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身体で受ければ良いんだよね

鬱蒼と木立の繁る原生林の中で、俺達はモンスターに襲われていた。


「ドラン、もう少し耐えて!」


メイジのメノウが魔樹の杖に魔力を込めた。

紺のローブが、空気中の魔力の流れにバタバタとなびく。

俺は腹に力を込めて、もう一度地面を踏みしめる。

人の丈ほどもある青顎虫の群れが、カチカチと硬い顎を鳴らし俺を取り囲んでいる。

その強靭な顎がタワーシールドを挟みこもうと構えた。

顎が開ききる瞬間、俺は逆に盾で青顎虫の一匹を押さえつける。

こいつらの顎は、挟むほうにはかなりの力を発揮するが、開きすぎた顎は、構造上閉じられなくなってしまう。

そのまま右手のスチールワンドを側面から振りかぶると、重たい質量攻撃を食らった青顎虫の左顎が吹き飛んだ。

俺の攻撃の隙をぬったのか、群れの一匹が不意に飛び上がると、魔法を詠唱するメノウを襲う。


「サルファ!」


俺が叫ぶと、メノウの背後に潜んでいたシーフが、飛び上がった青顎虫の下に素早く潜り込む。

そのまま頭上の虫の外殻の隙間に、メイルブレーカーを突き刺した。

巨大な甲虫の一匹は、関節をギシギシ軋ませると動かなくなった。

立ち上がったサルファは、青い体液を拭うと姿眩ましで再度気配を消す。


「ドラン!本当にいいのね!?」


魔法の準備が終わったメノウから赤黒い光が激しくほとばしる。

それを確認した俺は素早く受けの体制に入った。


「やれ!全力でぶち当てろ!」

「もう、どうなっても知らないんだから!『カオスボルト』!!」


メノウの杖から放たれた強力な魔力が、赤黒い尾を引き俺の方向へ飛んでくる。

タワーシールドを地面に打ち付け、さらにスチールワンドを支えに体勢を整える。


「オートスキル『避雷針』」


そのまま俺は即死級の魔法をタワーシールドに受けた。

刹那、全身の骨が砕かれそうな衝撃が身体に走る。暴力的な力の渦に、血管の全てが焼かれるようだった。

今まで受けたどんな魔法よりも鋭く、重たい一撃が、シールドから左手、身体を突き抜け右手に流れ込む。

そしてその勢いのまま、右手のワンドに力が集中する。


「セージスキル『広域化』!」


俺の身体を通りワンドに達したカオスボルトは、渦を巻きながら周囲に拡散する。

赤黒い迸りが、青顎虫の群れを次々と貫いて行く。

カオスボルトの嵐が収まる頃には、大量の甲虫達の死骸が周りに溢れ帰っていた。



依頼をこなした俺達は、ファインダー達の集まる調査ギルドで達成の報告、報酬の受け取りを済ませ、すぐ隣にある『人喰いうさぎ亭』で夕飯を食べることになった。


「しかしドラン、あんた本当にセージだったんだね、私はてっきりファイターかと思っていたよ」


ローブを脱いで、薄手の服?に着替えたメノウは、早速頼んだ麦芽酒を一気に飲み干した。

口の周りの泡を粗雑に拭う様は、あの繊細な魔法の練り方からは想像できない程荒れていた。

あまり酒を注文しないようにしておこう……。

胸元にボタボタと泡を垂らすので、俺は仕方なくハンカチを渡す。


「元々はセージの勉強をしていたんだけどな、成人の日に手に入れたスキルで全部ダメになったんだ」

「あんたのスキル……『避雷針』、だっけ?」


そう、魔法や遠距離攻撃、果ては呪いなど、様々なものを引き寄せる強制発動型のスキルだ。これを手に入れてしまった為に、俺が学んだ全ての魔法は自分にしかかけられず。

メイジの近くにいると全て攻撃を吸ってしまうという理由からパーティーにも入れて貰えず。

仕方なく身体を鍛えてソロで戦っていたのだ。


「俺はメノウの魔法もサルファの弓も引き付けてしまうんだ、依頼に誘ってくれたのはありがたかったけど、これで俺が渋った理由もわかっただろ」

「確かに無理矢理誘っちゃったのは悪かったわよ、でもあなた凄いわよ、私の『カオスボルト』を受けきって、ついでにあのキモい虫も倒しちゃったじゃない、ね、サルファもそう思うでしょ?」


テーブルの下から伸びて来たサルファの手が、片手で料理を掴みながら、もう片手でグッと親指を立てる。

受けきった、といってもかなりの重症をおったのだが……、タフネスブーストをかけていたお陰でギリギリ耐えれたのが不味かった。

この依頼が終わったらまたソロで活動しようと思っていたのに。

呂律の怪しいメノウが俺に提案する。


「ね、私達、やっぱりパーティー組みましょうよ」

「ダメだ」


俺は即答すると、テーブルに金だけ置いてその場を離れた。

宿の部屋に戻って服を脱ぐと、ポーションで癒えなかった傷口の手当てを始めた。

メイジとシーフ、頻度は違えど遠距離攻撃をする役職だ。そこに俺が混ざってしまうと、『避雷針』の強制効果で全てを台無しにしてしまう。

今日はたまたま広域化に成功したものの、こんな戦い方を続けていればいずれ、自分以外も傷つけるだろう。

ベッドへ腰掛け、裂けるように開く傷口を糸で縫う。

焼けるような痛みが走るが、あの魔法ほどではないと思った。

その時、部屋の扉が開いた。

メノウだった。


「やっぱり、傷残ってたんだね、大丈夫だって言ってたのに……」

「まあ……、生きているからいいだろう」


メノウはゆっくりこちらに近付いてくる。

ランタンの淡い光に照らされた彼女を、俺は素直に綺麗だと思った。

背丈は俺よりいくぶんか小さいが、薄明かりに浮かぶ顔は、優しい憂いを帯びた母のようにも、何かをねだる子供のようにも見えた。

赤く煌めく髪は絹のように艶やかで。

そして……、俺の身体をみてのびる鼻の下を隠しきれていなかった……。


「うほっ……胸板……」

「心の声が表に出ているぞ……」

「ま、まあ、いいからいいから、ほら、私こう見えてヒールも得意なの」


彼女の右手が、胸の傷口に優しく触れる。

暖かい魔力の熱が、裂けた皮膚を優しく閉じてゆく。

完全に傷口が塞がると、彼女はその痕を優しく指でなぞった。

酒に酔って上気した顔が、ゆっくり近付いてくる。

濡れた胸元が、ヒタリと触れる……。


「傷を治して貰ったのはありがたいが……、そろそろ自分の部屋に戻った方がいいんじゃないか……」

「……うるさい、今日はここで寝るの……」


ベッドの下にも誰かの気配を感じたが、何だか考えるのがめんどくさくなったので、今日は気付かないフリをすることにした。

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