概念
先ほどの目の前で起きた圧倒的な力を持つ少女の戦い。
凄惨かつ爽快とも言える光景に恐怖すら覚えた。
だが、それ以上にサクラの力に魅了され強い興味を抱いた流鬼であった。
「で、どうするんだ?こいつらの死体。どっかで焼却でもするか?」
「ノープロブレムだよ、お兄さん!」
サクラはあっけらかんと答えた。そして掌から流れ出す自分の血を悪党等の死体にビシャッとかけた。
血は瞬く間に死体に広がり、全体を覆い尽くすと死体はジュワッと蒸発するように消えた。血痕だけがその場に残っていた。
「ふうっ!いやぁ、いっぱい血使ってお腹すいたぁ!今日の晩御飯はお肉かな?」
さっきの狂気じみた鬼神のようなオーラとは打って変わって、なんとも無邪気に言うサクラであった。
流鬼とサクラは壊れたテーブルや椅子、グラスや皿が散乱する店内の片付けを始めた。
流鬼は先ほどのサクラがこれまでしてきた仕事の件がどうしても気になっていた。
おもむろに言葉が出ていた。
「キミ、この店….というか仕事辞めないか?」
流鬼の発言にサクラは目を丸くした。
「ん?いや、なんで??」
サクラが驚くのも無理はない。
この世界は自由そのものだ。二十歳前だろうが性を売るも買うも人の勝手というものなのだ。
だが、流鬼には受け入れがたかった。
未成年ながら当たり前のように仕事として、しかも自ら店を作ってまで体を汚すようなことをして生きている少女が目の前にいる現実が、だ。
「…さっきの力、だ。俺がやってきた仕事はキミの力は存分に活かせる仕事だ。だから手伝ってもらえると助かる」
流鬼の提案にサクラは難しい顔をしていた。
「ん~。お兄さんの仕事って狩人ってやつ?ならお断りなんだけど。だってお金もらえりゃ誰でも殺すって仕事でしょ?」
「いやいや、狩人はさっきの奴らで俺は別だ。ちゃんと調べて悪人だけを始末してる。奴らと一緒にはしないでくれ」
サクラの勘違いを訂正して返した流鬼にサクラは続けた。
「そりゃ今のあたしの仕事が好きか?って聞かれたらどうだろ?って感じだけどね~。キモいお客さんなんて毎日だし。恋人や奥さんいるのに来る人もいるし。爺さんも来るし」
「…聞いてるだけで不快なんだが。」
やはり辞めさせたほうがいい。流鬼は強く思った。
「よし!キミは俺と来るんだ。決めた!」
「へ?あたしまだ行くって言ってないよ?」
「いーや!決めた!絶対に納得してもらう!キミの狂った概念は今日終わらせる!」
「うわぁ…パワハラだ…」
「言っておくがキミが男達から進んで受けてきた行為はハラスメントなんてもんじゃないんだからな?客もキミもイカれた概念で生きてきたんだ。キミには今日から変わってもらう。俺が変える!」
突如出会ったサクラという少女は自分の狂った概念と数年を生きてきた孤独な娘で、しかし図太くて異能を携えた最強で。
このカオスな世界での歪な出会いは地獄への入り口。
不穏な気配は此処彼処から近づいていた。