10 他の人にはない力
「二人を助けた結果、本来の二人が抱えていた問題が出ただけで、お前のせいじゃない。」
グレイの声は低く、はっきりとしていた。
「でも...私が、ギフトを使ったから....お父様が変わってしまったんじゃないの?」
私は恐る恐るきく。
しかし、それはないなとお兄様は小さく息を吐いた。
「シルビアと父上の関係は、もう数年になる。」
私は、信じられないことを聞いた気持ちになり胸がぎゅっと締め付けられる。
今まで見ていたあのお父様の笑顔はなんだったの?
「屋敷で出会ったのも、お前のことを誰かから嗅ぎつけてわざと会いにこようとしたんだろうね。母上が怒っていたのはそういうことだ。」
「誰かって?」
「父上本人かもな。」
私はひくっと喉を鳴らした。
「だから...馬車の事故...」
呆然と呟くと、ゲオルクが肩をすくめ、
「えげつない話だよね。正妻と隠している子供をまとめて処分しようと企むなんて」
「で、でも...お父様は知らなかったんだわ」
私は、あの優しかった父が、悪い女性にだまされたのでは?と疑ってみる。
しかし、お兄様の反応は違う。
「母上とお前を処分しようした事は、事故に遭ってるわけだから知らなかったのだろうな。」
グレイは淡々と考えたことを告げる。
「ただ、母上と一緒にオペラに行ったのは、オペラ会場で母上とシルビアが鉢合わせするのを恐れたからだろう」
「事故で自分とわたしが殺されそうになったと知ったから母は変わったのかしら?」
ゲオルクは「いや」と首を振った。
「グレイとは寄宿舎時代からの腐れ縁なので、知っているが、仮面夫婦だったからね。奥方も、その......言いにくいが、一途とは言いにくかったようだし」
「えっ?お母様が?まさか!」
わたしにとっては、淑女の見本だし、そんなこと使用人たちも....
いや、聞かされるわけがないのか。
「後継を作った後はそれぞれ奔放に生きる夫婦は多いよ。ただ、我が家の場合は、お前を隠していただろう?それで、夫婦それぞれ好き勝手をしたら碌なことにならない。最初の頃は二人も仲のよい夫婦だったようだからなんとかなると思ってたんだろうが」
結果的に父は、私を殺そうとした愛人を選んだ。
母は、自由を選んだ。
私は.....これからどうするべきなの?
「リリア、俺はお前があの両親のもとで歪んだ思想を持たないか心配だった」
「...歪まないわ。だって、それが嘘の世界でも幸せだったのよ」
グレイは頷く。
「そうだ。俺が、勝手にお前が歪み、そのギフトを悪い方向に使わないか一人で恐れていた。だが、お前の話を聞くと、使ったのは一度だけ。しかも、自分のためではない。」
そう言って、辛そうな顔をした。
「お前がギフトを使ったことと、二人が変わったことは無関係だ。あるべき姿に戻ったと思ったらいい。責めなくていいんだ。」
「すごいよねえ。俺だったら、もっと色々自分が得するように使うけどなあ」
ゲオルクがうんうんと首を振る。
グレイが、再び私の目を見て語りかけてきた。
「管理されるというと恐怖だろうが、俺たちも職業柄管理されているようなもんだ。新しい戸籍を作って、管理された中で、お前がいいと思うことに対してだけ、そのギフトを使ってみないか?」
「えっ!使うのですか?」
使うなと言われると思っていたのに、使う?
え?
どうやって、何に使うんだろう。
そう言われると、思いつかない。
「欲がないなあ。例えばさ、目の前にチョコレートがある。」
チョコレートを想像してみる。
チョコレートがあるわ。
「でも、俺がそれを食べちゃった!許さない!わたしが食べられるようにしちゃえ!」
ゲオルクがにやっと笑う。
「まあっ!」
思いつかなかったわ。
そんな便利な!!...待てよ?
「でも服が入らなくなりませんか?」
「ほら、欲がないんだな。」
ゲオルクが、ゲラゲラ笑う。
むーっ!
「そ、そうはいいますけど。ほ、他にはどんな?どんな結果を変えたら便利かしら?」
「そうだなあ。ほら、そこに花が一輪飾ってある。」
私はゲオルクが指差す方向を見る。
いつの花?というぐらいミイラ化している。
飾ってある.....のかしら?これのことだろうか。
「それが、綺麗な花であればいいだろう。元に戻って!と願ってみたらどうかな?」
たしかに、綺麗な花の方がいいわよね。
でも、これはもう終わった花。
終わった...あれ?
何か引っ掛かる。
「思ったんですけど、今回はお父様とお母様を助けることが出来たんですけど、いつまで助けることってできるのかしら?死なないでと願ったら、延々と行き着く先はミイラじゃありませんか?」
「たしかになあ。その時も、死ぬことはないように願った結果がチケットの焼却だったんだよな。つまり、原因の除去か」
「仮定だけど、きっかけとなる原因を取り除くことはできる。だけど、老化とか、取り除けないものには無効とか...じゃあさ、あの花も無効なんじゃないか?飾って、終わった花だ」
3人は顔を見合わせる。
「試してみるか?」
「つ、使ってもいいんでしょうか?」
「どうせ管理されるんなら今のうちにやってみてもいいんじゃないか?」
私はドキドキしながら花に触れる。
もう花びらもない。
「元の花にもどる!」
ぐっと祈る
どう?
えっ!!
「は、花が消えたんですけど...」
「あっ!もしかして??」
ゲオルクが、そばにあった連絡機で花壇を確認してくれと伝えている。
しばらくしてーー
「その枯れてた花、花壇から切る前の状態で咲いてるってさ」
「まあ、確かに切らなければまだ咲いてたよな」
グレイががくっと力が抜けたように、苦笑いした。
「ギフトを使わないって思うとしんどいからさ、こうやって管理された中で使うことにシフトしなよ。ちなみに、うちの組織は、そんなギフト募集中だってさ」
ゲオルクが、通信機から聞こえるヤコブの声を伝えてきた。
「ぜひ!ぜひ女性が欲しいと伝えろ!!ぴー!ガーー!」
雑音と共に通信機からヤコブの声が響いていた。
こうして私は、架空の戸籍を作り、ギフトを登録して、兄と同じ政府系組織の職員として活動することを選んだ。
ずっと外に出たかった。
ずっと存在を認識されたかった。
ずっとギフトを隠し続けないといけないのだと思っていた。
でも、他の人にはない、私の力だ。
私は、私を見守ってくれるひとたちの中で、誰かの人生を奪うためではなく、大切な選択をするときのためにギフトを使うと決めたのだった。
ギフト編第一章が完結です。10話まで一気読みできます。
明日からは第二章スタートです!




