世間を知らなすぎるのだ。
遺品も、良い品かどうかはわかるけど、流行かどうかはわからない。
「ううん、君の言葉が嬉しかったんだ。だからね、化粧品は使える状態に戻して君が使ってくれないかな?君が使ってくれるだけで、俺は幸せなんだ。最高に綺麗になった君を見るだけでね」
そう耳元で囁かれ、わたしは真っ赤になる。
「見てもいいかしら?」
わたしはそっと化粧品の箱に触れる。
「うん、ぜひ。ただ、カビだらけだからね」
そう言いながらあけた化粧品と一緒に.....
わたしは瞬間、息が止まり、時間が止まり、心が潰れそうになる。
箱の中はカビがあちこちに蔓延っている。
その中に、幼いカリーナ様が作ったと思われる香水の容器が、一緒に収められている。
指先の血の気が引く。
これが......これが、ゲオルクのお母様の命を奪った......
いえ、きちんとこれを調べないとまだわからない。
わたしは、ぎゅっと、拳に力を入れる。
そして──ゲオルクの前で、
「この化粧品や道具が全てゲオルクのお母様が使っていた時と同じ状態に戻りますように」
化粧品箱を握りしめ、そう願う。
すると、カビが消え、化粧品の変色が戻り、煤けた鏡の輝きが戻り、そして、カリーナ様から渡された香水もその時と同じ状態になったはずだ。
「懐かしいな。再びあの時と同じ状態に戻るなんてね。俺は、この化粧品を触って綺麗になっていく母さんを見るのか好きだったんだ」
ゲオルクは嬉しそうに言った。
「これ、いただいていいの?」
わたしは震える声で聞く。
「もちろん、リアが使ってくれるなら本当に嬉しい」
そう笑顔で破顔した顔を見ると、わたしは心が苦しくなって、息が止まりそうになった。




