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「あたしサクラ。植物の桜って字で」




店の中に流鬼を招き入れた女性は唐突に名乗った。




「は?あぁ…名前な。流鬼。赤座流鬼だ。サクラか。キミの苗字は?」




苗字を聞かれた桜は苦笑いして「忘れた!」と言って背を向けた。




ソファーに座るよう促され、流鬼は紫色の高そうなソファーに腰をおろした。




店の中を見渡すと薄暗く、バーカウンターがあるものの、バーとして運営されている店の雰囲気ではない。




いくつかのドアがあり、『並』と書かれた部屋、『特』と書かれた部屋、『変』と書かれた部屋がある。




もちろん気になって仕方ない流鬼だが今は傷の手当てが先である。




桜に服を脱ぐよう言われて上半身を露出した流鬼を見て「へぇ」と桜が声をあげた。


流鬼の背中や腕がタトゥーだらけだったからだ。




「これはなかなか…お兄さんもそれなりにヤバい道通ってきたんだね?」




桜は楽しそうに笑うと流鬼の隣に座って傷口をじっと見つめた。




「弾は貫通してんだね。傷は酷いけど、これなら治しやすい」




そう言うとサクラは果物ナイフを取り出し、自分の指先を切った。




「!?おい、何して…!!」




流鬼はサクラの奇行に驚いて少し身を引いた。




「まぁまぁちょっとこっち来なよ。すぐわかるからさ?」




流鬼はちょいちょいと小さく手招きするサクラに言われるままに渋々とサクラににじり寄って座り直した。


サクラの指先からは血が滴り落ちていた。やや深めに切ったようだ。




「じゃ治療始めるね」




サクラは指先を流鬼の傷口に軽く押し当てると撫でるように血を塗り始めた。


すると、たちまち痛みは無くなり、傷口はふさがっていった。




「これは…お前、異能者か。店の雰囲気から普通だとは感じなかったが。そうか…」


少し驚きつつも納得しながら流鬼は自分の傷があった肩を擦った。




「っ痛っ!」流鬼の頭に痛みが走る。


そして、僅かに遠い記憶のような風景が頭に浮かぶ。


事件こそ起きるものの、国を治める者がいて、ルールを定める者がいて、ある程度の治安が維持されている。悪さをすれば捕まえる者がいる。


そんな日本の風景。




「どしたの?頭痛むの?」頭を押さえている流鬼にサクラが問う。


「いや、大丈夫だ。あまり寝てないからな。疲れが出たんだろう。それよりキミの異能だ。さっきの力を見たところ回復、治癒の力だよな?しかもかなり特殊で強力な」




サクラは少し難しい顔をして答える。




「うーん、まぁ回復も出来るよ?って感じかなぁ。その時その時の使い道で色々できて便利な力?って感じ…かな?」




何か他にもあるようだがなんとも曖昧な表現でかわされたような気がする。が、優れた力であることは間違いない。




「で、この店は?何の店なんだ?今いるここはバーみたいだが。あの妖しい3つの扉は何の部屋なんだ?」




「ここはお酒飲むところ。あの3つの部屋は男の人といろいろする部屋?かな?」




流鬼の問いにサクラはまた少し曖昧な表現で返してきた。




「いや、だからいろいろって何だよ?」




「いろんないわゆる性的な?」




サクラから思わぬ返答を食らい、流鬼は飲んでいた水をブッと吹き出してしまった。




「ゲホッ….キミは….いくつなんだ?」




「18!まぁ初売りは15からだねー。もう3年おじさんで稼いでます!プロ娼婦兼SM嬢です!」




サクラの返答に開いた口が塞がらない流鬼はひたすら困惑していた。




何故こんなにも若くして性を売りにしていることをあっけらかんと話すのか理解できずにいた。




そんな時、ドンドンドンドン!と激しくドアを叩く音がした。


そしてバタン!とドアを乱暴に開けて男たちがズカズカと入ってきた。


『狩人』の奴らであった。




「邪魔するぞー!おっ、ビンゴ!いたいた」




流鬼を見つけたスキンヘッドの大柄で筋肉隆々の男がニヤリと笑って言った。




「探したぞ?赤座流鬼ちゃんよぉ?お前の命には5000万が懸かってるんだからよ。大人しく殺られてくんねーと困るんだよ」




ゴツいマグナムで自分の肩をトントンと軽く叩きながら男は流鬼の眼前に立つ。




「…友達?」「違うわ。奴の話が聞こえなかったか、キミには」




サクラのすっとぼけた質問に流鬼は怒気を交えて静かに突っ込んだ。




「おっ!サクラちゃんじゃん?こないだの夜は俺んちで世話になったねー!」




連中の一人である汚く髪を伸ばした男がサクラを見て軽いノリで言った。




「ん?あぁ、こないだの出張先のお客さんだ。狩人だったんだ。へぇ….」




サクラはちょっと複雑な様子で苦笑いした。




「おぉ、ここはそういう店だったなぁ?んじゃ、流鬼ちゃんとやらを殺った後はこの姉ちゃんとヤって帰るとするかぁ!」




スキンヘッドの男がマグナムを流鬼に向けてトリガーを引こうとした。




すると、サクラが流鬼の前に立ち塞がり、男たちをじっと見つめた。




「おいおい姉ちゃんよ、俺らはその兄ちゃんを殺るよう依頼されてんのよ。仕事の邪魔しんねーでくれるかなぁ?後でじっくり楽しもうぜ?金から払ってやるからよ」




「…臭う」




ニヤニヤしながら下品に話す男に向かってサクラが静かに呟いた。




「は?まぁ散々探して走り回って汗だくになったからなぁ。後で一緒にシャワーでも浴びるかい姉ちゃん」




「違う。あんたらに染み付いた血の臭い。今までお爺ちゃんやお婆ちゃん、小さな子供やそのお母さん。普通の男子学生。いっぱい殺してるよね?…そんな綺麗な血の臭いがする」




下品な発言を繰り返す男にサクラは先ほどの明るく少しとぼけた雰囲気とはまるで別人のような様子で怒気、殺気を漂わせた。




「なんだ?俺らとそっちの『殺る気』かぁ?んじゃ、ちょっとばかり痛い目見てもらうか!」




スキンヘッドの男がドスッとサクラの腹を殴った。


カハッと口から唾液を散らして腹を押さえて後退りするサクラを更に殴る男。


頬を殴られ、口の中が切れて血が流れていた。




「ふっ…ふふ…あははっ!いいね、容赦ないねぇ、おじさん!」




サクラは愉しげに笑った。口からは血が滴り落ちているが、余裕の笑みで男を嘲るように笑っている。




「いやいや、容赦はしてるつもりだぜ?せっかくの上玉だ。使えなくなったら勿体ないからなぁ!」




そう言って再度サクラに向かって拳を振るおうとしたその時、サクラが指で口の血を拭った。


そしてその血が付いた人差し指を男に向けて構えた。


ニヤリと笑って「バンッ!」とピストルを射つような擬音を発した。




バスッ!音と同時に男の額には弾痕が現れていた。




「はえ?」という間抜けな声を発すると男はその場で崩れ落ちた。




「へ?…ボス?」「なんだ?何が起きて…ええ!?」狩人の男たちがざわついていた。




「治癒だけじゃないのか!キミの力はいったい


…」


自分の傷を治したサクラの力の予想外の使い方に流鬼も驚いていた。




「あたしの能力は血の…性質変化とでも言うのかな?強度、温度の高低変化。さっきの治癒はお兄さんの皮膚の質、血液型まで合うよう変化させて治したって感じかな?そして今あんたらのボスを撃ち抜いたのは強度を高めた血の弾丸ってわけ」




サクラが自身の能力をすらすらと話すと男たちは困惑しながらも殺気立ち始めた。




「よ、よくも殺りやがったな!死ね女ぁ!」




一斉に男たちがサクラ目掛けて攻撃をしかけた。


サクラはひらりと銃弾を数発避けて数人に平手で触れた。その掌には自身の血液が纏わせてあった。


すると、触れられた男たちがバタバタと倒れていった。


サクラが触れた箇所は赤い刃となった血液に貫かれていた。




「血の高質化、そして形状変化か…」


流鬼はサクラの力の凄味に圧倒されていた。




「さて…こないだお相手した時も今もあんたからは血の臭いしないなぁ?どして?」




サクラはさっきの『元客』、『現敵』である長髪の男に殺気を放ちつつ、笑みを浮かべて尋ねた。




「おっ、俺は殺ったことはない!信じてくれ!俺はただ金持ちのジジイやババアやガキの住所を流したり、時々拐ったりしただけ…」




次の瞬間、男の顔面をサクラが掴んでいた。




「逝きなよ」そのサクラの一言と同時に男は顔面を貫かれて倒れ込んだ。




「あ~あ、お掃除が大変だぁ」




悪人どもの屍だらけの店内で殺気が消えて気の抜けた声で言うサクラに流鬼は興味と少しばかりの恐怖のようなものを覚えていた。



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